琥珀色の戯言

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【読書感想】朽ちないサクラ ☆☆☆


Kindle版もあります。

米崎県警平井中央署生活安全課が被害届の受理を引き延ばし、慰安旅行に出かけた末に、ストーカー殺人を未然に防げなかったと、新聞にスクープされた。県警広報広聴課で働いて4年、森口泉は、嫌な予感が頭から離れない。親友の新聞記者、千佳が漏らしたのか? 「お願い、信じて」そして、千佳は殺された――。県警広報課事務の私に、何ができる? 大藪春彦賞作家、異色の警察小説。


 杉咲花さん主演での映画化で、文庫が書店に平積みされていた、この『朽ちないサクラ』。
 そんなに話題になっていたのか、文庫化されているから何年か前の作品なんだろうけど、ノーマークだったな……と思いながら読みました(映画は未見です)。

 この作品、2015年に出ていたんですね。もう10年くらい前なのか。
 警察の人たちの行動に、一昔前のように感じるところがあったので、納得できる面もありました。

 あれこれ書くとネタバレになってしまうのですが、登場人物の「情と理」、そして組織の人間としての振る舞いには懐かしさとともに、心地よさもありました。
 ただ、正直なところ、「警察の広報課で働いている女性が、親友の死の真相に『刑事ではない立場』から迫っていく」という話だと思っていたので、読み終えて、「結局、主人公の森口泉はあんまり活躍していないのでは……」というのと、警察って、内輪の好意を抱いている相手とかだったら、こんなに情報を漏らしたり、頑張って捜査してくれたりするの?とも感じたんですよね。

 某新興宗教教団とかストーカー事件の要素が散りばめられているのですが、いろんな時事的なニュースを取り込みすぎて、なんだかごちゃごちゃしてしまっていて、動機にしても犯人周囲の行動にしても「本当にそんなことまでやる?」と疑問になってくるのです。
 「カルト教団」とか「公安」とか言うのも、すでに都市伝説化してきているというか、なんか「陰謀論」みたいなのは、この作品のほうではないのか、とも。
 
 著者の柚月裕子さんの作品、『盤上の向日葵』とか『孤狼の血』など、僕は大好きなんですけど、なんというか、意外な結末とかどんでん返しを狙いすぎた作品は、現実的じゃないというか、「どんでん返しのためのどんでん返し」になっているようにも感じるのです。


fujipon.hatenadiary.com
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『狐狼の血』の映画は、役所広司さんや松坂桃李さん、鈴木亮平さん、役者の凄さで成り立っている作品ではありますし、この『朽ちないサクラ』も、主人公の泉を杉咲花さんが演じていれば、けっこういい作品にはなるのかもしれません。
 柚月さんは、映像化しやすいというか「役者力」を活かしやすい作品を書く作家なのかなあ。

 僕はけっこう「どんでん返しが売りのミステリ」も「警察という組織を描いた小説」も読んできたので、この『朽ちないサクラ』は、ストーリーも、警察組織の暗部を描く小説としても、中途半端だな、と思いながら読んでいました。
 続編は、もう少し納得できる作品なのだろうか。
 
 それでも、読みやすくはあるし、あまり重くない、文庫でサラッと読める警察小説、人情小説としては、「悪くはない」という感じです。
 そもそも、映像化されやすい柚月さんの作品なのに、単行本から映画化まで9年かかっているのも「内容は評価しづらいけれど、映像化がずっと成功している作家だから」だったのかもしれませんね。

 あえてこの小説を読まなくても、配信で映画版を観ればいいかな、と原作既読となった僕は思います。
 あるいは、出張での移動で、何か1冊、というときに、ちょうどいいかも。


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