琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】わが投資術 市場は誰に微笑むか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

■話題沸騰 連続重版たちまち15万部突破!
個人資産800億円超。長者番付1位となった伝説のサラリーマン投資家・清原達郎。
咽頭がんで声帯を失い、引退を決めたいま、全人生で得た株式投資のノウハウを明かす
■新NISA完全対応! すべての投資家のバイブル誕生
私には後継者がいない。ならばすべてのノウハウを全部世の中に「ぶちまけてしまえ」という気持ちになった。今や株式市場は「個人が自由に儲けることができる市場」です。2024年からは新NISAも始まりました。「やらなきゃ絶対損」という個人にとっては夢のような制度です。(本書より)
株式投資に才能など存在しない。「自分の失敗からどれだけ学んだか」だけだ。


 2005年の「長者番付」で1位となった、「サラリーマン投資家」清原達郎さん。投資ファンドを運用してする立場だったので、「サラリーマン」とは言い難いような気はしますが、日本では「長者番付」(高額納税者公示制度)が2006年(2005年度分)から犯罪抑止やプライバシー保護のため廃止され、「最後の(公開された)長者番付1位」でもあったのです。

 その清原さんが、投資ファンドの運用から引退することとなり、これまでの投資家人生を振り返って書かれたのがこの本です。
 清原さんは咽頭がんで声を失っているため、編集者がインタビューして「聞き書き」するという方法ではなく、本人が書いたものを編集者とやりとりしながら何度も書き直したのだそうです。

 正直なところ、株式投資を5年くらいやっている僕にもかなり難しい内容がありますし、そもそも、個人投資家には真似できないところが多いのですが(清原さんも、「個人投資家向けのノウハウ本ではないと何度も言及されています)、読み物としてすごく面白かったのです。

 これで投資ファンドから離れる、ということで、金融業界(銀行や証券会社など)に忖度せず、コンプライアンスが重視させるようになる前に証券会社が個人投資家の利益は二の次にして、営業マンたちが自分の成績を上げるためにやってきた「テクニック」も赤裸々に語られています。

 野村證券の営業マンが、儲かる株を見つけて顧客に買ってもらったら2年で3倍になった。この営業マンは優秀なのでしょうか?
 答えは真逆です(これは決して今の野村證券の話ではありません。40年前の野蛮だった時代の話です。数々の不祥事を経て、現在の野村證券コンプライアンス重視の立派な優良企業に生まれ変わっています)。
 40年前、野村證券にこんな営業マンがいたら支店長に酷く叱責されていたでしょうねえ。「何で売り買いを繰り返しやらないんだ!!」「2年あれば100回以上売り買いして手数料を稼げるだろうが!」というわけです。100円で買った鉄鋼株を101円で売らせる。これが立派な野村證券の営業マンでした(繰り返しますが今は違います)。
 101円で売ると、手数料を差っ引くと儲けはごくわずかです。当時の野村證券は割安株など絶対に勧めませんでした。「高速回転商い」という手数料を手っ取り早く稼ぐ方法で勢いのある株を天井近くで売買するのです。40年前の野村證券には「顧客が儲けて自分も儲かる」なんて発想は微塵もありませんでした。
 当時の営業マンは「顧客を儲けさせた」という自慢は一切しませんでした。そんなことは自慢にならないからです。彼らの自慢は「顧客にどれだけ損をさせたか」「と「どれだけ部下をいっぱい辞めさせたか」の2つです。
 私は「客に損をさせたことを自慢する」ことに強烈な違和感と覚えました。野村證券の営業マンたちも最初は違和感を覚えたのだろうと思います。でも、研修や先輩の教育やらで、それが当たり前になっていったのでしょう(私が新入社員だった時の研修部長は、法令違反を犯して表に出て営業ができなくなった「切れ者」でしたし、その下の課長も顧客とトラブルになって裁判沙汰になったモーレツ社員でした。今では考えられませんが)。
 当時、私はヘッジファンドの存在について知る由もありませんでした。ヘッジファンドなど、まだほとんど存在しなかったからです。「顧客が儲かって自分も儲かるビジネスモデルって本当に非現実的なんだろうか?」と漠然と思っていましたが、具体的な案はありませんでした。この強烈な違和感が、後に私をヘッジファンドへと駆り立てた一番大きな理由だと思います。


 個人的には、こういう金融業界内部の暴露話や、清原さんがバブル崩壊リーマンショックなど、さまざまな修羅場に直面し、ギリギリまで追い込まれた時期の話などが大変興味深かったのです。
 清原さんは、「40年前の話」であることを強調しておられますが、予備知識がない状態で新NISAなどで投資を始めようとして銀行や証券会社に「相談」すると、手数料が高い(売る側が儲かる)金融商品を優先的に勧められることは、今でも多いと感じます。

 ネット証券が一般的になったおかげで、個人投資家も自分の判断で、安い手数料でリアルタイムで株の売り買いができる時代になりました。
 とはいえ、ネットで「投資を勧めているブロガー」も、見てくれる人のためではなく、広告を出してくれる業者や、クリックされると自分が稼げる金融商品の宣伝に熱心な人は多いのです。

 清原さんはかなり率直で良心的な人だとは感じましたが、それでも、「稼ぐ」ためには、かなり危ない橋を渡ってきたことも書かれていますし、綺麗事ばかりでは生き残れない世界なのです。

 アベノミクス以降の株高(コロナショックで一時株価が急落しましたが)やNISA制度で、投資ブームになっており、「投資は儲かる」「なぜこの時代に投資しないの?」という雰囲気がつくられていますが、そんな良い時代ばかりではないですし、清原さんでさえ、運営するファンドが危ない状況になって、個人資産の大部分を注ぎ込んだときのことを振り返っておられます。
 ちなみに、ファンドの運営の「本気度」を知るためには、運営者がどのくらい個人資産をそのファンドに投入しているかを見ると参考になる、とのことでした。
 確かに、自分のお金がかかっているとなると、それは「本気」にならざるをえませんよね。
 あと、ITやAI、環境問題などの「テーマ株」は、それが注目されるようになったときには、すでに「儲かるピーク」は過ぎている、とも仰っています。

 これまで店頭登録株をイメージした小型株のバリュー投資、成長株投資の話をしてきました。今ではスタンダード銘柄ですね。それとプライム市場でも機関投資家に相手にされていない中小型株が我々のターゲットとするバリュー投資のユニバースとなります。その中から成長株を見つけていくのです。
 それではマザーズ市場、今でいうグロース市場はどうなのでしょうか? マザーズ市場は1989年11月の設立以来、一度も割安になったことはありません。中身が冴えない割には高PER銘柄が多く、最悪の市場です。赤字のバイオ株など、見る価値のない株が多すぎます。

 日本で何かがテーマになると、決まって出てくるテーマ型投資信託はどうでしょうか?
 これは最悪です。「テーマが流行するまでに仕込んでテーマの絶頂期で売る」のではなく、絶頂期で投資信託をローンチし、すっ天井の株価でテーマ株を買いに行くのですから。
 今だとテーマは「AI」ですかねえ。我々もマクロ経済について考えることはありますし、テーマについても関心はあります。でも、どちらかと言うとテーマ型の投資信託のローンチに合わせて「空売り」の候補を探す時です。


 具体的に、あれを買え、これを買え、みたいな話は出てきませんが(だからこそ誠実な内容である、とも言えます)、投資に限らず、生き方のスタンスとして、参考になる話がたくさんありました。

 2020年2月、コロナウイルスが蔓延し始め、相場はジリ貧となっていました。そして3月19日木曜日午後2時、ついに相場の底が抜けました。パンデミックの恐怖がパニックを引き起こしたのです。バケツに大きな穴が開いたように一気に大量の株が投げ売られました。
 私は理屈抜きで「最大のチャンスがやってきた。これはラッキーだ。買えるだけ買おう」と本能的に動きました。人類がどんなに悲惨な目にあおうが、相場がそれを織り込んで暴落したら「買い」しかないのですよ。極端な例でいえば、小惑星が地球に衝突して地球が滅びるかもしれない時、ショートして実際に地球が滅んでも意味はないでしょう。全員死ぬので。でも、安値でロングしとけば軌道がそれて全員が助かった時、株価は何倍にもなって大儲けできます。日本が核攻撃を受けた場合でもショートではなくロングが正解です(もちろん株価が大きく下がっていればの話ですよ)。閻魔大王が私の夢で言いたかったこともこのようなことだったのでは(この章のタイトル「地獄の沙汰は持株次第」の意味は「地獄に落ちても有望な株を手放さず持っていればまた這い上がることができる」ということです)。


「ショート」「ロング」の意味については、こちらを参照してください、ものすごくシンプルにしてしまうと、「ショート」は株価が下がると儲かる取引、「ロング」は株価が上がるとプラスになる取引です。

kabukiso.com


 この本、「投資をこれから始めようという初心者」向けではなくて、「PER」「PBR」の意味くらいは知っていないと、読み物としても難しいと思います。
 確率論については、数式も含めての数学的な思考が書かれている章があって、僕も正確に理解できた自信はありません。
 ただ、「投資家」というのは、このくらい数学に強くて、物事を理論的・客観的にみている人たちであり、こういう人たちと「株式市場」という同じ土俵で戦うのは無謀だよなあ、とは感じました。

 小型成長株での投資を中心に清原さんは書かれているのですが、大損しても心が折れない胆力を持たず、数学的な思考力がない僕のような人間は「余裕資金で手数料が安いインデックス投資」が、やはり最適解なのだろうと、思い知らされもしたのです。


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