琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】知らなきゃよかった 予測不能時代の新・情報術 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
累計70万部の最強コンビが放つ最新作!
プーチン習近平エルドアン……独裁がトレンドとなり、
「自国ファースト」と「自国ファースト」がぶつかり合い、
フェイクニュースと資料改竄がまかり通る現代の世界。
知れば知るほど「知らなきゃよかった」と思えることばかり……。
知りたくなかった、しかし目を逸らせない
リアルな情報と英知がここにある。

米朝トップ会談とカジノの怪しい関係
・日本にはびこる「ハレンチ学園」と「暴力教室」
・なぜ官僚の劣化は止まらないのか?
・トランプ政権は「宮廷陰謀」の世界
・中国、ロシア、トルコ 独裁者たちの目指すもの
・国家を弱らせるのは欠陥教育だ など

新しい常識をインストールできた者だけが生き残る!


 池上彰さんと佐藤優さんの対談本の最新作。
 新書界の超獣コンビ再結成!という感じなのですが、今回は「国際社会における情報収集・情報管理術」がテーマになっています。
 佐藤優さんが、よく「インテリジェンス」と仰っているものですね。
 これだけインターネット社会になり、AIに仕事を奪われる!と報じられていても、まだまだ「人間関係」って重視されているのだな、と痛感します。
 いち国民としては、「うまくいった」ように見えていることも、実際はそのことで官僚が頭をかかえていたり、逆に「なんでそんなに煮え切らないんだ」と苛立つ状況こそが、最良の危機管理だったりするんですね。


 2018年6月12日の米朝首脳会談の「成果」について。

佐藤優ただ、日本政府は明らかに大きな間違いをしました。それは、トランプ大統領拉致問題の仲介を頼んだことです。日本政府は、トランプと金正恩朝鮮労働党委員長のケミストリーが合うはずがないと思っていた。だから会談で拉致問題について言及するよう、トランプに頼んだのです。どうせ金正恩が聞くはずがないと踏んだのでしょう。ところが、この二人が意気投合してしまったため、仲介が実現する可能性がでてきた。
 その結果、今、日本政府がもっとも恐れているのが、トランプ経由で北朝鮮から拉致問題についての回答が来ることだという、まったくおかしな状況になっています。米朝首脳会談の前から、北朝鮮政府は日本政府に対して、拉致被害者の再調査の結果について打診しているはずです。ストックホルムなどでの一連の交渉で、そういうことは伝えられている。しかし、その内容を日本政府が受け入れることは不可能なのです。日本政府が、何をもって拉致問題が解決したとするかといえば、明示はしていませんが、拉致被害者全員が「生還」したときだと思います。だから、死亡した、という回答は絶対に受け入れられない。
 ところが、金正恩がトランプに、「これを安倍晋三に渡してくれないか。これが真相だから」と回答を渡し、それをトランプが持ってきたら、受け入れないわけにいきません。


池上彰そんなことをしたら、日米関係に大きな影響が出ますね。


佐藤:今、日本政府が慌てて日朝首脳会談をやろうとしているのは、「お願いだから回答をトランプに渡すのだけはやめてくれ」ということだと思います。でも、それならば、もともと仲介など頼まなければいいわけで、きわめてヘンな外交をやっているのです。


 日本政府としては、強力な同盟国であるアメリカに圧力をかけてもらう意味もこめて、トランプ大統領拉致問題について触れてもらうよう依頼し、表面上は、うまくいったように思えますよね。
 ところが、アメリカが本当に仲介してくれるとなると、トランプ大統領が「これでいい」と認めたものを、日本としては受け入れるのも突っぱねるのも難しい、という苦しい状況になってしまったのです。すべての事実が明らかにされるような、満点回答がくれば良いのでしょうが、そんなことはまずありえない。
 こういう、「他者に仲介を頼むことで、かえってややこしくなる」のは、国と国にかぎらず、交渉事にはありがちだよなあ。


 おふたりは、最近の日本を騒がせている事件について、こんな話をされています。

池上:2018年の4月まで、マスコミは「モリカケ」問題一色でした。佐川宣寿国税庁長官の証人喚問や柳瀬唯夫経済産業審議官の参考人招致での一挙手一投足に新聞、テレビ、雑誌は大騒ぎしていた。ところが最近急におとなしくなりましたね。


佐藤:それは福田純一財務次官という素晴らしい人がいたおかげで(笑)、スキャンダルの位相が変わってしまったからです。福田さんがテレビ局の女性社員に「おっぱい触っていい?」「手を縛っていい?」「浮気しない?」と言ったというセクハラ問題によって、ハレンチでなければスキャンダルではない、というふうに位相が変わった。そこに米山隆一新潟県知事の買春問題、TOKIO山口達也氏のセクハラが重なって、「ハレンチ学園」ができちゃった。もはや佐川さんも柳瀬さんも普通の人。安倍昭恵さんにも誰も関心がない。


池上:さらに日本大学アメリカンフットボール部の不祥事が追い討ちをかけた。


佐藤:日大ひとつで「暴力教室」ができました。今の日本では、ハレンチ学園か暴力教室のメンバーじゃないとスキャンダルにはならないんです。


 二人とも、ノリノリで喋ってるなあ、と読みながら感じたのですが、結局のところ、不祥事というのも、その行為の軽重よりも、「視聴者にとってもインパクトの強さ、面白さ」みたいなのが報じられる時間の長さに反映されているのは事実ですよね。
 「このハゲ~!」のパワハラ議員なんて、あの音声のインパクトがなければ、ここまで話題になったかどうか。
 もちろん、セクハラ、パワハラ、暴力が「軽い」というわけではないですが、「重要でも面白くないニュースや不祥事」は、すぐに忘れ去られてしまっているのです。


 ちなみに、佐藤優さんは、米山知事の事例について、こんなアドバイスをされています。

佐藤:米山知事も、もし、「週刊文春」が来たときに私がそばにいたら、「すぐにその女性にプロポーズしろ」とアドバイスしましたね。そして会見ではそのことを言う。「お恥ずかしい話ですが、じつは学生時代から女性と付き合ったことがありません。それで、この女性と出会い系で知り合ったことは間違いありませんが、愛してしまいました。そして彼女と家庭を持ちたいと思いました。彼女の経済状態が厳しいということで、複数回、経済的な支援をしていますが、これは私からすれば家計を共有したいという思いからでした。でも、なかなかプロポーズを切り出せなかったのですが、今回のことがあって思いきってプロポーズしました」とね。そして、どこかで指輪でも調達しておけば、生き残れた可能性はあると思う。
 物事には事実、認識、評価という三段階があって、事実は出会い系で知り合って、お金を貸していた、ここは動かない。しかし、認識としては、結婚したいと思っていて、お金についても将来家計を共有するからサポートしていただけであると、それが買春であるかどうかは評価の問題で、それは皆さんがすることであると。


池上:少なくとも、「それは売買春じゃありませんか?」と聞かれて、「そういわれても仕方ありません」と答えたら、もうどうにもなりませんね。


佐藤:エリートとされてきた彼らが劣化していると思うのは、うまく立ち回れなかったという能力の問題だけじゃなく、二人に共通して、女性をモノとしてしか見ていないいからなんです。相手をきちんとした人格として受け止めるという訓練がなされていないから、おかしな対応しかできない。偏差値だけ高ければいい、点数が取れればいいという価値観で生きてきて、それが行き着くところまで行き着いた結果なんです。


 あらためて考えると、福田財務次官の場合は、あの年齢まで、あれでやれてきた、生きてこられた、というだけでも信じがたいものがあるのです。セクハラ、パワハラについて厳しく糾弾されるようになったのが近年になってからなのだとしても、非常識というか、「常識の世界の外」って感じがしました。
 米山知事の場合には、うーん、佐藤さんの作戦をもし実行していたら、世間の反応は、どうだったのだろうか?
 「本当に愛していたんです」と言われたら、こういうのって、案外言い返せないところはありますよね。出会い系そのものは、いまの世の中では、犯罪ではないし、それで出会って結婚するカップルだって少なくないのだから。
 まあ、このくだりは、「ハレンチ学園」って言いたかっただけじゃないの?って、ちょっと思ったんですけどね。

佐藤:今起きていることは何かと言ったら、新自由主義が政治の領域とかあらゆる領域で完成しつつあるということだと思います。一見関係ないようなこと、例えばハリウッドのセクハラ疑惑、日馬富士の殴打事件、電通の過労死……。これは要するにローカルルールが通用しなくなってきたということなんです。みんなフラット化している。政治の世界もフラット化している中で、国民民主党立憲民主党がとりあえずよさそうだということで、アトム化した人間がパーッと一瞬集まる。それですぐまた消えていっちゃうんですね。それは、かつての橋下徹現象と、右か左かという違いがあるだけで、あまり変わらないと僕は見ていてるんです。


 池上さんが、世界中で独裁傾向が強まっているのが最大の問題のひとつ、と指摘したことに対して、佐藤さんは、「それは安倍首相やトランプ大統領プーチン大統領の権力欲だけでは説明できなくて、国際情勢が極めて流動的になって変化が激しいから、政治に民主主義的な手続きのコストをかけられなくなっている」と仰っています。
 
 多様性が叫ばれる一方で、さまざまな集団での「ローカルルール」が許されなくなっているのは事実です。
 セクハラや力士の「かわいがり」なんていうのは「ローカルルールだから構わないだろう」とは言い難いのですが、宗教的な価値観や民族の伝統についても、「世界はフラット」であるべきなのか。
 議論する時間もなく(議論しても決着がつく話ではないだろうけど)、フラット化はすすんできています。


 たぶん、知らなくても、日本で日常生活を過ごすには、困らない話なんですよ、ここに書いてあることは。もちろん、僕にとっても。
 ただ、現代を「知りたい」という欲求には、かなり親切に答えてくれる本だと思います。
 

fujipon.hatenadiary.com

大世界史 現代を生きぬく最強の教科書 (文春新書)

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