琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

電子書籍の衝撃 ☆☆☆☆


電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

内容(「BOOK」データベースより)
『2011年 新聞・テレビ消滅』!?では、本はどうなる!?キンドルに続き、アップルiPad登場。それは、本の世界の何を変えるのか?電子書籍先進国アメリカの現況から、日本の現在の出版流通の課題まで、気鋭のジャーナリストが今を斬り、未来を描く。

僕も活字中毒者として、「電子書籍」に対して、よくわからないながらも、漠然とした期待と不安を抱いていたのですが、この本を読むと「電子書籍の(とくにアメリカでの)歴史と現状」そして、これからおそらく日本にも飛び火してくるであろう、「アマゾン vs アップル」(キンドル vs iPad)の全面対決への流れが見えてきます。正直、iPadに対しては、「あんな中途半端な大きさと性能で、うまくいくのだろうか?」と思っていたのですが、「電子書籍を読むための『本のiPod』」と考えれば、かなり、しっくりくるマシンなんだなあ。

 アメリカでは本の多くはハードカバーで売られています。でかくて厚くて、おまけに値段は2500円前後。日本のように薄くて小さくて安価な書籍は少ないのです。しかしキンドルストアではこうしたハードカバーの多くが、9.99ドル(約900円)という驚くほど安い値段で売られています。
 出版社が出血大サービスで卸しているのでしょうか?
 実はそうではないのです。アマゾンは紙の本を店頭価格の半値の約13ドルの卸値で出版社から仕入れていますが、キンドルストアの電子ブックにもこの値段を適用しています。つまりアマゾンはキンドルストアで1冊売るごとに、約3ドルの損を出しているということなのです!
 なぜこのような一見バカげていることをアマゾンがやっているのかといえば、それはまさに、「電子ブックのプラットフォームを独占支配したい」という戦略が存在するからにほかなりません。

 アップルが底なしにすごいところは、アップルの戦略を真似したアマゾンに対して、まったく逆の戦略を仕掛けてきたところです。
 先にも書いたようにアップルは99セントという安価な金額で楽曲を販売し、価格決定権をメジャーレーベルから奪ってしまいました。これをアマゾンは踏襲し、9.99ドルという破格の値段で電子ブックを販売し、やはり価格決定権を確保しました。
 そこにiPadを後発で出してきたアップルは、どういう戦略を採ったのか?
 なんと、「価格決定権はあなたたちに差し上げますよ。その代わりに30%の手数料だけください」と出版社に提案したのです。
 音楽の世界でプラットフォーム支配した際に使ったすばらしい戦略だったのにもかかわらず、それが先行するアマゾンに真似されたとみるや、すぐさま転身して別の戦略へと打って出るその変わり身の早さ! やっぱりCEOのスティーブ・ジョブズという人は製品開発力だけでなく、ビジネス戦略においても天才というしかありません。

 僕はやっぱり「物質としての本」への愛着があるし、「読んだ本を積み上げていく」という行為に喜びを感じるのですが、この本を読んでいると、「物質としての本」にあまりこだわる必要はないのかな、とも思うのです。

「インターネット文学」の可能性について(琥珀色の戯言)
↑に書いたように、「その本がどのくらいの厚さかわからない」というだけで、本の読み方は変わってくるものだし、登場人物についての説明や地図が画面にタッチするだけですぐに表示されるようになれば、かなり便利でしょう。
そして、「読んだ本、買った本をデータベース化する」ということが、キンドルiPadによって可能になれば、「うーん、この間読んだ本に書いてあったはずの中国の科挙の話、あの本のどこに書いてあったか忘れてしまったなあ……」ということで、本をパラパラとめくり直す必要もなくなります(こうしてネットで本の感想を書く人間にとっては、その機能はすごくありがたいんですよ、本当に)。

ただ、僕はちょっと心配しているところもあるのです。
「本を買う側」にとっては、メリットばかりのようにも思えるけれど、もともと文庫という安価な書籍が流通している日本では、あまり「安い」ということにはならないでしょうし、粗製乱造された「素人書籍」が世の中にあふれるだけではないか、と危惧してもいます。
そもそも、みんなが本を読まなくなったのは、「出版業界のせい」だけではなくて、「他にやることがありすぎて、時間がないから」のような気もしますし。
僕の周りにも「日常的に本を読んでいる人」は、本当に少ない。
とはいえ、書店はけっこう賑わってはいるんですけどね。
ネットも含めると、「活字を読むことを好む人」は、けっして減ってはいないのだと思います。
ただ、「答え」を知ることに、せっかちな人が増えているとは感じるのです。

 著者の佐々木さんは、こんなことを書かれています。

 記号としての意味を失った出版文化に残ったのは、身も蓋もない自己啓発本やタレント本の氾濫でしかありませんでした。

まあ、僕はこの文章に頷いたあと、この『電子書籍の衝撃』が「ディスカヴァー・トゥエンティワン」から出されているのを再確認し、苦笑せずにはいられなかったのですが……

「電子ブックなんて、読みにくいし要らないよなあ。やっぱり本は、あの手触りがないとダメ!」という「活字中毒」の皆様にこそ、ぜひ一度手にとって、「本の未来」について一緒に考えていただきたいと思います。
電子書籍」そのものが良いわけでも悪いわけでもなくて、これからは、嫌でも電子書籍とつきあっていかなければならないだろうし、だからこそ、この転換期のどさくさにまぎれて、「本という文化」が大きな力に捻じ曲げられてしまわないように、注意をしていく必要があるのです、きっと。

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