琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ボックス! ☆☆☆☆


ボックス!

ボックス!

内容(「BOOK」データベースより)
高校ボクシング部を舞台に、天才的ボクシングセンスの鏑矢、進学コースの秀才・木樽という二人の少年を軸に交錯する友情、闘い、挫折、そして栄光。二人を見守る英語教師・耀子、立ちはだかるライバルたち…様々な経験を経て二人が掴み取ったものは!?『永遠の0』で全国の読者を感涙の渦に巻き込んだ百田尚樹が移ろいやすい少年たちの心の成長を感動的に描き出す傑作青春小説。

今年の「ひとり本屋大賞」6冊目。
僕はかなり致命的な運動オンチなので、「スポーツ小説」は基本的に苦手なんですよね。
でも、この『ボックス!』は、かなり面白く読むことができました。
単なる「青春小説」ではなくて、「ボクシング」というスポーツについての薀蓄がたくさん詰まっていますし、「乱暴者のためのハングリースポーツ」というわけではない、ボクシングの魅力が伝わってくる作品なんですよね。
というか、自分をコントロールできない人間は、頂点に立てないスポーツなのだということをあらためて思い知らされます。

 翌日、耀子は職員室で沢木に声をかけた。午前中たまたまその時間に二人とも受け持ちの授業がなかった。
「昨日、木樽君と話していたんですが、ボクシングって科学的なスポーツなんですね」
 沢木監督は少し苦笑をうかべた。
「科学的かどうかはわかりませんが、一般の人が思っているよりも人工的なスポーツであることはたしかです。たとえば、ボクシング最強のパンチの一つにストレートがありますが、これなどは実に人工的なパンチなんです」
「そうなんですか」
「人が人を殴る時はたいてい腕を大きく振って殴ります。これが自然な動きなんです。でも空手の正拳突きやボクシングのストレートパンチというのは、実は人が自然な動きではやらない特殊な技術なのです。腕を大きく振って殴るパンチとは比べものにならないほど速くて鋭いパンチです。教わらないと打てないパンチです。おそらくこのパンチを最初に考案した者は無敵だったでしょうね。今でも、ボクサーと素人がケンカして相手にならないのは、このストレートパンチが打てるかどうかなんです。そしてこのパンチをよけられるかどうかなんです。
 耀子はうなづいた。
「フックというパンチはストレートとは逆に、パンチの軌道が弧を描くパンチですが、素人の振り回すような大きな弧ではあく、鋭角的な鋭い弧です。これも練習しないと絶対に打てません。ボクシングは本能的なスポーツと思われていますが、こんな具合にすべての動きが近代的な技術の産物で出来ています」

こういう技術的な解説やアマチュアボクシングのルールについても非常に丁寧に描いてあって、しかもそれが物語の進行を止めないようにうまく織り込まれているのです。
そして、試合のシーンにもものすごく説得力があるんですよね。

ただ、僕がちょっと気になったのは、この「練習嫌いの天才」「天才の友達のぐんぐん伸びてくる努力家」「すごい実力のライバル」という構図が、あの『一瞬の風になれ』と全く同じである、ということでした。体の弱いマネージャー、天才と努力家のあいだで揺れる耀子先生(おお、そういえば白木洋子も「ようこ」だよなあ!)、まさに「王道」そのもの。
「王道」であることが悪いわけじゃないのですが……
あと、木樽があまりにも完璧すぎて、ちょっと引いてしまいました。最初は応援してたんだけど、こいつのほうが「努力の天才」じゃないのか?と運動そのものが嫌いな僕にとっては、感じの悪いキャラになっていったんだよなあ。

キャラクターには好みが分かれるかもしれませんが、「間違いなく楽しめる青春スポーツ小説」ではあります。
そして、これを読むと「ボクシング」というスポーツそのものへの見方も少し変わるはず。

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