琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

『琥珀色の戯言』 が選ぶ、「2018年の本ベスト10」


2018年も残り少なくなりました。
恒例の「今年、このブログで紹介した本のベスト10」です。


いちおう「ベスト10」ということで順位はつけていますが、どれも「本当に多くの人に読んでみていただきたい本」です。


まず、10位から6位まで。


<第10位>幸運な男――伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生

幸運な男――伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生

幸運な男――伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生

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 彗星のごとく現れ、高速スライダーで強烈なインパクトを残した伊藤智仁投手の野球人生を追った本。
「僕は、毎試合、毎試合、”いつ壊れてもいい”と思って投げ続けていました。本当は壊れちゃダメなんです。でも、当時の僕は”壊れてもいい”と思っていたし、壊れることを恐れていなかった。そしてその結果、壊れた。それはしょうがないことだし、自分でもあきらめのついている部分なんです。ただ、世間の人はこの点を見て”もっとできたはずだ、惜しかった”と言ってくれているんだと思います。だけど、もしも僕が腕を振ることを怖がっていたらプロに入ることもできず、新人王を獲ることもできなかったはずですから」



<第9位>出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと

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 著者は、30代前半で、夫との生活に行き詰まって別居することになり、同じ時期に、ずっと「最愛の職場」であった書店(というか、ヴィレッジヴァンガード)の経営方針の転換にも直面するのです。
 いままで、当たり前のように、そこにあったものが、失われていく。
 諦めるほどの年寄りではないけれど、すぐにリセットして切り替えられるほど若くもない。
 ああ、これもまた、ミッドライフ・クライシスなんだよなあ。
 あるいは、「厄年」ってやつか。
 人は、出会い系サイトで「救われる」のか?



<第8位>天才はあきらめた

天才はあきらめた (朝日文庫)

天才はあきらめた (朝日文庫)

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 僕は南海キャンディーズの不仲説って、ありがちな「ビジネス不仲」なんだろう、と解釈していたのですが、本当にこんなに仲が悪かった(というか、山里さんがしずちゃんに嫉妬し、厳しくあたっていた)ということを知って驚きました。
 いやほんと、この本、山里亮太という「お笑いの超秀才」であり、「独裁者」の黒歴史でもあるんですよ。読んでいて、「これはひどい……」と何度も呟かずにはいられませんでした。



<第7位>カルピスをつくった男 三島海雲

カルピスをつくった男 三島海雲

カルピスをつくった男 三島海雲

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 カルピスが発売されたのは、1919年の7月7日。もうすぐ100年を迎えることになります。
 そのカルピスの生みの親である、三島海雲さんの生きざまを関係者の証言や文献、内モンゴルへの取材などを通して描いたのが、この本なのです。
 あんなに有名な飲み物なのに、まだ100年も経っていないのに……埋もれかけたカルピスの歴史を鮮やかに発掘してみせた一冊。



<第6位>日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実

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著者は、兵士たちの死に様を叙情的に詳しく描いたり、上層部の無策を声高に糾弾したりするのではなく、兵士たちの体験談とデータを積み重ね、事実を淡々と語り続けています。

 1943年、現役兵として歩兵第四五連隊に入隊し、湘桂作戦に参加した川崎春彦は、「行軍中、歯磨きと洗顔は一度もしたことはなかった。万一、虫歯で痛むときは、患部にクレオソート丸(現在の正露丸)を潰して埋め込むか、自然に抜けるのを待つという荒療治である。しかし、この二年半の不衛生な生活は、後年の健康に大きな蔭を落とす結果となった」と書いている(『日中戦争 一兵士の証言』)

続いて、1位〜5位です。


<第5位>されど愛しきお妻様 「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間

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この本を読む前は、「とはいえ、特殊なカップルの例なんだろうけどさ」と思っていたんですよ。
 でも、読んでいるうちに、むしろ、「普通のはずなのに、うまくいかない人々」にこそ、この本は読まれるべきなのではないか、と感じたのです。
 この本には、人と人が支えあっていくための「糸口」みたいなものが詰まっている。
 「できるはずなのに、なぜやらないのか、できないのか」というプレッシャーをかけあって生きている人は、本当に大勢いるから。
 他人事のように書きましたが、僕もそうなのです。



<第4位>かがみの孤城

かがみの孤城

かがみの孤城

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 こうして大人になって考えてみても、あいつらが、なんでイジメをやっていたのかは、よくわからないのです。
 いじめられたり、いじめを止められなかったことを気に病んでいる人たちが、そのつらい思い出から逃れられないのに対して、イジメを楽しげにやっていた連中は、自分がやっていたことを覚えていなかったり、「あの頃は若かったね!」なんて子どものいたずらみたいに考えたりしている。
 世の中の「教育委員会的な発想」では、イジメをやる連中といじめられた側の生徒は「対話」し、「和解」するべき、それが正しい、と思われている節があるけれど、世の中の「イジメ上手な連中」は、「やり返してきたら、お前も同罪だからな」と恫喝したり、「私たちは謝りたいんですけど、相手が対話に応じてくれないんです」と周囲にアピールしたりする。大人は、「ちゃんと話し合って、仲良くなりました」という「理想のストーリー」に拘泥して、被害者の気持ちを無視してしまうのです。
 この作品には「そういう場面」が、きちんと描かれています。



<第3位>ギリシア人の物語III 新しき力

ギリシア人の物語III 新しき力

ギリシア人の物語III 新しき力

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 『I』ではペルシア戦争、『II』では、ペリクレス時代が主に描かれていた『ギリシア人の物語』。いずれも読みごたえ抜群だったのですが、この『III』で完結します。
 この『ギリシア人の物語III』が、塩野七生さんの最後の歴史長編となるそうです。
 その主役がアレクサンダー大王だというのは、最初から決めていたのか、結果的にそうなったのか。
 読んでみると、むしろ、塩野さんがこの人類史上最高の「英雄」について、これまで書いていなかったというのが意外にも感じられます。

 そして、考えてほしい。
 なぜ、彼だけが後の人々から、「大王」と呼ばれるようになったのか。



<第2位>「国境なき医師団」を見に行く

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 言われてみれば当たり前なのですが、今の世の中で、ある程度高度な医療を提供しようと思えば、電気や水道は不可欠なのです。そして、医者や看護師は、そういうインフラの専門家ではありません。
 医療関係者じゃなくても、MSF(MEDECINS SANS FRONTIERES:国境なき医師団)に参加することはできる、というか、医療従事者以外のさまざまな専門家が、MSFには必要不可欠なのです。
 この本のなかには、そういう技術者たちも大勢登場してきます。
 海外への援助というと、日本では「青年」海外協力隊、みたいなイメージが強いのですが、海外には、リタイアしたばかりの技術者が、まだ十分体力があるうちに、世の中への恩返しがしたい、とMSFに参加している人がいるのです。彼らは、すでに「技術」を持っているし、還暦くらいであれば、まだまだ体も動きます。
 日本でも、こういう「定年と隠居生活のあいだの時間」を使って参加したいという人は、これから増えていくかもしれませんね。僕も「こういう『余生』も良いかもしれないな」って思ったんですよ。そんなに甘いものじゃないかもしれないけれど、あまり難しく考えすぎなくても、良いのではなかろうか。



<第1位>AI vs. 教科書が読めない子どもたち

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 正直、この本を読んでいると、前半の「AIの限界の話」よりも、後半の「教科書が読めない子どもたち」のインパクトに圧倒されてしまうんですよ。
 
 著者は、大学教員の多くが、学生の学力の質の低下を感じている、というのを受けて、「大学生数学基本調査」というのを行っています。「勉強ができない」というよりも、「論理的な会話ができない、設問の意図と解答があまりにもズレている」と感じる場面があまりにも増えている、ということに危機意識を持ったのだそうです。

問題:次の報告から確実に正しいと言えることには〇を、そうでないものには×を、左側の空欄に記入してください。

 公園に子どもたちが集まっています。男の子も女の子もいます。よく観察すると、帽子をかぶっていない子どもは、みんな女の子です。そして、スニーカーを履いている男の子は一人もいません。


(1)男の子はみんな帽子をかぶっている。
(2)帽子をかぶっている女の子はいない。
(3)帽子をかぶっていて、しかもスニーカーを履いている子どもは、一人もいない。


 読んでいると、なんかまわりくどい問題だなあ、とは思うのですが、こういう「なぞなぞ」って、子どもの頃によく解いていた記憶があります。
 せっかくなので、これを読んでいる方にも、答えてみていただきたいのです。
 「バカにすんな!」って思う人も多いだろうけど。

 正しいのは(1)のみです。
 問題文中の「帽子をかぶっていない子どもは、みんな女の子です」という文から、「男の子は帽子をかぶっている」ことがわかります。ですから(1)は正しいです。しかも「女の子は誰も帽子をかぶっていない」とは言っていません。つまり、確実に正しいとは言えないのです。だから(2)は×です。さらに、「スニーカーを履いている男の子は一人もいません」という文と合わせても、「帽子をかぶっていて、しかもスニーカーを履いている女の子がいる」可能性を否定できませんから、(3)の答も×です。

 この問題の正答率は64.5%でした。入試で問われるスキルは何一つ問うていないのに、国立Sクラスでは85%が正答した一方、私大B、Cクラスでは正答率が5割を切りました。では、多くの高校生が憧れる私大Sクラスではどうだったか。国立Sクラスに比べて20ポイントも低い66.8%に留まりました。どこの大学に入学できるかは、学習量でも知識でも運でもない、論理的な読解と推論の力なのではないか、6000枚もの答案を見ているうちに、私は確信するようになりました。


 「これ、本当に大学生の話?」って驚いたんですよ。
 ちょっとまわりくどいクイズみたいな問題とはいえ、いちおう大学まで進んだ人たちでも、3人に1人は間違えるって、あまりにも酷くない?
 でも、こういう現実を突きつけられると、なぜ、ネット上でうまく意見のやりとりができないのか、わかったような気もするのです。



というわけで、『琥珀色の戯言』の2018年の本のベスト10でした。


昨年のランキングはこちら。
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 2018年は、発達障害に関する本が「ブーム」になりました。
 僕自身にも「発達障害的」なところがあり、思い当たる節や参考になる文章もたくさん読みました。
 その一方で、こうして「ブーム」になることによって、こぼれおちてしまう人やものが少なからず存在するのではないか、という気がしています。
 そもそも、「生きやすさ」は白と黒の二極に分裂しているわけではなくて、多くの人は、灰色のグラデーションのどこかにいるわけですし。
 あと、人工知能ビッグデータも、進化の目的が「人間を幸せにする」よりも、「ものを売る」とか「政治的な優位を確保する」ほうに向かってるのではないか、と考えずにはいられないのです。
 もちろん、「消費」や「買い物」は、人間にとって大きな娯楽ではあるのだとしても。
 今年は、けっこういろんなジャンルの本を読めたのではないかと思います。
 2019年は、古典や物語を積極的に読んでみるつもりです。


 それでは皆様、よいお年を!


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本の雑誌427号2019年1月号

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陰謀の日本中世史 (角川新書)

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