琥珀色の戯言

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【読書感想】なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか パンと日本人の150年 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
米を主食としてきた日本で、空前の「パンブーム」が起きている。日本人お得意の「和洋折衷」力で世界をうならせるほど一大進化を遂げたパン文化。SNSに料理写真が躍り、食マニアが増えた現代だからこそ、百五十年の歴史が生み出した到達点を振り返ることに大きな意味があるだろう。おなかがすくこと必至!パンだけでなく、「食」にまつわる現代の動きがわかる一冊である。


 僕が子供のころ、30年前くらいは、パンといえば、おやつの菓子パンか、学校の購買部で買うサンドイッチや総菜パン、という時代でした。
 たまに「今日はお弁当をつくる時間がないから、これでお昼ごはん買ってね」なんてお金をもらうと、どんなパンを食べようか、なんて、ちょっと嬉しくなっていたものです。
 ただ、僕自身は「パン好き」というわけではなくて、ベーカリーレストランではパンを食べるけれど、洋食屋で「パンとライスが選べます」と言われると、「じゃあ、ライスで!」と答えることが多いのです。
 息子たちは、ノータイムで「パン、もちろんパン!」なんですけどね。

 本書は、西洋人が携えてきたパンを、日本人がどのように受け入れ現在に至ったかを描く食文化史であり、生活史でもある。だから、ここで取り上げる店、製パン会社は、日本のパン食の歴史を語るうえで必要という基準で選んだ。おいしいパンを売っている店を紹介するグルメガイドではないので、あしからずご了承いただきたい。


(中略)


 そして人気店のパンを食べまくった結果、世の中には本当においしいパン屋がたくさんあると再認識させられた。その実感は私だけのものではないらしく、パン業界で働く取材先の方々も、近年の水準の高さを口にした。
 おいしいパンがふえたことをグルメな日本人が見過ごすはずはなく、ここ数年パンブームが続いている。その中でも目立つ存在が、バゲットなどのフランスパンである。香ばしい香りがして、皮はカリッとして固く、小麦の風味が感じられる。そして形が美しい。今までの柔らかめで薄い皮のフランスパンとは、違う次元のパンをつくる店がふえている。
 いったい、日本はいつからこのようなフランスパンをつくって喜ばれる国になったのだろうか。というのは、もともと日本人はあんパンなどの柔らかいパンを好きだったはずだからである。パンの皮の固さに対する嗜好も、本書で取り上げるテーマの一つである。そして、本格派フランスパンの登場は、日本人がパンを生活に取り入れて百五十年間に何が起こり、何が変わったかを反映している。


 そうなんですよね、最近のパンって、昔の「菓子パン=パン」+食パン、という時代とは違って、本当にいろんなパンがあります。そして、僕にとっては「こんな皮が固いパン、食べにくいな……」と思うようなフランスパンが「本格派」として人気になっています。僕の周囲の人たちも「このほうがパンらしい、味わいがある」と、そういう固いパンを喜んでいるのだよなあ。

 総務省家計調査によると、全国五十二都市(都道府県所在地及び大都市)の2013年~2015(平成27)年の一世帯あたりパンの消費金額の平均は、1位が京都市、2位が神戸市、3位が岡山市である。上位十都市のうち七都市が関西にあり、世界有数のグルメ都市、東京都区部は13位である。2000年以降、首位を京都市と神戸市が争う形になっているが、パン好きの街として広く認知されているのが、神戸市である。それは全国に名の知られたパン屋があり、開港地としていち早く外国文化を吸収してきた蓄積があるからである。
 日本では一般的にあんパンやコッペパンなどの皮が柔らかいパンが好まれる。しかし、神戸ではフランスパンなどの皮が固いハード系パンの人気が高い。角食パンだけでなく、皮が固めの山型食パンもよく売れる。
 しかし、神戸の人たちも、初めからハード系パンが好きだったわけではない。


 日本でパンが普及していったのは、食文化の多様性とか好みというよりは、米不足や日清・日露戦争での戦場食として食べた経験が大きかったのです。
 パンは、米に比べると、加熱せずにそのまま美味しく食べられるというメリットがあって、「兵糧向き」でした。
 第一次世界大戦中、日本に連れてこられたドイツ人の捕虜たちがパンを自ら焼いていた記録もあるそうです。


 神戸にある「フロイン堂」の二代目、竹内善之さんは、師匠筋の名店「フロインドリーブ」に挨拶に行った際、フロインドリーブ二世から受けたアドバイスをずっと大事にしているのです。

「原料(の量)はケチるな、一番いいものを使え、一生懸命やれ。この三つを守れば、ほかのパン屋がどれだけやってきても、負けることはない」

 これは、パン屋に限らず、どんな商売でも言えるのではないかと。
 でも、簡単なようで、これをずっと続けていくのは、すごく難しいことなのでしょう。

 次なる舞台は広島市である。なぜなら、現在主流となっている、客がパンをトングで棚から取ってトレイに載せ、レジへ持っていくスタイルは、広島市で生まれたからである。このスタイルを始めたのが、全国にベーカリーチェーンを展開する、現在のアンデルセングループである。


 このセルフ方式は同業者から注目され、トレイに載せて自分で選ぶ方式だとパンをついたくさん買いすぎてしまうということもわかったため、全国に広まっていったそうです。


 著者は、日本人のパンの好みの変遷と今後の傾向の予想を述べています。

 個人的な遍歴と、神戸で山食パンとハード系パンが人気になった歴史からみて、おいしいフランスパンを買える地域のパン好きの好みは、やがてハード系パンに行くだろうと考えている。
 何しろ本格派フランスパンの店は、東京をはじめ全国各地にずいぶんふえた。カリッとした皮には、せんべいに通じる香ばしさがあるし、そういう店が使う小麦粉は良質なものが多い。小麦の味わいもやがてクセになるだろう。
 日本人はもともとうどんやラーメン、焼きそば、お好み焼きなどの小麦粉料理が大好きなのだ。そして、ここ二十年ほど、さまざまな外国の味を受け入れる度量を広げている。
 しかし一方で、「固過ぎる」パンが敬遠される傾向は、根強く残るだろう。柔らかいパンの皮ごと簡単に食いちぎられるところや、そういうパンをサンドイッチや総菜パン、菓子パンにしたときの具材との一体感も魅力的なことを私は知っている。歩きながらでも気楽に食べることができる。噛むことにエネルギーがいらないからだ。そのことは食べる人の年齢を選ばないことにもつながる。


 「パンブーム」といっても、日本人のパンへの好みは二極化しているような気がします。
 柔らかいパンと固いパンがそれぞれ高いクオリティで並立しているのも、日本のパンの魅力なのかもしれませんね。
 僕は『アルプスの少女ハイジ』を子供のころに観て以来、「柔らかいパンのほうが偉い!」と思い込んで生きてきたのだよなあ。

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