琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ナラタージュ

ナラタージュ

ナラタージュ

けっこう分厚い本&若い女性が書いた恋愛小説というまさに僕にとっては「敬遠球」のような作品で、正直「ひとり本屋大賞(そもそも本屋じゃないけど)」の中では、あの衝撃的に分厚い、町田康「告白」と並んで「ついつい後回しにしてしまっていた作品」だったのです。そもそも、30代のオッサンが読んでいるだけで恥ずかしいような気もしなくはないし。

でも、実際に読んでみたら、あまりに良質の小説だったので驚きました。島本理生さんなんて、いま流行りの「若手(ビジュアル系)女性作家」なんじゃないの?とか思っていた僕を赦してください。まず、なんといっても文章がすごく上手いんですよ。いや、「東京タワー」とか「県庁の星」とか、「名文を書いてやるぜどうだ!」みたいな作品群のなかで、こんなに音の流れとして耳につかず、それでいて情景がきちんと浮かんでくるような描写力は、本当にすごいと思います。それも、読みながら「上手い!」っていうよりは、読み終えたあとで、じわりと「凄い小説なんじゃないかこれは」と感じてしまいました。

やや耽美系すぎるきらいはありますが(というか、なんでそんなに鎖骨好きなの?)、恋愛小説が苦手な僕にとっても、「物語」として純粋に楽しめました。

以下ネタバレ


しかし、「ナラタージュ」って、僕は最初のところを読んだ時点で感じていたのですけど、ものすごく「村上春樹的」なストーリーの小説じゃないかなあ。「ノルウェイの森」と「国境の南、太陽の西」を足して2で割り、主人公を女の子にして、「世界の中心で、愛をさけぶ」を隠し味に入れれば、はい一丁上がり!みたいな。
昨日の周防監督の話じゃないけれど、恋愛感情なんて非常に不安定なもので、人間には20歳くらにしかできない恋愛というのがあるのだ、という感覚は、そういう経験に乏しい僕のコンプレックスをものすごく揺り動かすものではあるのだけれど、正直なところ、あの関係が、「1回のセックス」だけで一区切りつけられるのか?という疑問はものすごくあるのですよ。それは、村上春樹の「国境の南…」にも言えることなのですが。セックスって、そんなにすべてのことを解決してくれるものなのだろうか?逆に「じゃあ、それ以外にどうやってケリをつけるんだよ!」と言われたら、それはそれで言葉に詰まってしまうんですけどね……
それにしても、葉山先生ズルイよね、もう30オーバーの僕からすれば、なんてズルい大人なんだろうな、としか言いようがない。もちろん泉もズルいし、小野君もズルい。でも、泉と小野君のズルさは、なんだかとても腹立たしくも愛おしいにもかかわらず、葉山先生はもう最低の大人だと思います。女の子がこういう男に惹かれるのも、よくわかるんだけどさ。
ところで、僕はこの作品に1ヵ所大嫌いなところがあって、それは、柚子が死んでしまうという展開と、その理由なんですよね。僕は葉山先生が、ナチュラル・ボーン・女子高生キラーで、柚子ちゃんにも手を出していたなんていうのを期待していたのですが、なんか突然「悲劇の背景」が登場してしまって、いたたまれなくなってしまいました。それじゃちょっと、物語として唐突すぎないかね。で、それをきっかけに泉と先生はヨリを戻して、やっちゃっておしまい、っていうのは、話を展開させるためのイベントとしては、あまりにも悪質だと思います。そして、最後に結婚した男との間にも、絶対に「同じ問題」が起こるよきっと。あれがハッピーエンドだなんて、僕には全然思えない。
 とりあえず、僕が女子で、20歳のときにこの小説を読んでいたら、たぶんいろんな悪影響を及ぼしていた気がします。そのくらい素晴らしい小説です。
 でもまさか、リアルタイムの20歳女子が読んだら、「こんな女いねーよ、バッカじゃない!」とかいう感じなのかなあ、どうなんだ実際は。

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