- 作者: 北野武
- 出版社/メーカー: ロッキングオン
- 発売日: 2012/10
- メディア: 単行本
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内容(「BOOK」データベースより)
北野武監督にとって「物語」とは何か?『その男、凶暴につき』から『アウトレイジビヨンド』に至るまでの軌跡。すべての映画の脚本を語った画期的インタヴュー集。ベストセラー自叙伝、第10弾。
北野武さんのインタビュー集。
北野監督のインタビューには面白いものが多いですが、今回は、これまでに撮った映画の「脚本」をテーマにしているということで、北野映画を5本くらいしか観ていない僕は「読んでわかるかな……」と二の足を踏んでいました。
どうしても気になったので、結局買って読んだんですけどね。
北野監督の映画の脚本のつくりかたや、撮影時の「映画の常識」との闘い、そして、あまり評価されなかった作品たちの裏事情……
うん、観てない作品も含めて、「北野作品」への興味が、あらためて湧いてくるインタビューです。
ただし、どうしても観ておきたい北野武映画がある人は、そちらを先に観てから、この本を読むことをオススメします。
かなりネタバレしているので。
北野監督の「映画論」。
で、俺も、持論があるんだよ。基本的に映画ってのは、1枚の写真なんだけど、写真だと、ストーリーまで語れない。まあ、ロバート・キャパとかは、1枚の写真で戦争を語るんだけど。それじゃもの足りないときは、どうするか。その写真が動きゃいいんだよね。フィルムになる。それでも足りなきゃ、セリフつけよう、音楽つけよう、ってなるじゃない。しゃべらせよう、効果音を入れよう、カラーにしよう、って、じゃんじゃんつけ足してきたわけで。だから、最初の基本的な1枚の写真で、ものを語れなかったらダメだっていうのが、俺の持論だから。できたら、しゃべんなくていい、っていうのが、映画の基本だと思うんだよね。で、しゃべんなきゃダメなら、映画じゃなくて舞台やりゃいいじゃないか、っていう。
「1枚の写真で語ること」に、最低限の肉付けをしていくのが、北野監督の映画づくりなんですね。
ちなみに、『アウトレイジ』に関しては、「わざとセリフを多くした」そうなのですが、そちらのほうがヒットしてしまうのもまたひとつの現実ではあるのです。
このインタビュー集を読んでいると、北野監督の「仕事ぶり」に驚かされます。
あんなに忙しくて、映画の脚本とか、本当に自分で書いているのだろうか?って疑問だったのですが、この本によると、
脚本を書くのにかかる時間? 『あの夏、いちばん静かな海。』の脚本は、2時間ぐらいで書いたかな。2時間か3時間ぐらいじゃないかな。別の映画で、5時間くらいかかったのもあったかな。あ、こないだ、ニューヨーク行くとき、1本書いたんだ。飛行機の中で『アウトレイジ2』(『アウトレイジ ビヨンド』)書いて。だから、あれは10何時間かけたんだ。飛行機が飛び立って、着くまで。メシ食いながら、ずーっと書いてたの。そしたら、キャビンアテンダントが、「たけしさん、ずーっと起きてましたね。何やってたんですか?」って。「台本だよ」って言ったら、「へえ、どうなりました?」「書いた」って言ったら、笑ってたもん。「あら、すごい」とか言って。でもあれ、10何時間あったからね。10何時間もかけりゃあ、できるじゃない。それで、助監督やなんか、みんなに読ませると、疑問とかを言ってくるわけじゃない。で、それを手直ししていく。だから、たたき台の台本だけどね、それは。だから、昔の映画監督やなんかが、脚本家と何日も温泉旅館にこもって、みたいなのは、古きよき時代の話だと思うよ。あの人たち、映画しかやってないじゃない。こっちは、マヌケなテレビ番組とか、ぬいぐるみまで着て出てんのに、脚本にそんな時間かけてるヒマねえよ。
いやもうほんと、北野監督に関するさまざまなエピソードを読めば読むほど、その「仕事中毒」っぷりと、「処理速度」に驚かされるばかりです。
普通の人の、何倍も濃密な時間を生きている人、というか、そういうふうに生きずにはいられない人なんだろうなあ、と。
もちろん、「速ければいい」ってわけじゃないですが、北野監督の場合は、「早書き自慢」なわけじゃなくて、「自分のスピードで、使える時間に書いていたら、結果的にこれだけの時間で完成してしまう」のです。
あと、北野映画はだいたい「順撮り」(脚本の順番どおりに撮影していくこと)なんていう話も初めて知りました。
いまの映画で、「順撮り」って、けっこう珍しいはずです。
少なくとも、最近僕が読んだ監督さんや役者さんの「撮影日記」では、「順撮り」っていう映画はなかったような気がします。
大杉漣さんは最初、ワンシーンだけで、奥の部屋で「てめえ金払えこの野郎!」って怒鳴ってるシーンだけだったんだ。で、「あのヤクザ、いいねえ。じゃあ明日も来てもらおう」って(笑)。「沖縄も連れてっちゃえ」とか、じゃんじゃん出番が増えちゃって。
あれはねえ、最初は大杉漣さんじゃなくて、寺島(進)だったんだよ。で、寺島のやるはずだったことを、大杉漣さんにあげちゃって。撮影に入ってから、渡辺哲さんと漣さんを引きずったの。漣さんなんか最後まで引きずって、最後の最後に撃たれることにしたんだけど、ほんとは1シーンしかなかったんだから。したら今、大杉漣さん、忙しくてしょうがないでしょ?あれ、『ソナチネ』のおかげだよ、どう考えたって(笑)。
「順撮り」だからこそ、こういう役者さんの起用もできるわけです。
北野監督は、「ただ、小道具さんがあらかじめ作ってくれていたものが『いらない』ってなることがあるのはかわいそう」とも仰っておられますけど。
ただ、「撮影効率」とか「役者さんのスケジュール」とかを考えると、「順撮り」というのは、けっして良いことばかりの方法ではなくて、北野監督だから許される、という面もあるのかもしれません。
ハリウッドで映画を撮ったときの苦労話とか、『アウトレイジ ビヨンド』で、「役を作りすぎてしまった」加瀬亮さんの話とかもあって、とりあえず、北野作品に限らず、映画好きには、けっこう楽しめるインタビュー集だと思いますよ。
もちろん、北野監督の映画のことを知っていれば、よりいっそう楽しめるはずです。
このインタビュー集に、「北野武、アメリカを語る」という項があります。
そのなかで、北野監督は、こう仰っているのです。
だから、「アメリカはなんでも金だから」っていうけど、そのシステムは、結局、仕事欲しい奴は一所懸命やる、ってことなんだよ、結局。早く金持ちになりたいって奴多いから、一所懸命なの。言い訳がないの、だから。ほんと競争社会なんだよね。
ほんとにもう、はっきりしてる。全部金。だから、金持ってないと、情けない。銭持ってない奴は、まずいもん食ってて。わけのわかんない、セントラルパークのホットドッグとか。あんなの全部マフィアかなんかが仕切ってんだと思うんだけど。あすこで食うか、ちょっとしたビルの中のレストランのまあまあうまいとこで食うかっていうのは、全部はっきり分かれてて。だったら、お昼にヒスパニックのオヤジが作った変なパン食うよりは、レストランで食いたいなと思うじゃない。だから出世していくんだと思うよ。
北野監督のような「本当にがんばっている人、がんばれる人」にこう言われると、なんだかもう、「そういう世の中を肯定して、一所懸命這い上がるしかないのかな……」なんて気持ちにもなってきます。
アメリカや今の日本が抱えている問題というのは、そんな単純なものではなくて、「それなりに頑張っても、それなりには報われない」というか、「ものすごく頑張った(あるいは恵まれた)ごくごく一握りの人たちが総取りしてしまっていること」だと僕は思うのですが……
ただ、これに関しては、北野さんは2008年に『DIME』No.19(小学館)のインタビュー記事「DIME KEY PERSON INTERVIEW vol.24・北野武『芸術の危うさ』」で、こんなふうに語ってもいるのです(取材・文は門間雄介さん)。
「いまの時代は夢を持っているやつのほうが、なんの夢もないやつよりよっぽどいいとされてるじゃない。だって、夢を持っているんだからって。でも、現実は同じなんだよ。いま何もやっていないことに変わりはない。それなのに、いまの時代は強制的に夢を持たせようとし出したから、夢のないやつがそれを社会のせいにして、ナイフで刺しちゃったりするでしょう。でも、夢なんて持たなくていいんだって言わなきゃいけないんだと思うよ。下町だったらさ、いいんだよ、お前バカなんだからで終わるから(笑い)。別に、人に誇れるものなんてなくていいんだよね。ないやつだっているし、ない自由だってあると思うよ」
北野監督は、「棲み分け」をしたほうが、もっとみんな生きやすくなるのではないか?と考えているのかもしれません。
そもそも、北野作品は、けっして、「セレブ向け」ではありませんしね。「幸福な中流ファミリー向け」でもないけど。