- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2009/03/18
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解説: テレビドラマ化されるや大人気を博したミステリー作家・東野圭吾の「探偵ガリレオ」シリーズ初の長編で、第134回直木賞に輝いた同名小説を映画化。主人公のガリレオこと湯川を演じた福山雅治、彼とコンビを組む新人刑事役の柴咲コウをはじめ、テレビドラマ版のスタッフ・キャストが集結。湯川と壮絶な頭脳戦を繰り広げる天才数学者に『クライマーズ・ハイ』の堤真一、物語の鍵を握る容疑者役を『フラガール』の松雪泰子が演じ、一筋縄ではいかないドラマを盛り上げる。(シネマトゥデイ)
あらすじ: 惨殺死体が発見され、新人女性刑事・内海(柴咲コウ)は先輩と事件の捜査に乗り出す。捜査を進めていくうちに、被害者の元妻の隣人である石神(堤真一)が、ガリレオこと物理学者・湯川(福山雅治)の大学時代の友人であることが判明。内海から事件の相談を受けた湯川は、石神が事件の裏にいるのではないかと推理するが……。(シネマトゥデイ)
3連休初日の10月11日の19時の回を鑑賞。シネコンの最も大きなシアターに100人くらいの観客。
まだ公開間もないことを考慮しても、「けっこう入ってるなあ」という印象でした。
内容についての詳しい話はネタバレコーナーで書くとして、作品全体については、「よくできたスペシャルTVドラマだな」というのが僕の感想でした。
正直、作品を観るまではちょっとこの映画化は不安だったんですよね。
あのトリックの「面白さ」が映像的に伝わるのだろうか?ということと、このキャストでいいの?ということが。
石神を演じるのが堤真一さんと聞いたとき、「ええっ、堤さんじゃ、石神役にはカッコよすぎるだろ……僕のなかでは、石神役は温水洋一さんくらいの『イケてない男』(温水さんすみません)であり、そうじゃないと、石神の「絶望」は体現できないのではないか、と感じたんですよ。堤真一の石神なんて、テレビでジャニーズのタレントが「いや〜僕モテないんですよ!」ってニコニコしながら言っているようなものじゃないですか!
しかし、実際に作品を観てみると、堤さんはさすがに素晴らしい役者さんで、外観には関係ない、「天才の絶望」を演じていました。
正直、原作の石神からすると違和感があるのですが、商業映画としては、「許される範囲の妥協」だと思います。なんのかんの言っても、福山雅治と本当にブサイクな男との対決なんて、シリアスなドラマとして観るには辛すぎますしね。
トリックについても、原作未読の妻と一緒に観たのですが、「あのトリックは最後までわからなかった」+「トリックそのものも映画を観ただけでちゃんと理解できた」とのことでしたので、必要十分条件は満たしているのではないかと。
いやまあ、「注意深く観ていれば、初見の観客にもトリックがわかる」ようなタイプの作品ではないと思いますが。
それにしても、この映画での石神はほんとうにかわいそう。
湯川先生が、石神のことを気遣えば気遣うほど、僕は石神の「心の痛み」を感じずにはいられなかったのです。
大学で「天才」と謳われた友人同士のふたり。
かたや大学に残り新進気鋭の学者として実績を上げて出世コースに乗っていて、しかも超イケメン。
かたや親の介護のために自分の授業を理解してくれる生徒もいない高校の教師となった、くたびれ果てた男。
この状況で、イケメンが「17年ぶりに」(というか、「親友」っていうのなら、17年ぶりは酷いよね)現れて、自分のことを「お前はまだ天才だった」とか「お前は親友だ」とか「お前は大学に残って研究をやると思ってた」とか言われたら、それって最強の「嫌がらせ」じゃないのかなあ……
湯川にそういう「こだわり」が無いように見えるだけに、なおさら、湯川を目の当たりにしたときの石神の「絶望」は深いと思うのですよ。
「お前に悪意がなくても、お前の存在そのものが俺には苦痛なんだ!」と石神は叫びたかったのではないだろうか。
僕だって、大学の同級生が10年ぶりにああいう感じで現れたら、正直、「放っておいてくれ!」としか感じない。
もし、石神が大学を離れる前、せめて、最初に死を意識したときに湯川との交流があれば……という気はするのだけれど。
ああいう、「中途半端なエリートならでは絶望感」って、なんとなくわかるのです。
ほんと、石神かわいそうだよ。あれだけの才能なのに、あの境遇、好きになった女性もあのレベル……
この映画版では、小説では描かれていた「石神の天才ならではの残酷さ」が排除されているので、なおさらそう感じます。
「あれほどの頭脳を犯罪にしか使えなかったなんて……」
湯川はそう呟くのだけれども、「それほどの才能も、犯罪くらいにしか使い道がない」のが今の世の中であり、そういう環境から抜け出すことができないことを悟ってしまったのが、石神の悲劇なのです。
こういうのは、たぶん、エリートコース一直線の湯川には絶対に「わからない」し、「論理的じゃない」としか思えないはず。
そもそも、この作品そのものが、この映画版では全体的にセンチメンタリズムに覆われていますしね。
原作は、もちろん人情モノ的な部分もあるのですが、どちらかというと「ホームズ対モリアーティ教授」あるいは『DEATH NOTE』のような、「犯罪を通じての天才対天才の頭脳ゲーム」としての面白さを追求した作品だったのですが。
この映画、原作に忠実に「石神の物語」として描いたところに好感が持てますし、ミステリ映画としても「ちょっと卑怯だけど斬新ではある」作品です。なんのかんの言っても、福山雅治はカッコいいし(柴咲コウの役回りについては、「ここはお前の出る幕じゃないだろ!」と言いたい場面があったけど)。
TVドラマ『ガリレオ』のファンは間違いなく楽しめますし、原作ファンも「許せる映画化」だと思います。テレビのスペシャルでもいいんじゃないかという気がしますが(というか、いちばんお金かかっているのは、冒頭の爆破炎上シーンと雪山のシーンだと思われるのですが、これ、「どうてもいいシーン」なんですよね作品的に)、「観てみようかな」という人には「観ても損はしないよ」と言えるレベルの良作です。
以下ネタバレ感想ですので、未見の方は読まないほうがいいですよ。映画がつまらなくなるので。
本当にネタバレですよ。
この映画、ある意味「ズルい映画化」ではあるんですよね。
原作で僕がいちばん引っかかったのは、石神という人間の「天才ならではの傲慢さ」だったのです。
石神が「花岡靖子を守るため」とはいえ、名も知らぬホームレスを「死体すり替えの道具」として「使い捨てる」ことに対して、原作では、石神は「あいつら(ホームレス)には、生きていても価値がないのだからしょうがない」というようなことを言っていますが、映画版では、自分がトリック作りのために殺した、見ず知らずのホームレス」に対する感情を描くことはなく、花岡靖子への「純愛」のみが強調されています。
そして、この映画では、「石神を犠牲にするという罪の意識にさいなまれて」出頭してくる靖子なのですが、原作での靖子の出頭は「罪の意識に耐えられなくなった娘の自殺未遂がきっかけ」だったんですよね。
もちろん、この自殺未遂のエピソードも映画では採り上げられていません。
原作を読んで、「この物語に感動してしまうこと」を押しとどめた石神と靖子の「自己中心的な人柄をあらわすエピソード」が、この映画では省略されて、「石神の純愛」のみが強調されているのは、なんだかちょっと気持ち悪かった。
でも、この映画の脚本を書いた人は、「そのエピソードを描かないほうが、商業的にはプラス」という判断をしたのだろうと思うし、それはたしかに「正解」だったのでしょう。
原作の湯川は、石神に対してこんなに同情的ではなくて、むしろ「ライバルとの対決を楽しんでいる」ような描き方だったのですが、そうしなかったのも「政治的な判断」だったのではないかと。
そういう意味では、あまりにも「綺麗な話」になってしまっているように思われますし、もともとたいした出番もない作品なのに「私が先生の痛みを受け止めます」なんて、お前何様?と言いたくなるような台詞を唐突に吐かされる柴咲さんもある意味被害者っぽいですよね。僕はあれを聞いて、「なんておせっかいな女なんだ!」とドン引きしましたよ。そして、「こういうシーンを作らなければならない」という「フジテレビの映画作り」の哀しみが伝わってきました。
「友人として聞いてくれるか」
って、警察の人だろ、そして、そんなに深い仲でもないだろこれまでのストーリー的には!
原作の「歪み」みたいなものが排除されてしまっているのは、「デート映画」としてはプラスだと思いますし、石神役だって、やっぱり絵柄的にカッコいい男じゃないと福山とつりあわなかったというのもよくわかります。
すぐれた商業映画であることは認めますし、原作既読にもかかわらず、僕はけっこう愉しめました。
ただ、原作ファンとしては、ちょっと物足りないところがあったのも事実です。
参考リンク:『容疑者Xの献身』小説版の感想(琥珀色の戯言)(注:この感想にはネタバレが含まれます)
- 作者: 東野圭吾
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