琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ドキュメント宇宙飛行士選抜試験 ☆☆☆☆


ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)

いまだかつて明かされなかった宇宙飛行士選抜を密着レポート!
2008年2月、日本で10年ぶりとなる宇宙飛行士の募集が、日本の宇宙研究・開発を担うJAXAによって発表された。応募総数は史上最多。そして、選抜試験自体も最難関で熾烈を極めるものとなった。
本書は、この選抜試験の取材を日本で初めて許され、さらに候補者10人に絞られた最終試験では一部始終に密着することに成功した、NHKの番組スタッフによるドキュメンタリー。
その10人がおかれた閉鎖環境という特殊な状況下で、彼らは何を考え、語り、行動したのかをつぶさに追ってゆく。
宇宙という極限の環境において、自らの命を賭け、かつ他の乗組員の命をも預かる宇宙飛行士とはどういう職業なのか。その資質と人間力に迫る!

参考リンク:宇宙飛行士はこうして生まれた〜密着・最終選抜試験〜 (NHKオンライン)


この新書、2009年の3月に「NHKスペシャル」で放送された番組を書籍化したものです。
この番組、僕もネットで知って、再放送で観たのですが、これまで「未知の世界」だった「宇宙飛行士の候補者をどうやって選んでいるのか?」がかなりの部分公開されていて、宇宙飛行士になんてなれるわけもない僕も、彼らの「夢」に共感したり、「どうせ東大を出た研究者とかエースパイロットとか、『選ばれた人間』の世界なんだよね……」と軽く嫉妬したりしながら観たのを覚えています。

この新書版、正直なところ、「テレビで観たドキュメンタリーの迫力」には、やっぱりかなわないと思います。
候補者の表情や「課題」に向かっているときの緊迫した雰囲気などの「空気感」は、本ではなかなか出せないものです。
50分間のテレビドキュメンタリーに比べると、どうしても情報量は少ないような気がしますし。
あのドキュメンタリーを観ていない人が読むと、ちょっと物足りない感じがするかもしれません。

それでも、あの番組をそう簡単に観ることができない以上、「宇宙飛行士選抜試験」を手軽に知るには、この新書か『宇宙兄弟』を読むしかないわけで。

僕は、あの番組を観るまで、宇宙飛行士選抜試験というのは、その人が、どこまで「スーパーマン」なのかをみるための試験だと思い込んでいました。
しかしながら、実際の試験は、密閉された空間での共同生活という特殊な条件下ではあるものの、やること自体は、そんなに「難しいこと」ではないのです。
ディベートをしたり、鶴を折ったり。
もちろん、一挙手一投足が「評価の対象」になるというのは、すごいストレスだとは思うのですが。

 ではなぜ、私たちは「宇宙飛行士選抜試験」に密着したかったのか?
 その理由はただ一つ。「宇宙飛行士」という職業に就く人間は、世界でも数えるほどしかいない、いわば「人類代表」である。そうした「天才とも超人とも思われる宇宙飛行士が選ばれるプロセスそのものへの興味と、想像を絶する激しい競争が見られるのではないかという大きな期待があったからだ。
 しかし、およそ1年がかりで追い続けた宇宙飛行士選抜試験で我々が目にしたものは、超人が華々しくその天才ぶりを発揮する姿でも、凡人には理解できない難解な試験が繰り広げられる光景でもなかった。
 あえて短い言葉で表現するなら……

 どんなに苦しい局面でも決してあきらめず、他人を思いやり、その言葉と行動で人を動かす力があるか

 その”人間力”を徹底的に調べ上げる試験だったのである。

 ちなみに、ひとり当たり40分もかけて行われる面接では、「宇宙飛行士に、なぜなりたいのか?」というような定番の質問のほかに、「あなたは宴会の幹事をしたことがありますか?」というようなことも訊ねられるそうです。

極限の状態で活動しなければならない宇宙飛行士たちは、けっして、「物質的に恵まれた存在」ではありません。

 採用時本給 大卒30歳 約30万円 大卒35歳 約36万円

このほかにいくらかの手当もつくのだとしても、たぶん、パイロットや有名な研究者、医者などだった最終候補者10人は、この条件だと、大幅な年収ダウンになるでしょう。アメリカへの移住も求められます。
それでも、多くの「エリート」たちが宇宙を目指す。

この新書では、「宇宙飛行士の採用基準」として、「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」の2つが重視されたと書かれています。

 ストレス環境下であっても、チームワークを発揮できるかどうか。団体行動における、候補者それぞれの力を見たかったのだ。
 JAXA(独立行政法人・日本宇宙航空研究開発機構)はこれを”リーダーシップ=leadership”と”フォロワーシップ=followership”と呼び、今回の試験で最も重要な採用基準とsていた。
 ”リーダーシップ”は指導力。そして、”フォロワーシップ”は、リーダーに従い、支援する力を指す。

 (中略) 

 そして、JAXAは評価のポイントを以下の5つに定めた。

(1)時間内に決められた作業を、きちんと達成できるように、集団をコントロールできるか。
(2)チーム内に意見の対立があっても、それをまとめて、課題を遂行できるか。
(3)チームに目標を示し、それに向かって作業を進めることができるか。
(4)チームからの指示を正確に実行できるか。
(5)必要な場合、リーダーに対して適切に意見を述べることができるか。

 極限のストレス環境下でも、チームの置かれている状況を的確に把握し、場面に応じて、リーダーシップやフォロワーシップを発揮できるかと、JAXAは見極めようとしていたのであった。

 「リーダーシップ」という言葉はよく耳にするのですが、「フォロワーシップ」という言葉、僕ははじめて聞きました。「リーダー」として周囲を引っ張っていくだけではなく、必要な際には、「縁の下の力持ち」として機能することを厭わない人間ではないと、宇宙飛行士にはなれないのです。
 宇宙では、行われる作業の種類によって、各自がリーダーになったり、中心となる人物のサポートにまわったりする必要が出てきます。
 もっとも、それは宇宙空間だけの話ではありません。

 この新書を読むと「フォロワーシップの重要性」について、宇宙飛行士とは程遠い場所にいる僕も考えさせられました。
 「宇宙飛行士として必要な資質」というのは、なにも特別なものじゃくて、「社会に生きる人間として必要な資質」を高いレベルで求められているだけなのです。
 そういう意味では、この「選抜試験」という濃密な時間を本を通じてでも体験することは、「自分に何が欠けているのか?」を考える良い機会になりました。

 最後になりますが、この新書には、前述の「収入」のような「宇宙飛行士の現実」についてのさまざまなエピソードが紹介されています。
 そのなかのひとつ、国際宇宙ステーションの「臭い」の話。

 「音」と同様に「臭い」も、そのまま滞留する。いわゆる体臭や汗、それに洗面所の臭いである。ちなみに、国際宇宙ステーションにはシャワーなどの入浴設備がない。専用のウエットタオルで体を拭くなどしかできない。つまり長期滞在の宇宙飛行士は、6か月間、風呂に入れないのだ。どんなに清潔に保とうとしても、体臭や汗の臭いが出てくるのは当然のことで、関係者によると宇宙ステーションの中は、体臭、汗、機械の臭いなどが混ぜ合わさり、独特な臭いが充満しているという。
 もちろん、スペースシャトルも例外ではない。あるNASAの関係者は、「スペースシャトルの中の臭いはもの凄い」と話す。シャトルが地球に帰還したとき、地上の整備担当者たちがシャトルのハッチ(出入り口の扉)を開けるが、そのとき漂ってくる臭いは、鼻が曲がるほどだという。

 ほんと、宇宙飛行士というのは、「理想だけでは務まらない、大変な仕事」なのだなあ……


宇宙兄弟(1) (モーニング KC)

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