Kindle版もあります。
コロナ禍でダメージを受けた「外食」は再び成長できるのだろうか──。
話題を呼んだ新興ハンバーガー店はなぜ閉業したのか、給食事業のシダックスの争奪戦はなぜ起きたのか、「食べログ」の点数を巡る訴訟の背景には何があったのか……。
外食業界で起きた事件に迫りながら、再成長への道筋を探る本格的「外食産業論」。生活に身近な存在だからこそ気になる問題や事件も多い外食。「低採算」「ブラック職場」「閉店ラッシュ」は表層的な問題にすぎない。根本的な問題はコロナ禍前から変わっていなかった。外食産業はなぜ「本当の問題」を先送りにしてしまったのか。
経済誌の記者がキーパーソンを表から裏から徹底的に取材し、外食産業の構造と課題を解き明かす1冊。約400万人が従事する約25兆円の産業で何が起きているのか。どうすれば再成長できるのか。
外食に従事する人、サービス産業で働く人たちが現状を打破するヒントに。そして、外食を楽しむすべての人へ。外食はもっと魅力的な産業に変われるはずだ。
外食産業は、2020年4月に「緊急事態宣言」が出てから現在(2022年12月)まで、営業時間の短縮や、アルコールの提供禁止など、さまざまな制約によってダメージを受けてきました。多くの人が外食で他者と接するのを避けるようにもなっています。
僕が知っている範囲でも、この3年足らずの期間に、閉店してしまった老舗はたくさんあるのです。
しかしながら、「本当の危機」はこれから、新型コロナウイルスの感染が収束してから、やってくるのかもしれません。
飲食業の倒産件数はコロナ禍で不思議な動きを見せていた。東京商工リサーチによると、新型コロナの感染が最初に拡大した2020年は、飲食業の倒産件数(負債1000万円以上)が前年比5.3%増の842件だった。過去最大だった2011年の800件を上回った。
ところが、翌2021年は648件と急減。2022年1~6月も前年同期比約3割減の237件となり、過去20年で最少となった。まだ満足に営業できない状況だったにもかかわらずだ。
苦しい外食店を延命させたのは、休業や時短営業への協力金や、働けなくなった従業員を守るための雇用調整助成金などの支援だった。それが「鎮痛薬」となって外食店の痛みを和らげてきた。
そして協力金の支給が切れた今、「鎮痛薬の効果が残っているうちに」と売却を模索する外食店が大量閉店の予備軍となっている。既に、目立つ倒産案件も増えている。横浜中華街で老舗中華料理店「聘珍楼横浜本店」を運営する聘珍楼(横浜市)は2022年6月、横浜地裁から破産手続き開始決定を受けた。日本に現存する最古の中国料理店として知られる同店は、「新店舗への移転を準備する」として閉店していたが、その直後の倒産だった(横浜本店以外は別会社が運営)。コロナ禍では、自治体からの協力金が外食産業の利益を下支えし、中小店舗には「バブル」をもたらしていた。実質無利子・無担保で融資を受けられる「ゼロゼロ融資」も重なり、突如として手元資金に余裕ができた外食店経営者の中には「高級車を買ってしまった人もいる」(金融機関)という。
外食店というのは、日本では比較的参入障壁が低く、何か自分で商売をはじめよう、という人が「自分の店」を出すことが多いのです。
その分、競争は激しくなり、個人店と大規模チェーン店が同じ土俵で戦っているのです。
食事に来る客の側からすれば、「どこで食べても一回の食事」であるのは変わりません。
著者は、東京都調布市で焼肉店を開業し、2022年4月に店舗の売却を決断したという男性の話を紹介しています。
焼肉店を開業したのは2020年12月だった。もともと外食店経営に興味を持っていたこの男性は、店舗の物件を十数件も内見した上で、家賃が安く、周囲に住宅が多い路面店を選んだ。外食店での新型コロナ感染を警戒する消費者が多く、換気しやすい店舗が好まれていた時期だ。ここで焼肉店を開けば「安心・安全」を意識する近隣のファミリー層を取り込めるのではないか。そんな思いからの決断だった。
東京都からの営業時間短縮の要請に全面的に協力したのは開業当初からだ。端から見れば前途多難な船出に思えるが、実態はそうでもなかったという。「協力金で潤う小型店の典型だった」。男性は淡々と振り返る。
どういうことか。家賃が安いことが奏功し、時短営業の協力金と営業時の売り上げを合わせると、収支が十分なプラスになっていたのだ。都からの協力金は累計で1300万円超に上った。男性は「正直、コロナ禍は苦しいとは思わなかった」と話す。
ところが、コロナ禍のなか、外食産業のなかでは比較的影響が少ないと考えられていた焼肉店が周辺に新規開業したり、近所の居酒屋が焼肉店に業態転換したりと、競合が急激に激しくなっていったのです。2022年2月にはじまったウクライナ戦争で食材も高騰し、原価も上がりました。日本の「安い飲食店」では、中国との食材の輸入競争で「買い負け」することも、ウクライナ戦争前から多くなってきていたそうです。
近隣の焼肉チェーンは食べ放題などを前面に押し出して「お得さ」をアピールしていた。集客面での競争力を考えると、原価の上昇を価格に反映するどころか、値下げを敢行せざるを得ない。店の利益幅はじりじりと小さくなっていく。人件費を抑えるために自身が夜中まで働き続けて何とか黒字を保ったが、男性の収入は月10万~20万円程度に落ち込んだ。
これだけ体力と精神力を削りながら働いても、大した収入は得られない。収入の安定性や福利厚生を考えれば、会社員でいる方が生活は楽になる。「稼げないなら仕方がない」。男性は外食への挑戦に区切りを付けた。
「自分の店を持つのが夢」であっても、大規模チェーン店との価格競争にさらされ、人件費抑制のために毎日夜中まで働き、それでも月収が10~20万円では、新型コロナ関連の助成金が無くなるのをきっかけに店をやめるという選択に、「そりゃそうなるよね」と納得せざるをえないのです。
オーバーストア(過剰出店)による厳しい競争が常態化している外食産業では、「開業してから2年後には半数が閉業する」といわれているそうです。
これまでも、人気になったチェーン店がすごい勢いで店を増やしていった揚げ句、チェーン店どうしの競合やサービスの質の低下により、一気に凋落していった光景を少なからずみてきました。
『東京チカラめし』『いきなりステーキ』など、時代の寵児としてもてはやされてきたチェーン店が、その「拡大戦略」に失敗しているのです。
店を増やすことによって、仕入れのスケールメリットがある、店舗を増やしていったほうが、総売り上げもあがり株主にウケる、と、考える経営者が多かったのですが、近年では「既存の店の売上を減らしてても出店攻勢で総売り上げを増やす」よりも「1店舗あたりの利益を重視し、店舗数を増やしすぎないようにしていく」という方針に転換しているチェーン店も出てきています。
外食産業では、回転ずしや焼肉食べ放題などのひとつの「業種」がブームになると、それを真似した店がどっとなだれ込んできて激しい競争になり、消耗戦になっていきやすいという性質があります。
参入障壁は低いけれど、その分、競争は非常に激しく、一時的に大繁盛店となっても、それを継続していくのは難しい。
この焼肉店を経営していた男性は、かなり研究熱心で、しっかり準備をして開業したにもかかわらず、結局、「新型コロナの助成金頼み」の経営になってしまいました。
この助成金が無くなるタイミングで店を閉めるのは、いたしかたないと言うか、極めて妥当な決断だと僕も思います。
せっかく「自分の城」をつくっても、働きづめで月収10~20万じゃ、やってられないよなあ。
だからといって、値上げすれば客離れは目に見えているし、お客の側は、みんな「コスパ」を重視しているのです。
インターネットのおかげで、実際に行けるかどうかはさておき、視野は広くなりました。
『食べログ』での評価は店の売り上げに直結しています。
「点数評価のアルゴリズムが不透明」なことに不満を抱く店舗側と、アルゴリズムを全て明らかにしてしまえば、料理やサービスの質よりも「点数対策」で高得点が取れるようになることを危惧する『食べログ』側との係争がずっと続いているのです。
その一方で、『食べログ』は、その収益の多くを、ユーザーではなく、店側から得ています。
帝国データバンクの調査では、2021年度の回転ずし市場は推定7400億円。10年前の2011年の4636億円から、10年間で1.6倍に成長しているそうです。
ただ、足元ではウクライナ危機の影響で水産物の仕入れコストが上昇し、稼ぐ力が弱まっている。もともと回転ずしは原価率が40%超と外食業界の中では高く、コスト増の影響を受けやすい。「くら寿司」を運営するくら寿司は2022年9月に業績予想を修正し、2022年10月期の営業損益が28億円の黒字から9億円の赤字になると明らかにした。
いちよし経済研究所の鮫島誠一郎首席研究員は「回転寿司がわなにはまっている」と指摘する。店舗数を増やし、幅広い客を獲得しようという流れの中で、ラーメンなどすしとは調理工程がまったく異なるメニューが増加。それがコストの上昇を招いて利益を圧迫しているとの分析だ。鮫島氏は「メニューを増やすにしても、目的を明確にするか、時間帯でメニューを変更するなどやり方を変えた方がいい」と話す。
僕の家の近くの「くら寿司」の大混雑を見ているので、あんなにお客さんが来ているのに赤字になるか、と驚かされます。
ラーメンやデザートなどの幅広いメニューは、家族連れにはありがたいし、「くら寿司」の集客にも影響しているはずです。
でも、そうやって、どんどん手を広げていくと、コストも高くなってしまう。
とはいえ、今から「メニューを寿司に絞って、サイドメニューを減らす」のも難しそうですよね。
『いきなりステーキ』の栄枯盛衰と経済評論家たちの『いきステ』への評価の変遷を見ていると、評論家たちは、いま、成功しているものを後追いで褒めているだけで、成功やその後の衰退を予言することはできないのかもしれません。
この本には「いま、日本の外食産業が直面している危機」が、わかりやすく書かれているのです。
しかしながら、「では、どうすればいいのか、誰が、どうやって日本の外食産業を救うのか?」については、歯切れが悪いというか、「公式」は存在しないし、ここで紹介されているような成功例は、誰にでも真似できるようなものではないだろう、と思うのです。
その時期、そのタイミングでの「最適解」はあるとしても、同じことを続けていけば、ずっと安泰というわけではありません。
だからこそ、経営する側にとっては外食産業は面白い、とも言えるし、利用する側からみれば、次々に新しいものが出てきて飽きないのです。
僕自身は、正直、このコロナ禍での生活の変化と自らの加齢もあって、「もうあんまり外で食べなくてもいいかな、というか、外食はめんどくさいな」という気分にもなっています。人の目を意識しながら食べることを、けっこう負担に感じるようになりました。
それでも、人間が人間であるかぎり「食べる」というのは「生きる」ために不可欠な行為なわけで、外食産業は続いていくはずです。
「外食産業」って、参入障壁が低く感じるけれど、本当に奥が深く、また、成功を持続させるのは難しいということを痛感させられました。
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