- 作者: 齊藤正明
- 出版社/メーカー: マイナビ
- 発売日: 2013/04/23
- メディア: 新書
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内容紹介
上司との人間関係に悩み、すがるように購入してしまった150万円の教材、そこから始まった自己啓発セミナーに通う日々……。
気がつけば数年間でセミナーや教材に600万円以上のお金を使い、上司以外との人間関係もおかしくなってしまい……。
今、「自身の能力を磨くことが大事! 」とよく言われていますが、筆者は、その言葉を額面どおりに受け止めて人生をよりおかしくしてしまった典型だと言えます。
自分の成長のために、勉強することはとても素晴らしいことです。
一方で、自分磨きもやりすぎると、かえって仕事や人生をおかしくしてしまう危険性があることを、筆者自身が身をもって体験しました。
そのようなあやまちをおかす人を一人でも減らしたく、この本では、自分を磨くことの功罪に触れ、より自分らしく活躍できる手助けになればと思います。
自分を磨きたいという気持ちや考えは素晴らしいものですが、「自己啓発」との付き合い方に、本書を読んで気づいていただきたいです。
「マグロ船流仕事術」で成功した筆者が、自己啓発にハマった笑いあり涙ありの日々を語り、そこで気づいたことを語ります。
『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』でブレイクした著者による、「それまで」の日々。
最初の職場でのパワハラ上司のエピソードには読んでいて僕も腹が立ちましたし、よくこんな人の下で働けたなあ、と逆に感心してしまいました。
この研究所の所長は、部下に無理な指示をすることが非常に多く、それでみんなやる気がなくなっている状態だったのです。朝、研究所に出勤した後は、ミーティングということで所長のいる3階の部屋に行くのが日課となりました。すると所長から、
「今日は出張だから、13時になったら羽田空港に送ってくれ」
「おにぎり2個、買ってこい」
「グレープ味のジュースを買ってこい」
というような、公私がごちゃ混ぜになった指示を、小声で早口、しかも矢継ぎ早に出されます。多い日だと、10件くらいの指示が飛んできました。
この時間が私にとって非常に緊張をするときで、指示が覚えきれないと所長に、
「お前、朝、俺が言ったじゃねーか! ただでさえ仕事ができねぇのに、こんなガキの使いみたいなこともできねーよーじゃ、早く死ねよ!」
と、何度も怒鳴られていました。ちなみに、「死ね!」という言葉は、朝のあいさつのようなもので、1日1回は聞かされる言葉でした。
それで私が「忘れないようにメモをとらせてもらっていいですか?」とたずねれば、所長から「ダメに決まってんじゃねーか・それくらい覚えろよ。トレェなぁ」と舌打ちされるので、メモもとれず、結局は何かが抜け漏れしていました。なので、入社して間もないころの悩みは「どうしたら自分の記憶力が上がるだろう?」ということでした。
著者はそこで「仕事を辞める」「反抗する」という選択肢ではなく、「自分の記憶力を上げようとした」のです。
これ、パワハラ上司の思うつぼだろ……という感じなのですが、結局著者は「100万円のトレーニング教材のテープ」を買わされたり、いろんな自己啓発セミナーに通ってみたり。
栗山: 「いいですか。ここが齊藤さんにとって、最大の人生の分かれ道であることに気づいていますか?」
私: 「ど、どういうことですか?」
栗山: 「成功者に共通していることは、『決断力の卓越性』なんです。確かにウチの製品は高価です。『高いから買わない』。これは、多数決的な結論です。しかし、多数決は正しくありません。失礼ですが、齊藤さんの周りで、お金持ちで毎日が楽しく豊かに生きている人ってあまりいないのではないですか?」
私: 「た、確かに会ったことはないです」
栗山: 「でしょう? それは、成功者は常に少数だからです。そして、少数の成功者は、多数決的な決断をしないので、一般の人と交わることがほとんどないからです」
私: 「それはわかりますが、でも、貯金もそんなにないので……」
栗山: 「この製品は値下げをしません。今買っても、10年後に買っても、値段は同じです。それだと、いつ買ったほうがいいと思いますか?
私: 「お金が貯まった10年後ですか……?」
栗山: 「それは逆です!」
読んでいて「齊藤さん、あぶない!」と声をかけたくなるシチュエーション満載です。
ただし、自己啓発セミナーに全般に関しては、著者は必ずしも否定的な見かたはしていません。
セミナーをやる側の仕事を現在はされているというのもあるのでしょうけど、「自己啓発セミナー」=「洗脳」というようなイメージを持ってしまっている僕としては、著者は素直で人の話をちゃんと聞こうとする人だよなあ、感心してしまいます。
著者は「騙されやすい」ように見える一方で、「素直で他の人の言うことをよく聞き、向上心もある」ので、なんのかんの言っても、パワハラ上司も含め、それなりにかわいがられ、愛される人だったのではないかと思うのです。
最初の「パワハラ上司の研究所」なんて、僕だったら1週間ももたなかったと思うけど、何年間も勤めあげているわけですし(最終的には精神的なトラブルでの休職になってしまったのですが)。
著者がマグロ船に乗ったきっかけも、こんな感じだったそうです。
所長: 「オイ、齊藤ちゃん」
私: 「は、はい!」
所長: 「お前、マグロの鮮度保持剤の開発は進んでいるのか?」
私: 「あっ、いや、やってはいるのですが、ちょっと遅れていまして……」
所長: 「そうか、遅れているのか……。お前がマグロの鮮度保持剤の開発を一気に進めるためには、ひとつだけいい方法がある」
私: 「ど、どんな方法ですか」
所長: 「マグロのすべてを知ってこい」
私: 「すべてを知る?」
所長: 「そうだ。すべてを知るために、お前は一度、マグロ船に乗ってこい」
このとき、私も含めた参加者一同が、「なぜ齊藤がマグロ船に乗ると、マグロの鮮度保持剤ができるのだろう?」と理解できなかったのですが、所長の決めたことには誰も逆らえません。
本当に鮮度保持剤の開発に役立つのならともかく、これじゃ嫌がらせだよね……
で、実際にマグロ船に乗った著者もすごいと思うのですが、結果的に、この「珍しい体験」が、著者の運をひらくことになるのですから、人生というのはわかりません。
「乗った」とはいえ、40日間。
もちろん、ラクじゃなかったでしょうけど、それを生業にしている人にとっては、「そんなの乗ったうちに入らない」という感じではないかと。
それでも、その「キャリア」は、著者の転職先の講演やセミナーのネタとして、多くの人に興味を持たれるきっかけになったのです。
個人的には「マグロ船というシステムの素晴らしさ」というより、「誰の話でも素直に聞き入れようとする著者のキャラクター」こそが、最大の「武器」なのではないか、と思いましたし、「マグロ船」での体験を過剰に一般化するのもどうかな、という気はするんですけどね。
(このエントリの最後に、僕の『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』の感想のリンクを貼っておきます)
そしてセミナーは、先ほどお話ししたとおり、いい人が多く集まるコミュニティです。そのため、精神の安定にはとてもいいのですが、一方で仕事の成果を出すには多少、不向きなところもあるのを感じて、私は通うのをやめました。
それはセミナーでいろいろ学び、賢くなればなるほど、意外かもしれませんが、”ストレスに弱くなる”ように感じているからです。
セミナーでは、「笑顔にしているといい」「ほめるといい」とたくさんの人間関係で大事なことを教えてくれます。これらを知れば知るほど、「確かにそうだな」と反省し、実践するように心がけます。ここまではいいのですが、次からが問題です。
ヘタにコミュニケーションのテクニックを知ってしまうと、それを実践してくれていない上司や身内など、身の回りの人に「何でこの人はやらないんだ!」と不満はストレスをためて、「自分は正しく、相手が悪い」となってしまい、先ほど言ったように間違えたエリート意識を持ってしまうのです。
セミナーで学ぶ前は、自分もそんなことは知らないので、実践していない人を見ても何とも思わなかったのが、ヘタに理想を知ることで、今までになかったストレスをつくりあげてしまうのです。結果、現実世界で頑張るよりも、セミナー仲間で仲良しになりすぎる現象が起きてしまいます。
「自己啓発」のメリット、デメリットの双方を知り、体験してきた著者だからこそ書けた一冊。
しかし、「自己啓発セミナー」って、「信じないと効果がないし、信じすぎると騙されたり、自分を見失ってしまったりする」という、かなり厄介なものではありますね。
多少洗脳されているくらいじゃないと、いまの世の中、会社人生を生き抜いていくのは難しいのだとしても。
会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ (マイコミ新書)
- 作者: 齊藤正明
- 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
- 発売日: 2009/02/21
- メディア: 新書
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