琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない ☆☆☆☆

ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない (マイナビ新書)

ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない (マイナビ新書)

内容紹介
ビジネス書はビジネスマンに夢を見せてくれるという点で「島耕作」シリーズと同じ。それが“現実的かどうか”は問題ではない。ビジネス書は「栄養ドリンク」みたいなもの。一時的に血糖値を上げヤル気にさせてくれるが、医学的効果は果してどうなのか。ビジネス書はいうなれば「道に迷ったときのタバコ屋のおばさん」。方向を教えてはくれるものの、歩き出すのはあくまで当人……。


本書で語られるのは、ゼロ年代ビジネス書の総括から、出版業界の裏側、振り回される読者の実態、ビジネス書との賢い距離感の探り方、自己啓発・成功本における定番ストーリー解読、古典的ビジネス書のエッセンスまで……いわば「ビジネス書の攻略本」ともいえる充実の内容。


これさえ読めばもうビジネス書なんかいらない。


この本のオビには、こう書いてあります。

 ビジネス書とはつまり 島耕作や栄養ドリンクやタバコ屋のおばさんみたいなものである。

少なくとも、「読むだけで効果がある」などというものではないことは、ここ10年だけでも「幸せになるためのノウハウ」「仕事ができるようになるライフハック」などの数々の本があれだけ売れたにもかかわらず、みんながそんなに幸せにも、仕事ができるようにもなっていないことからも明らかだと思います。


まあ、それが「書いてある内容のせい」なのか、「それを実行できない読者のせい」なのかは、なんとも言えないところはあるんですけどね。


僕も岡田斗司夫さんの「レコーディング・ダイエット」に感心しつつも、結局3日坊主ですからね……
あれ、ちゃんとやれば、本当に痩せるというか、少なくとも痩せようという意識は高まると思うんだけど、めんどくさいのか、僕の場合、「痩せるより食べることが大事」なのか……


この本の前半には、「この10年間のビジネス書のベストセラー」が紹介されています。
これがなかなか、興味深い。
2001年のビジネス書ベストセラー第1位『金持ち父さん 貧乏父さん』とか、2003年の3位『ユダヤ人大富豪の教え』などは、「ああ、いかにも『ビジネス書』だねえ」という感じなのですが、2006、2007年の1位『鏡の法則』、2008年1位の『夢をかなえるゾウ』と、どんどん「自己啓発系成分がアップしたもの」が「ビジネス書」を席巻してきています。ちなみに、2010年の1位は『もしドラ』こと、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーのマネジメント』を読んだら」(この本は「自己啓発系」とは言いがたいですが)。
2000年代後半には、茂木先生の「脳科学系」の本もビジネス書としてランクインしていて、その一方で、「株や投資のやりかたを解説する本」もあり、「ビジネス書」と呼ばれるものは、本当に幅広いのです。
ただ、2000年代だけをみていても、「専門的な内容を解説した本」よりも、「自己啓発系」「簡単に読める物語形式の本」が、ベストセラーに多くの割合を占めるようになってきているようです。


著者は、勝間和代さん(2007年にビジネス書界にデビュー)を「ゼロ年代ビジネス書界のアイコン」として、こんなふうに紹介しています。

 勝間氏については、それだけで本が1冊書けてしまうくらい話題が盛りだくさんなのですが、勝間氏がなぜここまで売れたのか、理由をザックリと考えてみますと、徹底したパーソナルブランディングと天井知らずの上昇志向なのかな、と思うのです。著書の中で自分が売れた理由を臆面もなく語り(といっても、どんな本がウケるか徹底的にマーケティングしました、ニーズはあったのにマッチする本がなかった領域を開拓しました、みたいな話なのですが)、芸能人との華やかな交友関係の話題をちりばめつつ(かつての林真理子氏を彷彿させます)、自慢話とも取れるような自分の体験談を織り交ぜながら、「私はこうして効率よく、しなやかに、美しく仕事をこなし、公私を充実させています」となんのためらいもなく、ドヤ顔で語り尽くすワケです。その存在感は、ちょっとズバ抜けていました。ゼロ年代、ビジネス書界には、「勝間和代」という独自のジャンルが存在していたのかもしれません。

 ちなみに著者は、「これぞ勝間節!」という臭いに触れるための著書として、『まじめの罠』(光文社)や『ズルい仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を推薦されています。
(あくまで、「勝間和代らしさ」を知るための本として、であり、内容を奨めているわけではないので念のため)


参考リンク:『まじめの罠』感想(琥珀色の戯言)


 僕も何冊か勝間さんの本を読んでみたのですが、正直「ついていけんなあこれは」と思いました。
 でも、「こんなに欲望を前面に押し出してもいいんだ!」ということに「希望」を抱いた人も多かったんだろうなあ。
 僕は勝間さんの『断る力』が流行っていたときに、内田樹先生が「能力と給料が比例しているような世界では、大部分の人はがっかりすることになるから、みんながちょっと不公平だと思うくらいで良いんだ」とか、「オンリーワンになることは難しいから、『頼みやすい人』『めんどうなことをやってくれる人』として組織のなかで有用な存在になるのもひとつの生き方なのだ」と書かれていたのを読んで、「そうだよなあ、そのほうが僕にとっては賢い戦略だよなあ」と感じたのを記憶しています。
 いや、あらためて考えると「なぜ私の本は売れるのか」という内容に『読書進化論』というタイトルをつけて売り捌いてしまう勝間さんの突き抜けっぷりには、本当に頭が下がるんですけどね。
 あの、書店で睨みつけてくるような「著者の写真」の使い方もすごかった。

 とはいえ、どうしても気になってしまうのは、せっかくのミッションステートメント(活動指針・活動方針を言葉にしたもの)を、ある種の自己演出、パーソナルブランディングの一環として、つまりは”デキるビジネスパーソンである私”アピールのための一手段として使っているような御仁の存在です。正直、あまりにも臆面がない自己アピールは、見ていてイタイし、気持ちが悪い。そこまで品行方正な自分を熱心にアピールしなくてもいいのに、と逆に胡散臭さすら感じてしまうこともあります。
 そう思ってブログやフェイスブックページをよく読んでみると、情報商材ダウンロード販売サイトをやっておられたり、ネットワークビジネスの勧誘ページにリンクで飛ばされてしまったり、”やる気にさせる自己啓発コンサルタント”や”目標実現アドバイザー”のような微妙に香ばしい肩書きを名乗られている方だったりするケースもなかには身受けられるので、リアクションに窮してしまうこともあります。

 まさに「あるある!」という話です。
 「ビジネス書」ばっかり「書評」している人も多いしね。
 で、読んでいくと、著者と知り合いだったり、「○○さんのセミナーに行きました!」だったり。


 「ビジネス書」ばかりを読んで、その本やセミナーを読者にすすめてばかりいる人の仕事が「ビジネスコンサルタント」っていうのは、なんというか「ビジネス書ネズミ講」みたいな感じがしてなりません。


 この新書、けっこう批判が多いのに読んでいてイヤにならないのは、著者が「ちゃんと、この本のなかで紹介しているビジネス書を読んでいるから」なのだと思います。
「ビジネス書なんて読みやがって、バーカ」と決めつけるのではなくて、「ルーツになる本の焼き直しばかり」とか「読者の不安を煽って商売をしている」という指摘をしながらも、「それでも、まったく役に立たないということもない」し、「読む価値がある本もある」と仰っています。
そして、「著者が『本を売ること』に協力的であること」や「出版社のなかには、取次を通さないところもあり、シビアに『売れる本』をつくっている」という、これまでの「良作なら、放っておいても売れるはず」という出版業界の「お高くとまっていた面」へのアンチテーゼとして、「ビジネス本というビジネス」があることも忘れてはいません。

 たしかに、読んでいる方は非常にたくさんのビジネス書に目を通しています。月に10冊以上、1〜3万円程度の金額を投入して、ビジネス書を読んでいる人も(あくまで私の感想ですが)1割程度はいるような印象です。
 ただ、一方で最近よく聞くようになったのが「ビジネス書を読むのに疲れてきた」「次から次へと新刊が出て、急き立てられるような気分になり、どれを読めばいいのか混乱してしまう」といった証言です。
 また「ビジネス書を読め。読まないと成功できない――みたいな論調がビジネス誌やビジネス書で跋扈しているけど、月に10冊どころか3冊買う程度の余裕すらない。時間はやり繰りできるかもしれないが、お金には限界がある」といったコメントも、頻繁に聞こえてくるようになりました。


 著者は、「ビジネス書、自己啓発書は全部ダメだ」と言っているわけではありません。

 第2章でも述べたように、自己啓発書の歩みを見ると、何冊かの原典というべき定番タイトルに行き着きます。そして、これも再三述べてきたように、自己啓発書で語られる内容、教えはそれら原典ですでに語られ尽くしている事柄が非常に多いのです。ですから、自己啓発書を読むのであれば、劣化再生産版自己啓発書に翻弄される前に、第2章で紹介したような原典をじっくりと読んでみることを強くオススメします。
「さらに厳選しろ」ということでしたら、『7つの習慣』と『思考は現実化する』の2冊を挙げさせていただきます。どちらも、読み進めることを拒むかのようにブ厚い本だったりしますが、そこで臆することなく、ちょっとずつでいいから読み進めてみてください。

 僕も『もしドラ』を読んだあと、ドラッカーの『マネジメント』を手にとってみたのですが、読み通すのはかなり辛かったです。しかも、何が書いてあったのか、もう思い出せなくなっているし。
 でも、「本当に差がつくような読書」っていうのは、そんなに簡単じゃないんだよね、きっと。


糸井重里著『はたらきたい。』で、書評家・永江朗さんの、こんな言葉が紹介されています。

 以前、ある雑誌で、社長さんや、それなりの肩書きのある人に百冊の本を挙げてもらう、というインタビューをやったんです。そこでいちばん多く挙がったのが「デカルト」でした。なかでも『方法序説』。原理的なものや、普遍的なものって、古ければ古いほど「使える」んですよ。


「ビジネス書依存症」になっている人、そして、これから「ビジネス書」を読んでみようと思っている新社会人も、一度読んでおいて損はしないと思います。

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