琥珀色の戯言

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勝ち続ける意志力: 世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」 ☆☆☆☆


勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

内容説明
世界一のプロ・ゲーマーに学ぶ勝負哲学


ゲームファンから「神」と崇められ、「世界一長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー」としてギネスブックに認定されている伝説のゲーマー・梅原大吾が、初めて熱い想いを語る。
「小学生からゲームが好きだった僕は、勉強も部活もしてこなかった。だからこそ、ゲームを通して自分を成長させるのだ」との強い意志のもと、17歳で強豪を破って世界大会優勝。その後、一度ゲームを辞めた時の挫折感、そして復活、再び世界一になり、プロ契約、ギネス認定に至るまでのウメハラの全貌がここに明かされる。
ウメハラは「たかがゲーム」という世間の冷たい視線に耐え、「どうすれば自分を向上させることができるのか」を常に考え抜いてきた。「楽な勝ち方ばかりしていてはやがて勝てなくなる」「変化なくして成長なし」「最もライバルが多いゲームをあえて選ぶ」など、彼がこれまで実践してきた、勝ち続けるための勝負哲学は、ゲームの世界のみならず、いまの社会を強く生き抜くための指針でもある。ウメハラ渾身の作である本書は、ゲームの攻略本ではなく、人生の攻略本である。


【編集担当からのおすすめ情報】
ゲームファン憧れのプロ・ゲーマー梅原大吾氏の初めての書籍です。「勝ち続けるためには」「自分を向上させるためには」どうしたらいいかを常に考え続けているその語り口、人となりは、若き哲学者の風情さえも感じさせます。ゲームファンはもちろん、自分を向上させたい、あるいは仕事で壁に当たっているビジネス・パーソンの方々に是非読んでいただきたい人生の書です。


書店でこの新書を見かけたとき、僕は内心、「ああ、新書の『なんでもあり』もここまで来たか……いくら世界一だからって、プロゲーマーに『仕事術』なんて語られてもねえ……所詮『ゲーム』が上手い人の自慢話だろ?」と思っていました。
「8万部突破!」なんて宣伝文句をみて、「世の中には、好事家が多いねえ」とも感じたのですが、読んでみて驚きました。


ああ、こんな「泥臭い」本だったのか……


これはもちろん、悪口ではありません。
新書に氾濫している「有名人が、思いついたことを喋って、そのまま活字にしただけの本」にはない、「人生の重み」みたいなものが、この1冊の本には込められているのです。

 とりわけ重要なのは、本書に書かれていることは、ただ勝つのではなく、「勝ち続ける」ことに主眼を置いているという点である。なぜ、「勝つ方法」ではなく「勝ち続ける方法」なのか? 両者は似て非なるもので、時としては相反するほどに大きな隔たりを見せる。「勝つ」という言葉は、「結果を出す」と言い換えることでよりイメージしやすくなるかもしれない。「結果を出す」ことと「結果を出し続ける」ことは根本的に性質が異なる。
 結論から言えば、勝つことに執着している人間は、勝ち続けることができないということなのだが、この一言で「なるほど、そうか」と膝を打ててしまう人が大勢いるようなら、そもそも僕がこのような本を書く必要はなかっただろう。現実においては、勝ち続ける人間、結果を出し続ける人間は極めて稀なのである。勝てるかと問われて頷くことはできても、勝ち続けられるかと問われると返答に窮するのが普通だろう。


(中略)


 僕は決して無敗ではないし、無謬のチャンピオンでもない。負けるときは完膚無きまでに負けるし、連敗で結果が出ない時期が続くときだってある。ゲームを極めたなんてこれっぽっちも思わなければ、自分は天才だと勘違いすることもなかった。
 それでも、僕は「勝ち続けられるか?」という先の問いに、迷うことなく「YES」と答えることができる。勝ち続けるために必要なことがなんなのか、そのためにしなければならない努力や姿勢はいかなるものなのか。強い意志を持ってそれを突き詰め、実践したことで築き上げてきた僕の自信は、それこそ100や200の敗北で揺らぐことなど決してない。


僕は梅原さんのこと、「そういえば、どこかでこういう人がいるのを聞いたことがある」という程度だったのです。
でも、この新書を読んで、その人生に、惹きつけられました。
「ゲーム」=「遊び」だと思われがちな世界で、「勝つ」さらに、「勝ち続ける」ことが、どんなに大変なことなのか。
好きなものが、「野球」や「サッカー」、あるいは「将棋」みたいな「プロとして生きている道が確立されているもの」であれば、とりあえず人生設計はわかりやすくなります。
それが、実現できるかどうかはさておき。
梅原さんの場合は、それが「格闘ゲーム」であったがために、「勝つこと」そのものの難しさと同時に、「勝つためのモチベーションを維持すること」の難しさもでてきます。
だからこそ、梅原さんは「ひとつの勝負に一喜一憂するのではなく、少しずつでも自分を高めていくこと」を目指すようになっていきました。
梅原さんにも、ゲームを諦めて麻雀のプロを目指したり、介護の仕事をしていた時期があったりして、それがまた、傍からみれば「ドラマ」になっているんですけどね。
梅原さんの麻雀への取り組みかたを読むと、「勝ち続ける方法」を自分のものにしている人は、違う世界でも成功できるのだなあ、ということもわかります。
そのなかの、「麻雀の世界では、勝つことによって、人に恨まれることもある」というちょっとした記述から、「ああ、この人は本質的には優しくて、競争が嫌いな人で、だからこそ、こんなふうに(相手を出し抜いて勝つことではなく)『自分を高めていくこと』にこだわるようになったのだなあ」と感じました。


この新書の内容、さきほど「泥臭い」と書きましたが、読んでいると、「ああ、こういう人とは戦いたくないなあ」と思わずにはいられません。

 結局、周りの人間は結果のみで評価する。
 だから自分にしか分からない努力を続けている最中は、たいてい誰にも認められない。物事の表面しか見ることができず、深く考察しない人間は、努力の過程を見ることなく、結果だけを見てバカだ無謀だと吐き捨てる。
「アイツ、まだあんな古臭いやり方をしているよ」
 確かに非効率的な戦法なのは否めない……気持ちが負けそうになる。
 しかし、そこで気持ちが負けて、便利で簡単な戦法を選んでしまうと、確実に成長が止まってしまう。それは間違いない。
 それでは10の強さは手にできるが、そこが行き止まりだ(10とは一般的な努力で到達できる最高点ということだ)。
 僕は10の人間に勝つために頑張っている。そんな僕が10では意味がない。だから、時間がかかっても、バカにされても、11、12、13の強さを目指す。
 結局、効率のいい考え方、効率のいい勝ち方というのは、たかが知れている。
 例えば、ある格闘ゲームのあるキャラクターだけが使える便利な技があるとする。すごく性能が良くて、それを使えば強いのは誰の目にも明らかといった技だ。すると、みんなその技を使いたがる。そして、みんな同じプレイになる。あまりにも支配力が強いので、誰がプレイしてもその技に頼らざるを得なくなるのだ。
 僕なら、絶対にその技を使わない。
 当然、苦労は多い。だけど、本当にその技がないと勝てないかというと、それは違う。一生懸命探せば、代わりになるものは必ず見つかる。便利な技を使えばコンスタントに80点は出せるかもしれないが、100点には届かない。
 一方、便利な技に頼らずキャラクターのトータルの能力を上げたり、自分の判断力を磨いたりしていると、100点に近づくことができる。
「なんで、あの技、使わないの?」
「まあ、いいじゃんいいじゃん(笑)」
 そんなやり取りを続けて1年、便利な技に頼り続けた人間と、使わなかった僕とでは、力の差は大きく開いている。
 しかも、便利な技というのは応用が利かない。その技がすべて。つまり、自分自身は何も成長していない。システムに頼っているに過ぎず、自分は少しも工夫していない。だから、便利な技が通用しなくなったとき、技自体がなくなってしまったときには、どうすることもできない。
 一方で便利な技に頼らず、ゲームの本質を理解しようと努力してきた僕は、その技が使えなくても、キャラクターが変わっても、少しも動じることがない。
 いわば不変の強さを手にしたと言える状態だ。


いまの世の中、とくにネットのなかには、「誰にでもできる」「要領よく立ち回るための」ライフハックが、腐るほど溢れています。
ところが、梅原さんは、「そんな簡単な道を選んでいては、チャンピオンにはなれない」と語りかけてくるのです。
僕も含めて、おそらく大部分の人は、こんな人の真似なんてできません。
でも、「効率を追い求めるだけのやりかたでは、到達できない世界がある」というのは、まぎれもない事実だと僕も思うのです。
ライフハック」でさえ、僕はブックマークするだけで、実行できてはいないのだけど。


この新書のなかで、いちばん印象的だったのは、

 僕にとって生きることとは、チャレンジし続けること、成長し続けることだ。成長を諦めて惰性で過ごす姿は、生きているとはいえ生き生きしているとは言えない。
 常にチャレンジして、たくさん失敗すればいいと思う。ときにはどん底を味わうような苦い経験もするだろうが、とりわけ若いうちはいくらでも取り返せる。若い頃は気力も充実しているし体力もあるから、きっと立ち直れる。
 もちろん、年を取ったら失敗できないなんてことはない。
 若いうちに失敗した方がいいのではなく、若いうちから失敗した方がいいだけだ。
 僕はどんどん失敗したいと思っている。5年後、10年後もチャレンジと失敗を繰り返していたいと思う。
 もちろん、同じ失敗を繰り返すつもりはない。「よし、失敗した」と喜ぶこともない。ただし、失敗することを恐れない人間でありたい。
 そのためにも、若いうちから失敗した方がいい。
 年を重ねると背負うものが多くなる。そうすると、失敗したときすべてを失ってしまうかのような不安がつきまとい、次の失敗を恐れる気持ちも大きくなってしまう。
 若いうちから失敗癖をつけておけば、トライ&エラーが当たり前の習慣になる。失敗に強くなる。
 進んで失敗する必要はないし、毎回のように失敗する必要もない。しかし、失敗から学べること、失敗からしか学べないことがあることは知っておいた方がいい。どん底から立ち直った人間は、顔つきが違う。目に力が宿っていて、絶対に負けを認めない信念を感じる。そういう手合との対戦は、いつまで経っても決着がつかず心底疲れるのだが、なぜだか晴れやかな気分になってしまう。

この文章でした。
「若いうちの苦労は、買ってでもしろ」ということわざに反発を覚えてきた僕も、これならば、納得できる。
「若いうちに失敗した方がいい」のではなく、「若いうちから失敗し続けた方がいい」。


これはまさに、「人生の攻略本」だと思います。
人生に「裏技」なんて、無いんだよなあ、結局。
「攻略本に書いてある通りにプレイする」ことが難しいのは、ゲームも人生も同じ、ではあるのですけど。




↑この新書のなかでも紹介されている、梅原さんの「大逆転劇」の動画です。

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