琥珀色の戯言

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【読書感想】40代、職業・ロックミュージシャン ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
1980年代、バンドブームで青春時代を送ったオーケンも、気づけば40代。いまも熱いライブを見せつつ、ぶっちゃけ40代ロッカーの人生ってどうなのよ!?収入、健康、家庭、育児など、大人ロッカーズの“リアル”をオーケンが聞く。

目次(一部抜粋)
「この本はこんな本です」大槻ケンヂ
本書に登場する主なゲスト
大人の階段(二井原実
依存症と戦う(森重樹一
大人のコミューン(ファンキー末吉
運を呼ぶ!(宮原学
再出発(永島浩之)
大人の脱サラ(ヒダカトオル
ひとり活動(SION
大人の体力づくり(寺田恵子
40代の恋愛(ダイアモンド☆ユカイ
大人の受動モテ(森若香織
母の翼を見せる(中村あゆみ
子どものウソ(中村あゆみ
モテる性教育中村あゆみ
男の育児(橘高文彦
大人の親子道(宮田和弥
母の復活(渡瀬マキ
ブレのない人生(石川浩司
大人の仲直り(ROLLY

ロックミュージシャンという人たちが世の中に出てきた頃、みんな、彼らに熱狂しながら、心の片隅で、ちょっと疑問に思っていたと思うんですよね。
「でも、この人たち、いつまでこんなことをやっているのだろう?」


僕がまだ中学生だった頃、もう30年近く前になりますが、「ゲームデザイナー」「プログラマー」というのもそういう職業で、「35歳定年説」なんていうのがありました。
実際、あの頃のプログラマーたちが、いまでも同じように現役でプログラミングをやっているケースは少ないはずですが「最新の機械についていけなくなったプログラマーたちが、生活できなくなって苦しんでいる」というような話はあまり耳にしないので、管理職になったり、他の仕事をしたりして、それなりに生きているのでしょう。


この新書、『週刊アスキー』で連載されていた大槻ケンヂさんと、大槻さんと同世代のミュージシャン(40〜50歳代くらい)の対談を収録したものなのですけど、バンドブームの時代に、あれほど尖っていたはずの人たちが、家庭や税金の心配をしたり、アルバイトをしたり、病気や体力の低下に悩まされながらもオッサン、オバサンになっても音楽活動を続け、それを赤裸々に語っているのは、なんだかとても不思議であるのと同時に、読んでいて、「この人たちでさえ40年生きてればこんな感じなのだから、僕はオッサンになるのもしょうがねえよな」って、ちょっと勇気づけられるところもあったんですよね。


仲間同士での対談ということで、かなりリラックスムードになっていて、普段音楽雑誌には絶対にしないような生々しい話も出てきますし。


ダイヤモンド☆ユカイさんの「プロポーズ話」は、なかなか凄かった。

ダイヤモンド☆ユカイ:京都に行ってね。京都の”寧々の道”を歩いてたんだ。


大槻ケンヂ”寧々の道”って、清水寺に続く道ですよね?


ユカイ:そうそう、北の政所。豊臣秀吉の正妻、寧々のゆかりの道で。オレ、けっこう好きな場所でさ。そこがわりと険しい道なんだよね。足場も悪いしさ。


大槻:ハイハイ。


ユカイ:それで寧々の道を歩いているときに、なんかわからないけど、豊臣秀吉のシグナルを感じたんだよね。秀吉がオレを呼んだ!


大槻:秀吉のシグナルですか!?


ユカイ:秀吉がオレに言ってきたんだよ。「まあ、やっぱりいまのオレがあるのは、寧々のおかげだと。そのあと、淀殿で失敗したけど、やっぱりオレは寧々なんだ」と。


大槻:アニキ、今回も絶好調!!


ユカイ:そこで、ふっと道を見たらタンポポが咲いていて、そこから”タンポポ”って付けたんだ。


大槻:そうだったんですか!


ユカイ:それで思いきって、彼女に「オレの”北の政所”になってくれないか?」……ってね。


大槻:き、北の政所!?


ユカイ:そう(笑い)。

なんじゃこれは……
という話なのですが、結局このプロポーズが「成功」したというのですから!


なかには、こんなエピソードを話していた人もいました。
LINDBERG渡瀬マキさんが、2008〜2009年の「再結成」の舞台裏を振り返って。

大槻:LINDBERG、再結成したんだよね。どうでした。


渡瀬マキうん、でも筋少と違って去年1年間だけだったの。それで、再結成した1年はすごく楽しかったなー。きらびやかな世界をまた見せてもらって。


大槻:へええ! でも、1年間だけなんてもったいないよ!


渡瀬:それを言いますとね、1年やるにも、本当にすごく家族の協力が必要なんですよ、私、こまかいことを言いますと、復活した1年の間、三重県の鳥羽から実家の母を呼びまして。


大槻:お母さま……ばあばを鳥羽からお呼びした!


渡瀬:母にずっと家に住んでもらって。じゃないとレコーディングできない。地方ツアーにも行けない。なにもできないので。


大槻:ロックも大変だ!


渡瀬:子どもの塾の送り迎えからご飯から、なにからなにまでやってもらって。で、田舎にいる父はひとりですよ、1年間!


大槻:バンドのために!


渡瀬:それで、1年間父を支えたのは、近くに住んでいる妹家族。そして、妹家族を支えてくれる、ダンナさまの家族、みたいな感じで、話が簡単には済まないんですよ。


大槻:それは興味深いわ! 再結成の話は、たいてい男の人からばかりで、”母”の人の話って聞いたことなかったから。


渡瀬:あれが、1年っていう期限がなけりゃ、母もはっきり言って煮詰まりますわ。父と離れて、だれも友だちのいないところで、最初は孫もなついてくれず、母、何回も泣いてましたよ。


大槻:それもロックの一光景!


渡瀬:本当にもう、かわいそうだったもん。

あの「再結成」の陰で、渡瀬さんの家庭は、こんなことになっていたんですね……
ちなみに、当時はベビーシッターによる子供の虐待が話題になっていて、渡瀬さんが「身内じゃないと信頼できない」と考えていたことも、この「家族総動員でのバックアップ」の原因だったようです。
いや、それにしても、こういう生々しい舞台裏って、なかなか耳にする機会がないですよね。
これはたぶん、渡瀬さんに限った話ではなくて、同じようなことが「母親ミュージシャン」には起こっているのではないかと思われます。
もっと言えば、ミュージシャンに限らず、時間が不規則だったり、残業が必要だったり、出張の多い仕事をしている「お母さん」は少なからずいるはずですし。
そりゃ1年が「限界」だよなあ。


あと、「ミュージシャンとお金」に関する、こんな大物アーティストのエピソードも紹介されています。

大槻:物販重要! 命綱ですよ(笑)。筋少はタオルも売れるね。で、有名なのは矢沢の永ちゃんの話。「今日は何色が売れてないの?」って訊いて、「黒がイマイチです」ってことだと黒いタオルを首に巻いてステージに出るんだって。そうするとわーっと売れるんだって。

なんと生々しい!
ステマ(ステージマーケティング)かよ!
若い頃に訊いていたら、「幻滅」してしまったような話もけっこうあるのですが、いま、40代になった「アーティスト」たちのそんなエピソードは、むしろ微笑ましく聞けてしまうから不思議なものです。


そういえば、先日、車でラジオを聴いていたら、「ローリング・ストーンズは、チャーリー・ワッツというドラマーがいるにもかかわらず、サポートメンバーにもドラマーがいる」という話をDJがしていました。
チャーリー・ワッツさんも、もう71歳だそうです。
おそらく、昔のような演奏は、もうできないのでしょう。
それでも、ファンにとっては、チャーリー・ワッツがドラムセットの前にいてこそのローリング・ストーンズなんだよねえ。


死んで「伝説」になってしまう人もいるけれど、好きなミュージシャンと一緒に歳を取っていくというのも、案外悪くないのかもしれない、そんな気がしてくる新書です。

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