40代、職業・ロックミュージシャン 大人になってもドロップアウトし続けるためにキッチリ生きる、'80年代から爆走中、彼らに学ぶ「生きざま」の知恵 (アスキー新書)
- 作者: 大槻ケンヂ
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2013/04/10
- メディア: 新書
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内容(「BOOK」データベースより)
1980年代、バンドブームで青春時代を送ったオーケンも、気づけば40代。いまも熱いライブを見せつつ、ぶっちゃけ40代ロッカーの人生ってどうなのよ!?収入、健康、家庭、育児など、大人ロッカーズの“リアル”をオーケンが聞く。
目次(一部抜粋)
「この本はこんな本です」大槻ケンヂ
本書に登場する主なゲスト
大人の階段(二井原実)
依存症と戦う(森重樹一)
大人のコミューン(ファンキー末吉)
運を呼ぶ!(宮原学)
再出発(永島浩之)
大人の脱サラ(ヒダカトオル)
ひとり活動(SION)
大人の体力づくり(寺田恵子)
40代の恋愛(ダイアモンド☆ユカイ)
大人の受動モテ(森若香織)
母の翼を見せる(中村あゆみ)
子どものウソ(中村あゆみ)
モテる性教育(中村あゆみ)
男の育児(橘高文彦)
大人の親子道(宮田和弥)
母の復活(渡瀬マキ)
ブレのない人生(石川浩司)
大人の仲直り(ROLLY)
ロックミュージシャンという人たちが世の中に出てきた頃、みんな、彼らに熱狂しながら、心の片隅で、ちょっと疑問に思っていたと思うんですよね。
「でも、この人たち、いつまでこんなことをやっているのだろう?」
僕がまだ中学生だった頃、もう30年近く前になりますが、「ゲームデザイナー」「プログラマー」というのもそういう職業で、「35歳定年説」なんていうのがありました。
実際、あの頃のプログラマーたちが、いまでも同じように現役でプログラミングをやっているケースは少ないはずですが「最新の機械についていけなくなったプログラマーたちが、生活できなくなって苦しんでいる」というような話はあまり耳にしないので、管理職になったり、他の仕事をしたりして、それなりに生きているのでしょう。
この新書、『週刊アスキー』で連載されていた大槻ケンヂさんと、大槻さんと同世代のミュージシャン(40〜50歳代くらい)の対談を収録したものなのですけど、バンドブームの時代に、あれほど尖っていたはずの人たちが、家庭や税金の心配をしたり、アルバイトをしたり、病気や体力の低下に悩まされながらもオッサン、オバサンになっても音楽活動を続け、それを赤裸々に語っているのは、なんだかとても不思議であるのと同時に、読んでいて、「この人たちでさえ40年生きてればこんな感じなのだから、僕はオッサンになるのもしょうがねえよな」って、ちょっと勇気づけられるところもあったんですよね。
仲間同士での対談ということで、かなりリラックスムードになっていて、普段音楽雑誌には絶対にしないような生々しい話も出てきますし。
ダイヤモンド☆ユカイさんの「プロポーズ話」は、なかなか凄かった。
ダイヤモンド☆ユカイ:京都に行ってね。京都の”寧々の道”を歩いてたんだ。
ユカイ:そうそう、北の政所。豊臣秀吉の正妻、寧々のゆかりの道で。オレ、けっこう好きな場所でさ。そこがわりと険しい道なんだよね。足場も悪いしさ。
大槻:ハイハイ。
ユカイ:それで寧々の道を歩いているときに、なんかわからないけど、豊臣秀吉のシグナルを感じたんだよね。秀吉がオレを呼んだ!
大槻:秀吉のシグナルですか!?
ユカイ:秀吉がオレに言ってきたんだよ。「まあ、やっぱりいまのオレがあるのは、寧々のおかげだと。そのあと、淀殿で失敗したけど、やっぱりオレは寧々なんだ」と。
大槻:アニキ、今回も絶好調!!
ユカイ:そこで、ふっと道を見たらタンポポが咲いていて、そこから”タンポポ”って付けたんだ。
大槻:そうだったんですか!
ユカイ:それで思いきって、彼女に「オレの”北の政所”になってくれないか?」……ってね。
大槻:き、北の政所!?
ユカイ:そう(笑い)。
なんじゃこれは……
という話なのですが、結局このプロポーズが「成功」したというのですから!
なかには、こんなエピソードを話していた人もいました。
LINDBERGの渡瀬マキさんが、2008〜2009年の「再結成」の舞台裏を振り返って。
大槻:LINDBERG、再結成したんだよね。どうでした。
渡瀬マキ:うん、でも筋少と違って去年1年間だけだったの。それで、再結成した1年はすごく楽しかったなー。きらびやかな世界をまた見せてもらって。
大槻:へええ! でも、1年間だけなんてもったいないよ!
渡瀬:それを言いますとね、1年やるにも、本当にすごく家族の協力が必要なんですよ、私、こまかいことを言いますと、復活した1年の間、三重県の鳥羽から実家の母を呼びまして。
大槻:お母さま……ばあばを鳥羽からお呼びした!
渡瀬:母にずっと家に住んでもらって。じゃないとレコーディングできない。地方ツアーにも行けない。なにもできないので。
大槻:ロックも大変だ!
渡瀬:子どもの塾の送り迎えからご飯から、なにからなにまでやってもらって。で、田舎にいる父はひとりですよ、1年間!
大槻:バンドのために!
渡瀬:それで、1年間父を支えたのは、近くに住んでいる妹家族。そして、妹家族を支えてくれる、ダンナさまの家族、みたいな感じで、話が簡単には済まないんですよ。
大槻:それは興味深いわ! 再結成の話は、たいてい男の人からばかりで、”母”の人の話って聞いたことなかったから。
渡瀬:あれが、1年っていう期限がなけりゃ、母もはっきり言って煮詰まりますわ。父と離れて、だれも友だちのいないところで、最初は孫もなついてくれず、母、何回も泣いてましたよ。
大槻:それもロックの一光景!
渡瀬:本当にもう、かわいそうだったもん。
あの「再結成」の陰で、渡瀬さんの家庭は、こんなことになっていたんですね……
ちなみに、当時はベビーシッターによる子供の虐待が話題になっていて、渡瀬さんが「身内じゃないと信頼できない」と考えていたことも、この「家族総動員でのバックアップ」の原因だったようです。
いや、それにしても、こういう生々しい舞台裏って、なかなか耳にする機会がないですよね。
これはたぶん、渡瀬さんに限った話ではなくて、同じようなことが「母親ミュージシャン」には起こっているのではないかと思われます。
もっと言えば、ミュージシャンに限らず、時間が不規則だったり、残業が必要だったり、出張の多い仕事をしている「お母さん」は少なからずいるはずですし。
そりゃ1年が「限界」だよなあ。
あと、「ミュージシャンとお金」に関する、こんな大物アーティストのエピソードも紹介されています。
大槻:物販重要! 命綱ですよ(笑)。筋少はタオルも売れるね。で、有名なのは矢沢の永ちゃんの話。「今日は何色が売れてないの?」って訊いて、「黒がイマイチです」ってことだと黒いタオルを首に巻いてステージに出るんだって。そうするとわーっと売れるんだって。
なんと生々しい!
ステマ(ステージマーケティング)かよ!
若い頃に訊いていたら、「幻滅」してしまったような話もけっこうあるのですが、いま、40代になった「アーティスト」たちのそんなエピソードは、むしろ微笑ましく聞けてしまうから不思議なものです。
そういえば、先日、車でラジオを聴いていたら、「ローリング・ストーンズは、チャーリー・ワッツというドラマーがいるにもかかわらず、サポートメンバーにもドラマーがいる」という話をDJがしていました。
チャーリー・ワッツさんも、もう71歳だそうです。
おそらく、昔のような演奏は、もうできないのでしょう。
それでも、ファンにとっては、チャーリー・ワッツがドラムセットの前にいてこそのローリング・ストーンズなんだよねえ。
死んで「伝説」になってしまう人もいるけれど、好きなミュージシャンと一緒に歳を取っていくというのも、案外悪くないのかもしれない、そんな気がしてくる新書です。