火星での有人探査中に嵐に巻き込まれた宇宙飛行士のマーク・ワトニー(マット・デイモン)。乗組員はワトニーが死亡したと思い、火星を去るが、彼は生きていた。空気も水も通信手段もなく、わずかな食料しかない危機的状況で、ワトニーは生き延びようとするが……
2016年4作目。
2月9日のレイトショーで、2D・字幕版を観賞。
観客は僕も含めて10人くらいでした。
70億人が、彼の還りを待っている。
このキャッチコピーとともに、映画館で予告編を観たときには「この人、生きて還ってくるんだろうけど(じゃないと映画として成立しにくいだろうから)、さすがにこの状況は詰んでいるとしか言いようがないのでは」と思ったんですよね。
地球から遠く離れた火星で、水も酸素も食糧も限界があって、通信手段もない。
そして、ひとりぼっち。
その時点で、観客としては、もう「ノックアウトされている」ような感じなのですが、ようやく公開となり、見届けることができました。
まあ、「食糧1か月分!」とか宣伝ポスターには書いてあるのですが、それは「6人のクルーの1か月分」なので、「若干、話を盛っているのではないか」という気もしなくはないんですけどね。
しかしこれは、宇宙人か、未来から誰か助けにきてくれなきゃダメだろ、と。
「さあ、これから僕たちを助けにいかなきゃ!」
『ドラえもん』かよ!
(ちなみに、この『オデッセイ』は、そういうオチではないので念のため)
予告編を観た時点では、「火星にひとり取り残されて苦悩する男」の姿が描かれる、観ていて胸がしめつけられるようなドラマ、だと思っていたのです。
ところが、実際に観てみると、なんというか、ものすごく前向きで、明るめの作品になっているんですよ。
実際は、もっと苦悩するんじゃないかワトニー!
……って言いたくなるのですが、宇宙飛行士は、退かぬ!媚びぬ!省みぬ!
リアリティがない!というわけじゃなくて、どうも、宇宙飛行士というのは、「そういう人たち」みたいなんですね。
つねに、自分が置かれた状況で、何が最善かを考え、それに従って行動する人々。
そもそも、こんな絶望的な状況で、絶望されても、観客としてはどうしようもないし。
ただし、マット・デイモンさんの後半での「肉体」が、ワトニーの極限状態での苦闘を、言葉以上に語っているんですよね。
最近、『若田光一 日本人のリーダーシップ』という新書を読みました。
そのなかで、宇宙の専門家たちが『ゼロ・グラビティ』という映画を「実際の宇宙ではあり得ないことばかりで、ツッコミを入れながら観ていた」という話が出てきます。
ただ、あの映画のなかに出てきた、ジョージ・クルーニーが演じていたベテラン宇宙飛行士は、まさに「理想の船長」だった、と。
もちろん、宇宙飛行士とはいっても人間ですから、羽目を外したり、ヤケになったりすることもあるのかもしれないけれど、この『オデッセイ』では、あえて、「危機的な状況での人間の強さ」を強調しています。
ほんと、みんないい人ばっかりなんだよね。
せめて、映画では、サイエンスに、テクノロジーに、人間の強さや優しさに、そして宇宙に「希望」を描きたい、そんな願いが伝わってきます。
同じような「宇宙飛行士の危機』を描いた映画に『アポロ13』があって、僕はこの映画が大好きなのです。
『アポロ13』のほうは、実話だからすごいよなあ。
ああ、でも率直に言うと、この素晴らしい映画を観ながら、僕は「ひとつの命の価値」みたいなものについて、ずっと考えていたんですよね。
これだけのお金とリスクをかけて、「火星にとりのこされた男」をみんなが救おうとします。
しかしながら、世界では、空爆に巻き込まれて命を落とす小さな子供もいれば、その場にいただけで、通り魔の犠牲になってしまう人もいる。
彼を救うための費用を使えば、アフリカで、かなり多くの命が救えたはず。
同じ「ひとつの命」なのに。
劇中では「論外」とされたけれど、「他の宇宙飛行士をリスクにさらす」よりも「ワトニーを見捨てる」ほうが、合理的な選択なのかもしれません。
そもそも、宇宙開発にはリスクがつきものです。
スペースシャトルだけでも、チャレンジャー号、コロンビア号で、それぞれ7名の宇宙飛行士が命を落としています。
まあでも、ワトニーの帰還が、多くの人に希望を与えるものであったことは事実だし、結局のところ、人の命というのは等価ではないのかなあ、なんて。
いや、そもそも、等価だというのが「キレイ事」なんでしょうけどね……
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