琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】面白いとは何か? 面白く生きるには? ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
人気作家が「面白さ」のメカニズムを考察。

仕事で面白いアイディアが必要な人、
人生を面白くしたいすべての人に役立つヒント。


(内容紹介)

本書では、
「面白さ」が何なのか、どうやって生まれるのか、
というメカニズムを考察し、
それを作り出そうとしている人たちのヒントになることを目的として、
大事なことや、そちらへ行かないようにという注意点を述べようと思う。

同時に、「面白さ」を知ること、生み出すことが、
すなわち「生きる」ことの価値だという観点から、
「面白い人生」についても、
できるだけヒントになるような知見を、後半で言及したい。
――「はじめに」より


 生きていると「面白い」と感じることもあれば、「つまらない」「退屈だ」「腹が立つ」ということもあります。
 ほとんどの人が「面白く」生きたいと思っているはずなのだけれど、どういう状態が自分にとって「面白い」のかをあらためて考える機会というのはなかなかありません。
 テレビでお笑い番組をみていて「面白いなこれ」って思うことはあるけれど、それが「なぜ面白いのか」と分析しようとは、なかなかしないですよね。
 「面白さ」を真剣に突き詰めるというのは、簡単でもラクでもない。
 人気芸人は、プライベートでは寡黙で愛想が悪い人が多い、なんて話も耳にしますし。

 でも、「面白い」というのは、誰かに与えてもらうだけのものではない。
 ひとつのものを研究し、その仕組みを理解するという「面白さ」もあるのだと、著者の森博嗣先生は仰っているのです。

 出版社に勤めていて、小説を扱っている編集者は、何故小説家にならないのだろう? 彼らはほぼ例外なく高学歴であり、文章を書く能力を確実に持っているし、どんな小説が当たるかも経験的に知っている。もしベストセラ作家になれるなら、出版社の給料よりも稼ぐことができるだろう。もちろん、編集者出身の作家は、現に何人もいるにはいるが、しかしほんの一部であり、百人に一人もいない。

 もっと注目すべきことがある。
 編集者の中には、数々のヒット作を手がけた、いわゆるカリスマ編集者と呼ばれる人たちがいる。大勢の才能を見出したことが彼らの業績である。つまり、応募してきた作品や作家に注目し、「これは売れる」という目利きができた。言い換えれば、「面白い」ものを誰よりも知っている人たちなのだ。でも、そういう人が自分で小説を書き始めることはまずない。僕が知っている範囲では一人もいない。面白いものがわかっていたら、すぐにも書けそうなものだが、どうしてできないのだろうか?
 そんなカリスマ編集者と話をしたことが何度もある。たしかに彼らは目利きができる。面白い作品が出てきたら、ぴんとくるものがあるそうだ。一目見て、その判定ができる。けれども、そうでない作品に対して、何がいけないのか、どう直せば良いのかは、的確に説明ができないという。
 技術的なことや、間違いを正すことは簡単だが、面白さが足りない理由を、具体的に説明できない。こういう作品を書いてほしい、と詳細に述べることもできない。設計図さえあれば、ものを作ることは可能だ。しかし、面白さを知っている人でも、そういった設計図が描けるわけではないのである。


 「面白い」を見分けることができる人でも、自分で「面白さ」を作れるとは限らないのです。
 面白さというのは、たぶん、確実に存在しているのだろうけれども、それを定量化したり、公式化するのは難しいのではないかと思います。
 「面白さ」を大別すると、「可笑しい」という「面白さ」と「興味深い」という「面白さ」があるのですが、同じ「面白い」という言葉で表現されてはいるけれど、これらは、異なる感覚ではないでしょうか。

 森先生は、自分にとって「今までの人生で『面白かったもの・こと』としてイメージするのは、「すべて自分で考えて作り出したもの」だとおっしゃっています。小さなものから人が乗れるものまで、何百台もの蒸気機関車をつくり、ラジコン飛行機を飛ばしてきたそうです。また、大学での研究も面白くてのめりこんでいたのだとか。
 

 作るためには、まず考えなければなりませんし、知らないことがあれば調べるし、わからないことは試してみる必要があります。それらすべてが、「面白いこと」になります。
 大事な点は、自己完結していることだ、と思っています。他者に見せたり、他者と競争したり、他者からの評価を受けたり、あるいは協力を仰いだり、ということをしない。それが、僕が考えている「面白さ」の基本です。

 森先生は、大勢で賑やかにやっていれば「面白い」というのは思い違いであることを指摘しています。
 むしろ、「孤独」な状態にこそ、他者に左右されない「面白さ」があるのではないか、と。

 間違いの根源は、「面白くない」→「寂しい」→「寂しいのがいけない」という連想にある。面白くないのは「つまらない」ことだが、「寂しい」からというわけではない。大勢がいて、遊んでいるときだって、面白くないことは多い。たとえば、つまらない式に出席したり、会議に出ているときなどは、大勢がいるはずだが、「面白い」だろうか? 寂しくさえなければ面白くなり、という考え方が間違っている。ここがずれている点だ。

 例を挙げるばら、読書が趣味の人は、一人で寂しい時間の楽しみ方を知っているはずである。一人になりたがるし、静かな場所を好む。そういう時間をもの凄く楽しみに待っているのだ。都会であれば、喫茶店で一人本を読んでいる人がいるだろう。彼らは、それがこの上なく幸せな時間だと感じている。
 傍から見ると「寂しい」状況に見えても、外部に向けて「楽しさ」を発散しない方が、「面白さ」はむしろ大きく膨らむのである。一人だから寂しい、寂しいから面白くない、というのは、単なる思い込みだといっても良い。
 この外部に向けて発散しないと「面白い」ものではない、という価値観は、今のネットでは、よく見られる症状といえる。インスタ映えしないものは面白くない、という病んだ感覚がそれだ。無意識なのかもしれないが、客観的に見てもある種の「異常さ」を感じる。
 自分の満足が、外に向けて放出されているだけなのだが、「みんなが見ていてくれる」「みんなが羨ましがってくれるはずだ」という幻想を抱いている。まったく現実ではない。明らかに妄想である。
 その妄想に起因した「面白さ」は長続きしない。一過性のものだ。


 Instagramの初期はともかく、これだけ、世の中に「インスタ映え」するものが溢れてしまうと、僕などはもう「自分が何をやってもかなわないな」と思ってしまうのです。
 芸能人やプロのアーティストなどの渾身の一枚が並んでいるなかで、自分の居場所はないなあ、って。
 みんながインスタ映えするものばかり投稿するようになったおかげで、「またこの『いかにもインスタ映えしそうな景色や食べ物』の写真か……」と、うんざりしてしまうところもあります。
 投稿する側にしても、「なぜ、こんなに頑張って『インスタ映えする写真』を載せているのに、反応がないのだろう?」と、もどかしく感じるばかり。
 他者との厳しい競争のなかで、「勝ち組」になり、多くの人に認められて満足する、というのは、あまりにもハードルが高いのです。
 インスタもツイッターも「ごく一部の積極的に投稿する人」と、「それをコンテンツとして消費したり、リツイートするだけのその他大勢」に二極化しているのです。

 内向きというか、部屋でひとりでコツコツやるような趣味が、結局いちばん「面白い」というのは、「みんなに見せるための趣味の時代」が一周してみて、多くの人が感じていることなのかもしれませんね。

 森先生は、「『生き辛さ』はどうしたらなくなるでしょうか?」という問いに対して、こう答えておられます。

 まず、基本的な原理というか、傾向を理解することです。
 なにかを積み重ねた結果をして、良いことが得られます。畑を耕し、種を蒔き、雑草を取り除き、しかも天候に恵まれれば、最後に収穫することができます。ものごとは、だいたいこういう仕組みになっています。
「生き辛さ」は、現在収穫がない畑に立っている人が感じるものです。その「生き辛さ」は、その人が長い時間をかけて作り出した結果でもあります。目の前にあるのは、「生き辛さ」が現れるまで、放っておいた畑なのです。
 ですから、どうしたら「生き辛さ」がなくなるのかといえば、今から畑を耕し、種を蒔き、雑草を取りなさい、としかいいようがありません。それをすべてしても、天気が悪ければ、収穫はありません。でも、みんながこうして、生きているのです。
 すぐには改善しません。長い時間がかかると思います。


 正直、森先生は身も蓋もない人だなあ、と思いますし、長年著書を読んできた僕も、「森先生の本を読むと、そのときだけは、自分が賢い人間になったような気がする」という依存性があるなあ、と感じるんですよ。
 森先生自身も、「人に迎合しない(できない)生き方」をしていくなかで、「生き辛さ」に直面したことは、少なからずあったのだろうな、と僕は想像しています。
 だからこそ、この森先生の言葉は「正論」なのでしょう。
 そう簡単に受け入れられるかどうかは、別なのだけれども。
 「生き辛さ」が考え方を変えるだけですぐに無くなる、なんていうのは、すぐリバウンドする「簡単でラクなダイエット法」みたいなものだから。


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