琥珀色の戯言

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【読書感想】バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

バブル期に大量に建設されたリゾートマンション、会員制リゾート――

・アクセス難で苗場のマンションが10万円
・40平米の1Rマンションを見ず知らずの20人で所有
・リゾートホテルの建物が1250分割、ワンフロアが200分割――権利が切り刻まれて身動きが取れない不動産
・東京都湯沢町、バブル期にマンションを建てまくったデベロッパーも多くが倒産、解散
・もはや地面の切れ端…14平米に満たない狭小地で分割され販売された別荘タウン
・権利分割して建てられていたホテルが今や有名な廃墟スポットに
・解体費用は、地方自治体…? 地元の巨大なリスクに

1970年代、都心の土地価格の高騰に伴い、ターゲットにされた新潟県湯沢町。バブル期のスキーブームもあり、多くのリゾートマンションや会員制ホテルが建設された。今なおきちんと管理され、人々の生活を潤すマンションがある一方で、大幅に価格が低下したり、法律の濫用により身動きが取れなくなった施設が存在している。千葉県北東部の「限界ニュータウン」に住み、不動産問題を調査報道する著者が、リゾート物件の現状を伝える。


以前、著者、吉川祐介さんが書かれたこの本を読みました。

fujipon.hatenadiary.com


僕自身も親が遺した「空き家問題」で悩んでいたこともあって、非常に「刺さる、他人事ではない」内容だったのです。
親は土地と家を子どもに「遺す」つもりだったのに、子どもは自分の職場や駅から遠い家で生活しようとは思わないし、家はどんどん荒れ、毎年固定資産税の時期になると溜息をつくばかり。
僕が子どもだった頃、1970年代からバブル期(1990年代半ば)くらいまでは、不動産は最強の資産だと認識されていて、都心に片道1時間半とか2時間かけて通勤しなければならなくても郊外に「夢のマイホーム」を買う人が大勢いたのです。


今は、少子化核家族化(あるいはひとり暮らし)により、不便な郊外の一軒家は流行らなくなり、現在は、こんなのどうやったら買えるんだ?と疑問になるくらい高額な、駅から近いタワーマンションの時代になっています。
壮年期に終の住まいにするつもりで郊外の一軒家を買ったのに、老いて体力が落ち、地方の衰退が進行してくると生活の不便さから、都市部のマンションやアパートに住み替えることになった高齢者も大勢います。

 
著者の今回の不動産に関するテーマは「バブル期に建てられたリゾートマンションなどの施設や会員制リゾートと、その所有者の現在」です。
 
バブル経済期にスキーリゾートで注目された新潟県湯沢町(越後湯沢)の事例を冒頭で紹介しています。

 かつて、日本を代表するスキーリゾートとして名を馳せた苗場エリアには、居室数にして数千戸にも及ぶリゾートマンションが建築され、今もその大半が残っている。しかしスキーブームの終焉や日本全体のリゾート物件の価格が下落していく中、苗場のマンションは修復し難いほど供給過多に陥ってしまった。
 一般の不動産情報サイトなどで湯沢町の中古マンション物件を検索すると、築年数や部屋の階数、床面積に関係なく、どれも10万円前後の価格がつけられた中古マンションの物件が大量に出されている模様が見られるが、その大半が苗場エリアの物件である。
 10万円の物件は、別に売主が10万円の現金を欲しているのではなく、需要が極めて限られているために、捨て値で手放すという意思表示として呈示しているに過ぎない。
 そうした10万円マンションの大半は、仮に売却できたとしても、不動産会社へ支払う手数料などを引けば、その売り上げが売主の手元に残ることはほとんどないだろう。多くの売主は、もはや価格などには期待せず、ただそのマンションの「引取り手」を探しているだけの状態である。
 そんな苗場の絶望的な市場の一方で、湯沢町越後湯沢駅周辺のマンション市場は価値は安めとはいえ今なお正常に流通している。ところが、両者を混同し、町全体のリゾートマンションの現状として語るメディアが少なくなかった。


僕も、仕事から引退したら、10万円のリゾートマンションを買って、漫画家の桜玉吉先生のようにのんびり暮らそうか、と思っていた時期がありました(玉吉先生の伊豆での暮らしは、あまりのんびりとしたものではなさそうですが)。
あるいは、仲間とお金を出し合って安いリゾートマンションを買って、みんなで集まれる秘密基地みたいにしよう、とか。

この本を読んでみての率直な感想としては、「あのとき、調子に乗ってみんなで買わなくてよかった……」というものでした。
不動産は「残るもの」なのが、メリットでもあり、デメリットでもあるのです。
個人所有の物件でさえ、処分したくても、買い手を見つけることは大変だし、所有しているだけで固定資産税はかかります。老朽化してくれば、倒壊の危険も出てきて、維持費も手間もどんどんかさんでくるのです。

その一方で、定年退職などでリタイアした人たちが年金生活で都市部の高い賃貸物件で生活していくことに不安を感じ、安くなってしまった湯沢のマンションをはじめとした全国の別荘地に定住する、という事例も見られるそうです。

 リゾート物件と聞くと、前述したような、価格が底値まで暴落したリゾートマンションの話ばかりがセンセーショナルに扱われがちである。問題の深刻さに序列をつけるわけでもないが、リゾート物件を巡る問題は価格の暴落だけにあるのではない。
 一般のマンションであれリゾートマンションであれ、真に問われるべきは管理状態である。中古マンションを買うときには、「マンションは『管理』を買え」と言われるほど、維持管理が重要なものである。 
 特にリゾート物件に関しては、後者の「管理」について、あまりに軽んじられてきたものが少なくない。
 区分所有とは本来、そこに住む住民自身が共同体となって管理していくことを想定して作られた仕組みである。共同で住まう人々の、各居住者の権利が「区分所有権」だ。
 ところが、特にリゾート地においてこの「区分所有権」は、居住者の権利を保護するものではなく、区分所有者が収益の分配を受けたり、あるいは特定の事業者が運営する会員制施設を利用する権利を担保するものとして利用され続けてきた。

 実態としては単一の事業者が運営する宿泊施設なのに、建物の所有権は、一般のマンションと同じように一部屋ずつ分譲・販売され、その各居室のオーナーが、ホテルの運営会社に部屋を貸して、賃料として分配を受ける仕組みの「区分所有型ホテル」。
 さらにはそのホテルの一室を十数人で「共有」して登記し、その権利を宿泊施設の利用資格として扱う「不動産所有型リゾートクラブ」。
 ちょっと聞いただけでも、本来の区分所有の理念とはかけ離れていることをご理解いただけると思うが、こうした運用が横行してきた。
 不動産の「所有権」「区分所有権」は非常に強固な私権として保護されている一方で、民間企業が提供する「会員権」などは、所詮は運営会社の経営状態に左右されてしまう脆弱な「権利」に過ぎない。その脆弱さをカバーする方便として、本来の理念とは異なる形で、強力に保護された「区分所有権」が利用されてきたのだ。
 その実態については次章以降で詳述していくが、あまりの度を越した濫用が横行したために、今となってはその乱売された「権利」が、購入者にとってなんらの価値も生み出さないどことか、ただ義務と責任ばかり発生するお荷物と化している。
 電気、水道といった施設の利用に必要なインフラはすべて止められ、一切の修繕が行われない建物は老朽化するばかりだ。今や当の所有者本人ですら利用が不可能な状況に陥っているのに、他者の権利に阻まれ、解体もできなければ売却もかなわない。何の解決策も取られないまま、ただ毎年固定資産税が課税され続けている。


リゾートマンションとか持っていないし、リゾート会員権なんて無縁。自分には関係ない話だ、と思う人も多そうです。
でも、この本で書かれている「ひとつの不動産を大勢の人間で共有すること」のリスクというのは、いま高額で売られているタワーマンションでも同じなんですよね。投機目的で「自分は住まないけれど、資産として買っておく」人が多い高級マンションなら、なおさらです。
そして、「マンションは管理を買え」というのは、まさに金言だと思います。

正直、自分が住んでいるマンションの毎月の管理費、修繕準備金の高さに僕も辟易してきたのですが、この本で、「安売りされ、ろくに管理費も徴収されなかったために、修繕もままならないマンションの末路」を読むと、うちのマンションはけっこう「ちゃんとしていた」のだなあ、と感心しました。

お金をかけて修繕や維持管理を行なっていく、というのは、そのマンションの資産価値を保つためにも重要なことなのです。

いまからリゾートマンションやリゾート会員権を買おう、という人はあまりいないと思いますが、自分が住むためのマンションを買うときにも、反面教師として知っておくべき話がたくさん紹介されている本だと思います。

 ファミテックNIKKOは、別荘地開発がピークに達していた70年代初頭、分譲価格が高騰し、なかなか一般の庶民が別荘地を購入し建物を新築できる状況ではなくなっていた中で誕生した。わずかな面積でも別荘地内の土地を所有してオーナーになり、ファミテックNIKKO別荘地全体を共同で利用できる、というコンセプトを目指したものらしい。
 そのコンセプト自体は一般的なリゾートクラブとあまり変わらないが、特定の建物ではなく別荘地全体に発想を適用したケースは珍しい。
 その結果誕生したのが、もはや収拾がつかないほど細切れにされ、再利用も不可能となった地面の切れ端であった。


(中略)


 別荘地内には、旧ファミテックNIKKOの運営会社が建築したホテルの廃墟が残されているが、運営会社であるファミテックホテルズジャパンはすでに破綻、その後競売で取得した春日部市の法人も休眠状態で、ホテルは心霊スポットとして有名になってしまい、侵入者によってひどく荒らされている。


権利関係が複雑でも、それを整理すれば高く売れるような物件であれば、なんとかしてしまう、ということもあるのです(そういう事例も紹介されています)。
しかしながら、多くの場合、権利を整理しても売却もおぼつかない物件になってしまい、みんなが固定資産税を払ったり無視したりしながら、ただ建物は朽ち果てていく、という状況になっています。
著者は、リゾートマンションやリゾート会員権は、生活に余裕がある人が買うもので、廃墟になって損をしても生きていけなくなるようなものではない、とみなされがちで、社会問題にはなりにくい、とも指摘しています。

個人的には、不動産は、自分が住むところだけを、よく吟味して買うか借りるかしたほうがいいな、それ以外の投資目的とかには手出し無用だな、と感じました。

それでも、「土地を買っておけば、必ず値上がりする」みたいな神話をみんな信じていた時代もあったんだよなあ。
今の「世界経済は今後も右肩上がりだから、オルカン(『eMAXIS Slim 全世界株式』という投資信託、ちなみに僕も少しだけ持っています)積み立てておけば絶対大丈夫と信じている人たち」も、こういう不動産の負の教訓を知っておくべきではなかろうか。

人間のやることに「絶対」なんてない。
とはいえ、(ほとんどの)人には住む場所、定住する家が必要なのだよなあ。


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