- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/11
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
私は、女の顔をした悪魔を一人知っているのです。その女のしたことを考えるだけで、ぞっとします。彼女の本当の名前が何というのか、今現在、何という名前を名乗っているのかは知りませんけど、もちろん彼女はまだ生存していて、人を騙し続けています。そして、へいぜんと人を殺し続けています。かつて女であった怪物たちへ、そして、これから怪物になる女たちへ捧ぐ、衝撃の問題作。
桐野夏生さんの作品を読んでいると、「どうしてこの人は、僕の『心の中にあるけれど、誰にも知られたくないような黒い感情』みたいなものを文章にできるのだろう?」といつも考えてしまいます。冒頭の児童福祉施設の保育士だった美佐江と、施設で彼女と知り合った25歳年下の夫との焼肉屋でのやりとりなんて、あまりの生々しさに圧倒されるばかりでした。
で、この「いびつな関係」の2人が主人公かと思いきや……
この小説、前半部はものすごく「気持ち悪い」のだけど、「悪漢小説としての面白さ」はあるんですよね、無慈悲、というよりは感情そのものが欠落してしまったような殺人者『アイ子』は、映画『ノーカントリー』の殺し屋・シガーのような圧倒的な存在感。
ところが、後半になって、「巫女風のホテル女王」が登場してくるあたりから、話はどんどん「普通」になってくるのです。
「アイ子」の邪悪さもパワーダウンして、ありがちな「彼女もかわいそうな人間だったんだよ」というような幕切れ。
うーん、この小説って、本来はもっと長い話、まさに『ノーカントリー』みたいな「現実の不条理、容赦なさを読者に思い知らせる話」になるはずだったのに、桐野さんの都合か人気がなかったかで(まあ、読者から応援メールがたくさん来るような話じゃないですし)、「打ち切り」になったのではないかなあ。
後半に出てくる人物は、本来『アイ子』に「成敗」される予定だったのに、早く終わらせるためにこんなオチになったように思われます。
いや、読後感としては、『ノーカントリー』よりもこちらのほうが「腑に落ちる」のですが、なんとなく「安心できる話」になってしまったようで、僕としてはちょっと残念です。
まあ、本当に前半のような「気持ちの悪い話」が延々と続いていたら、僕だってこの本を最後まで読んだかどうか微妙でもあるのですけど。