- 作者: 野地秩嘉
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/10/17
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 野地秩嘉
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/10/20
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内容紹介
「何者か」になった人は常に「自分との約束」を貫いた。売れた物を毎日記録した柳井正、客を見ることを忘れない新浪剛史、「地方」で戦い続けた田村潤、一日も休まずコラムを綴る松本大、作詞のために酒をやめた秋元康、日々撮影への準備を怠らなかった高倉健……。稀代のインタビュアーが引き出す、成功者たちの血肉の言葉。次のステージを目指す若手必携のハンドブック。
高倉健さんへのインタビューなどで知られる著者による、「成功した人たちの、さりげないけれど光る言葉集」。
普通の言葉でありながら、心に残るそれをひとつ挙げよう。『幸福の黄色いハンカチ』という映画がある。主演は高倉健。冒頭のシーンで彼が刑務所から出所したばかりということがわかる。小さな食堂に入り、メニューをじっと見る。「ビールください」と言って、ビールを喉にしみ込ませるようにして飲む。もう一度。メニューを眺めて、しぼり出すような声で「しょうゆラーメンとかつ丼」と注文する。わたしにとってはこの「しょうゆラーメンとかつ丼」が名言だ。もし、わたしが刑務所に入って出てきたとする。食堂に入って頼むのはやはりこの2品ではないかと思う。そして、なぜか、「しょうゆラーメンとかつ丼」という普通の言葉が、わたしに勇気を与えてくれる。刑務所に入ったって、しょうゆラーメンとかつ丼があればコワいものはないと思ってしまう。そして、精いっぱい生きていこうと感じてしまう。
名言は人によって違う。名言集に載っている気のきいたセリフよりも、自分にとって大事な言葉を探したほうがいい。本書はその水先案内で、自分だけの小さなコンセプトと自分だけの名言を探すための手がかりだ。お仕着せの名言よりも自分だけの辞書を作る。そうすれば、人生で迷ったとき、救いになるし、前向きに生きていく気持ちになる。
成功者たちの「良い事言ってやろう、と準備してきた言葉」ではなくて、つなぎの会話のなかに出てきた、ふだん気をつけていることを拾い上げた名言集なんですよね、基本的には。
名言好きの僕としては、なかなか面白いコンセプトの本だなあ、と思いながら読み始めたのですが、読んでみた印象としては、「名言集に載りにくい名言」と「一般的な名言集に載っていてもおかしくないようなもの」が半々、という感じでした。
「名言らしくない名言」というのは案外見つけにくい、あるいは、さりげない日常会話のなかのひと言であっても、聞いた人が「これは!」と思うところは、ある程度共通している、ということなのかもしれませんね。
著者は、「いちばん好きな、小さなコンセプトの話」として、これを挙げています。
巨人番をしていた、ある新聞記者が私に教えてくれた。
「原(辰徳)さんはお父さん(原貢氏)の言葉を守っているんだ。だから過酷な戦いの日々を乗り越えることができた」
原監督の父は中学生だった息子が悩んでいる顔を見て、「いいか、これだけは守れ」と言った。
「ふとんのなかで物事を考えるな。もし、考えることが必要ならば、起きて、机の前に座って考えろ」
金、仕事、異性関係、他人からの噂話…、人生における悩みは多い。ふとんのなか、あるいはベッドに入って、眠りにつこうとするときに限って、そういった悩み事が頭のなかで膨れ上がる。悩みは悩みを呼び、考え込むうちにさっぱり眠れなくなってしまう。毎晩のように、それが続くと睡眠不足になり、判断能力も衰えてしまう。原監督の父親ははっきりとした対処法を伝えた。
「眠る前に考えることにロクなことはない。それよりも、さっさと体を休めて、どんなつらい状況でも健康体で、頭をすっきりさせて立ち向かうのだ」
これは、私がもっとも好きな小さなコンセプトで、悩んでいる人たち、特に思春期の若い人に伝えてあげたい。
ああ、これは確かに、大事なことだよなあ、と僕も思います。
「下手の考え、休みに似たり」なんて言いますが、睡眠不足だと判断力が低下したり、イライラして他者への接し方がいいかげんになったりしがちなんですよね。
それに、大概の悩み事って、一晩経つことによって、どうでもよくなったり、状況が変化したりするものです。もちろん、良い方向に行くとばかりは限らないのですが、とりあえず即座に対応すべきことがない、思いつかない場合には、自分のコンディションをマシにしておくことは、すごく大事です。
そこで「ふとんの中で、どうしても悩み事が頭を離れない」というのが普通の人間なのかな、とも思うのですが、それはもう、習慣化するしかないし、睡眠薬などを使用する、というのもひとつの手かもしれません(僕は寝酒は推奨しません。アルコール依存症の引き金になるので)。
ほんと、体力がないと、精神力を維持するのって、難しいんですよね。
眠れない当直とかをやっていると、つくづくそう感じます。
「神接客の男」と呼ばれる伝説のウェイター・齋藤尚之さんは、こんな話をされています。
ざくろグループでは「スタンドプレーのようなサービスはやらない」決まりがあった。
昨今、ホテルやテーマパークでは「サプライズサービス」を行うところが増えている。客に内緒で、突然、歌や踊りを披露したり、物品をプレゼントしたりするサービスだ。しかし、齋藤は「それはスタンドプレーだ」と考えている。
「ワービスは腕試しの場ではありません。いつも同じ接客をすることが大事なのです。
私がサービスマンとしていちばん嬉しい言葉は『サプライズでびっくりした、でも、ありがとう』ではありません。
『おいしかった。いつも通りだね』と言われることです。私たちは毎回、特別なことをしてさしあげることはできません。毎回、どなた様にも同じ味、同じ接客をいたします。ですから、『いつも通り』という評価がいちばん嬉しいのです」
神接客と呼ばれる齋藤でも接客のミスをしたことはあった。新人の頃はオーダーを間違えて、上司から怒られたという。しかし、彼が偉かったのは、原因を突き詰めて考えたことだった。そして、オーダーミスの原因はふたつあるとわかった。
「オーダーを復唱すること、メモを取ること。このふたつをちゃんとやらないと、イカスミとカラスミを取り違えたり、パスタの種類を間違えたりします。
たとえば、おふたりの方がいらっしゃって、ひとりがボンゴレ、もう一方がペンネ・アラビアータを注文されたとします。運んできたウェイターが『ボンゴレはどちら様ですか?』と聞いた時点で、それはもうミスなのです。お客様が注文したものをちゃんと覚えていないのですから」
僕も「サプライズサービス」をセールスポイントにされるよりも、こういう「いつも、どんなお客さんでも同じ味、同じ接客」という店のほうが好きです。
「サプライズサービス」って、もちろんうまくいけば感動的なのでしょうけど、押し付けがましくなったり、受ける側も緊張したり、気を遣ったりしなければならないこともありますし。
いまは、SNSなどで、「こんなすごいサービスをしてもらった!」と、拡散されることもあるのですが、そういうのを狙っているのではないか、と感じることもあります。
それはもう、「アピール」であって、「サービス」ではない。
あと、オーダーの復唱とか、メモを取るとか、当たり前のことですよね。お客としては「メモもとらずにオーダーを暗記しているなんてすごい!」と思うような店員さんもいます。
でも、齋藤さんは、「めんどうくさがらずに、あるいは、自分を過信せずに、基本を確実にやって、ミスの芽を潰すことが大事」だと考えているのです。
まあ、これって普通に「名言」だとは思うのですが。
藤原智美さんの「安易な形容詞は使わない」という話や、1960年から、サッカー日本代表のコーチをつとめたデットマール・クラマーさんが語った「人生最高の瞬間」、立川談志さん、ビートたけしさんの「弟子の育て方」など、その「言葉」だけではなくて、発した人についてのエピソードにも興味深いものが多くて、読み物としても楽しめる新書だと思います。
- 作者: 野地秩嘉
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/11/01
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- 作者: 野地秩嘉
- 出版社/メーカー: プレジデント社
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- 作者: 野地秩嘉
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