琥珀色の戯言

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聞き上手は一日にしてならず ☆☆☆☆


聞き上手は一日にしてならず (新潮文庫)

聞き上手は一日にしてならず (新潮文庫)

[BOOKデータベースより]
コミュニケーションの基本は、人の話を聞くこと。貴重な情報を聞き出すためには、どんな努力も惜しまないプロの聞き手10人が明かす秘訣とは何か。できるかぎり情報を集めて準備を入念に行い、相手にとことん惚れ込み、徹底的に気を配る―。きちんと話が聞ければ、ビジネスも、友情も、恋愛もきっとうまくいく!あなたも聞き上手になってみませんか。

1 黒柳徹子(女優)に聞け!―「人には必ず話がある、人には必ず聞きたいことがある」;
2 田原総一朗(ジャーナリスト)に聞け!―「人が本当に言いたいこと、本音、これをいかに引き出すか」;
3 ジョン・カビラ(ラジオ・パーソナリティー)に聞け!―「『ええっ!』と驚き、『なんだよ、これ』と唸る」;
4 糸井重里(コピーライター)に聞け!―「どうでもいいことが、じつはその人。『贅肉こそ、そいつだ』みたいなね」;
5 小松成美(ノンフィクション・ライター)に聞け!―「好奇心を煽られて、知りたいと思ったら会いに行く、話を聞きます」;
6 吉田豪(プロ・インタビュアー)に聞け!―「話を聞きながら『オレはいいことしているな』と思いました」;
7 河合隼雄心理療法家)に聞け!―「聞くことに始まって、聞くことに終わる」;
8 石山修武(建築家)に聞け!―「結局あなたまかせの商売だから。銀座のおねえさん以上の心遣いをしますよ」;
9 松永真理(『iモード事件』著者、バンダイ取締役)に聞け!―「相手の球さえうまくとらえれば、球は気持ちよく飛んでいく」;
10 刑事に聞け!―「下手な聞き方をしていると、いつまでたっても重要な証言は出てきません」

「人の話を聞くこと」が要求される仕事をしていることもあり、僕はこういう「聞き上手になるための本」を見かけると思わず手にとってしまうのです。
この本は文庫になっていて比較的入手しやすく、また、一冊まるごと「聞き上手になるためのコツ」についてのインタビュー集なので、かなり興味深く読めました。
その一方で、黒柳徹子さんの『徹子の部屋』に関するこんな話小松成美さんがイチロー選手に「なぜヒットを打てるのか?」という質問をして、ついに答えてもらったときの話、そして、プロインタビュアー・吉田豪さんのインタビューの下準備の凄さなどを読むと、僕たちがイメージする「居酒屋で悩み相談をされるような『聞き上手』と、プロのインタビュアーは次元が違う」ということを思い知らされたりもするんですけどね。
この本のもとの題は『話を聞く技術!』だったそうで、たしかに、その題のほうがしっくりくる内容です。たぶん、『聞き上手」という言葉を入れたほうが売れるのだとは思いますけど。
この本には、「プロの聞き手」のエッセンスが詰まっているのですが、正直、これを読んだからといって、僕の日常的な他者とのコミュニケーションの参考にはしにくいところはあります。
あえて言えば、「聞き上手」になるためのコツというのは、「相手に興味を持つこと」と「最低限の予備知識は仕入れておくこと」でしょう。「聞き上手」っていうと、「相槌のうちかた」とか「相手の目を見て話せ」とか言われますが、そういうのは、「些細なこと」でしかないのです。まあ、あなたが絶世の美男美女なら話は別かもしれませんが。

この本には、プロの聞き手たちの「こだわり」が満載なのですが、この吉田豪さんの「インタビューを(雑誌などの)記事にまとめるときの話」にも驚かされました。

――テープ起こしから記事にまとめるときのポイントはありますか。

吉田豪質問者の質問を短くする。相手の長い発言は、読みやすいよういくつかに切るために現場では言ってないけど流れを邪魔しない質問を加える。そして何よりも現場の空気感を活かして、相手の口調や間、感情なんかも再現することですね。原稿は二段階で作っているんですよ。まずテープ起こしから、誌面の文字量にまったく関係なく、理想的だなと思えるインタビュー原稿をつくります。それから指定された文字量に合わせて削っていく。だから手間はかかりますね。

吉田豪さんのインタビューは、まさに「読者もリアルタイムでその場にいるように」読めるのですが、実は、そう感じさせるために細かいアレンジがいくつも加えられているのです。これは、「誰かに話を聞いてまとめるとき」には、参考になる話だと思います(まあ、僕も含めて、多くの人にとっては、そういう機会ってそんなにあるもんじゃないですが)。
そして、あんなにたくさんの仕事を抱えているにもかかわらず、「二段階で原稿をつくっている」というのには驚かされました。単行本にまとめるときなどに「活かせる」のかもしれませんが、それは、かなりの手間ですよね。「二段階」にしなければ、いまの倍くらいの仕事がこなせそうです。
それでも、吉田さんにとって「質を維持する」というのは、とても大切なことなのでしょう。

つまらなくはないけど、この人には、もうちょっと面白い話が聞けたのではないか、と思われる人もいますし(僕にとっては、糸井さんや河合隼雄の項はそういう印象でした)、石山修武さんや刑事さんの話はいまひとつかな、と感じたのですが、それでも、『プロの聞き手』の凄さに触れたい人にはオススメできる本だと思います。
ただし、「実生活でちょっとした『聞き上手』になるためのハウツー本」としては、あまり役に立たない本なので御注意ください。

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