あらすじ
ウクライナでテロ事件が勃発。出動した特殊部隊員の男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、捕らえられて毒を飲まされる。しかし、毒はなぜか鎮静剤にすり替えられていた。その後、未来から「時間の逆行」と呼ばれる装置でやって来た敵と戦うミッションと、未来を変えるという謎のキーワード「TENET(テネット)」を与えられた彼は、第3次世界大戦開戦の阻止に立ち上がる。
2020年、映画館での9作目。
平日の朝からの回で、観客は20人くらいでした。
『ダークナイト』や『インセプション』のクリストファー・ノーラン監督の新作。新型コロナウイルス禍で、新しい大作映画が軒並み延期となっているなかでの公開ということもあり、けっこう楽しみにしていたのです。
巷では、「難しい」という評価もあったのですが、なるべく予備知識を入れないようにしていました。
観終えて最初に思ったこと。
ああ、こんな映画、どこかで昔観たことがある……そうだ、『ドラえもん のび太の〇〇〇」だ!
やっぱり、『ドラえもん』はSFなんだよなあ、藤子・F・不二雄先生はすごい!
あと、『カメラを止めるな!』をものすごくお金と技術をぶち込んで撮ってしまった感じ、とでも言えばいいのか……(ややネタバレ感あり)
僕はけっこう「難しい映画を、わけわかんないよ……とボヤいたり眠くなったりしながら観る」というのが好きで、観終えると自分が少しだけ賢くなったような気分になるのですが、これはまさにそんな映画でした。
映像は見ごたえがあるし、全編「これは何か凄いことが起こるんじゃないか、という感じ」で満たされているのですが、その割には、「えっ、結局のところ『敵』って何だったの?中ボスみたいなヤツしか出てきてない?僕が見逃しただけ?」という梯子外され感に満たされたまま、劇場を出ることになってしまいました。
ヒロインの「この人がヒロインなの?でも、もっと『らしい』人が出てくるよね。あれ、もうけっこう時間経ってるんだけど……」というのも不思議な感じ。
そもそも、僕には「なぜそうなるのか」がわからない。わからなさすぎる。なんでそんな機械が必要なのか、とか、そのルールの意味は?とか。
いろんな理屈が、監督の頭の中では組み立てられているのだろうけど、観客にとっては説明が圧倒的に不足していると思います。
まあ、最初のほうで、「頭で理解しようというのではなくて、そういうものだと感じろ」という(ような)台詞が出てくるのは、登場人物に対してだけでなく、観客への呼びかけでもあるのでしょう。
この映画も、別に大学の講義を受けているわけではないのだから、「よくわからないところも含めて、なんかカッコいいなこれ」「この作品がわかったふりをすれば、『映画に詳しい人』だと尊敬されるかな」みたいな感じで2時間半くらい観ておけ、で良いのかもしれませんね。
なんのかんの言っても、この映画を公開時に映画館で観た、というのは、後でちょっと自慢できそうな気もします。
さて、なんでこんなふうに、作品のまわりを距離をとりながらグルグル回っているような感想を書いているかというと、僕は僕なりにこの映画を観て、オチの「核心」はなんとか読み取れたと思うのだけれど、細かい仕掛けはほとんど拾えていないし、正直、「つまんないんだけどブランド名の力でエンディングまで辿り着いてしまった、某有名RPGのナンバリングタイトルのひとつ」をクリアしたような気分だったのです。
こんなに観客に不親切な作品で良いのだろうか……
その一方で、普段の僕は、「あまりにもパターン化され、予告編を観ただけでお腹いっぱいなハリウッドのアクション映画」をさんざん小馬鹿にしてきたのです。
にもかかわらず、この『TENET』のような「小難しい映画」を目の当たりにすると「もっとわかりやすくできないのかよ!」とイライラしてしまう。
クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』が好きな人は、映像体験としても、物語としても、この『TENET(テネット)』を楽しめると思います。
僕は正直、この作品、苦手でした。何?何?どうなってるの?なんでこうなるの?と困惑しながらの2時間半でした。
いや、こんな「監督自身しか、理解できそうにない映画」をこんなにお金をかけて撮ったのはすごいし、その「わからなさ」を観客がネットに感想として書いたり、有志がネットで「謎解き」「解説」をしてくれるところまで含めての「作品」なのだ、という確信犯的な印象もあるんですけどね。
わかりやすくて哲学的な作品をつくることだって、必要とあればこれまで何度もやってきた監督だし。
なんかしょぼいラスボスも、「実際には、我々がイメージしている『悪の黒幕』なんて存在しなくて、本当に怖いのは、『黒幕がいるという妄想』や、どこにでもいそうな悪党とか小人物の『絶望感』なのだ」というメッセージなのかな、とか考えてもみるのです。
有名監督って、期待されるプレッシャーも大きいだろうけど、こんなふうに、作品に対して、観ている側が「わからないのは、自分の能力が低いからなのではないか」と考え込んでくれる面もあるよなあ。
この映画に関しては、「人生で、一度は観ても損はしない作品」だとは思うんですよ。
こういう、わけがわからない作品があるからこそ、映画を観るのは面白い(と思うこともある)。
ただ、冷蔵庫の余り物で四苦八苦してつくった料理を、あまりにその見た目がカオスに陥ってしまったため、こちらが勝手に「前衛的で未来を感じる一皿」だと勘違いして食べてしまったような後味でもあるのです。
まあでも、『シュタインズ・ゲート』が「有り」なら、『TENET(テネット)』も、「有り」にせざるをえないかな、とは思います。
『インセプション』と『シュタインズ・ゲート』を面白いと感じられる人は、ぜひ、映画館で観てください。
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