琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】サギ師が使う 人の心を操る「ものの言い方」 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
なぜ、“この一言"に逆らえないのか?


巧みな「言い換え」を見抜き、心理戦に生かす禁断テクニック


流れをOKに持っていく、思わずOKさせる、相手の意表を突く、都合のいい答えを引き出す、さりげなく優位に立つ、そして相手ペースに乗らない……年々厳しくなる摘発をかいくぐるように新たな騙しの手口を編み出すサギ師のマル秘テクニックとは。言ったら相手の心を遠ざけてしまう「NGワード」と、相手の心をがっちりつかむ「OKワード」を紹介。潜入調査に定評のある著者が、彼らと対峙する過程でつかんだ、ビジネス心理戦に生かさない手はない「話し方」の極意。


【目次】
第1章 「OKへの流れをつくる」ものの言い方
第2章 「思わずOKしてしまう」ものの言い方
第3章 「相手の意表を突く」ものの言い方
第4章 「都合のいい答えを引き出す」ものの言い方
第5章 「さりげなく優位に立つ」ものの言い方
第6章 「相手ペースに乗らない」ものの言い方


 数々の「悪徳商法」への体当たり潜入ルポを続けておられる多田文明さんの著書。
 世の中には「なんでそんなのに騙されるの?」と思うような詐欺や悪徳商法がたくさんあるのですが、そこには「騙すためのテクニック」が詰め込まれているのです。
 とはいえ、みんながそんな巧妙な詐欺師とは限らない。

 これまで私はさまざまに弁を弄して騙そうとする人たちの現場に潜入してきた。数多くの場所に行ってみてわかったのは、勧誘者にもトークスキルが高い人もいれば、低い人もいるという現実だ。スキルが高い勧誘者の文言に出くわしたときは正直、返答に困り、うならされたこともある。一方でスキルが低い勧誘者の“ものの言い方”を聞きながら、「この話し方はダメ(NG)だな」「こう話せばいい(OK)のに」と思うことがしばしばある。どちらかといえば、潜入経験が増えれば増えるほど後者のほうが多くなっていったように思う。


 人というのは、同じことでも「伝えられ方によって、受ける印象が大きく変わってしまう」ことが多いのです。
 「ものの言い方」って、悪用すれば人を騙すのに使えるけれど、うまく使えば、仕事や日常生活で「自分の言いたいことが受け入れてもらいやすくなる」あるいは、「トラブルが大きくなることを防ぐことができる」のです。
 この本では、多田さんが詐欺師や悪徳商法をやっている人たちと丁々発止のやりとりのなかで学んだ「人の心を操る言葉の使い方」が紹介されています。
 これを読むと、自分がいかに日頃言葉の使い方で損をしているか、あるいは、チャンスを逃しているのか、ということを考えさせられるんですよね。

 ビジネスではギブ&テイクの関係が大事などといわれる。ところが尽くすというギブがリターンをしてもらうための言動であると相手に見え見えな“ものの言い方”をしている人が多い。これではダメだ。
 部下が仕事で失敗をしたことをフォローしたあとに、
「失敗をリカバーしておいた。だから、あとはおまえがやれ!」(NGワード
 こんな恩を押しつけるような“ものの言い方”はダメである。
リカバリーはしておいたから、あとはなんとかできるな!」(OKワード)
 こう言われれば、恩義を感じてがんばろうという気になるだろう。
 最初の“ものの言い方”では「失敗」という言葉を口にしているが、リカバリーといえば失敗をカバーするという意味である。それゆえ、「失敗」を口にすることで、ことさらにそのことを強調する結果になってしまう。
 それに、「やれ!」では失敗を取り戻して会社に利益というリターンをもたらせという意味に聞こえる。
 それに対して、「できるな!」と言えば、会社の利益より、「おまえ自身が自信を取り戻してがんばることがいちばんだ」という思いも込められる。
 人は恩を与えられれば、尽くされたことに対するお礼をしなければならないと自然に思うものだ。わざわざリターンを含むような言葉を詰め込む必要はない。よく交流会に参加するが、名刺を交換するときに、
「何か仕事があれば、よろしくお願いします」(NGワード
 などと言う人がいる。しかし、そんなことを言わなくても、そもそも名刺交換するのは、なんらかの仕事上の関係を結びたいから行っているので、そんな言葉を吐くより、
「御社のために何かお力になれることはありますか?」(OKワード)
 と相手に対して「自分に何ができるのか」を考えて話すほうが先決だろう。
 名刺ばかり配っていて、なんの仕事の依頼もない人は、この点を注意する必要があるかもしれない。


 同じ状況でも、「言い方」によって、与える印象はけっこう違う、ということなんですよね。
 プラスのシチュエーションを実感することはなくても、「この人にお世話になったのは確かだけれど、こんな上から目線で恩着せがましく言われたら、なんか気分悪いな……」ということは、多くの人が経験しているはずです。
 何もしていない、できないのに、ものの言い方だけが上手な人というのも、それはそれでなんだか気持ち悪いので、どんな言葉も、使う人次第、という面もありますよね。
 ただ、同じ条件であれば、「うまい言い方をしたほうが、いろんなことがうまくいきやすい」のは確かだと思います。

 いま、高齢者の家にはさまざまな悪徳業者がやってくる。しかし、いくら高齢の親を責めてもしかたない。というのも、サギ師や悪徳業者はいつも私たちの行動の先を読んでアクションを起こしてくるからだ。おそらく高齢者を見守り、勧誘被害を防ぐために、家族は次のように尋ねるに違いない。
「最近、怪しい人は来なかった?」(NGワード
「不審な電話が来なかった?」(NGワード
 しかし、これではサギ師や悪徳業者の思うツボの尋ね方なのである。
 というのも、サギ師や悪徳業者の側は子どもたちに警戒されて、そのように聞かれることがわかっている。ゆえに怪しさを微塵も感じさせないような言葉を口にする。


(中略)


 思い出してほしい。1980年代に豊田商事によるサギ事件が起きた。この業者は高齢者と金の購入や運用の契約を結ぶが、お客さんには金を渡さず、その代わりに預かり証を渡していた。そのためペーパー商法と呼ばれた。実際にはこの会社はほとんど金の保有はしておらず、運用実態もなかったため、多くの被害者が出ることになった。この業者の営業マンらは言葉巧みに「金を買えば儲けられる」と話すだけでなく、高齢者宅を訪れては孫のようにふるまいながら、高齢者に尽くすなどの行為をして契約させていた。つまりサギ師や業者は善人の衣をまとって悪者に見えない姿でやってくるのだ。それゆえ、サギ師や悪徳業者が高齢者宅に近づいてこないかを知るために、次のように尋ねる必要がある。
「最近、親切な人が訪ねてこなかった?」(OKワード)


 「親切な人」のほうが要注意、というのは世知辛い話ではありますが、これが現実であることも確かです。
 自分にどう見えるか、ではなくて、高齢の親にはどう見えているのか、を考えることが大事なんだよなあ。
 そういう視点って、意識していないと、なかなか持てないものなんですよね。


 詐欺や悪徳商法に引っかからないために、相手の手口を知っておく、あるいは、日常で何気なく使っている「NGな言葉」をチェックするために、けっこう役に立つ本だと思います。
 あらゆる状況で、適切な言葉の使い方ができる、というのは難しいとしても、せめて、地雷を踏むことは、なるべく避けたいものですし。


アクセスカウンター