琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】ネットのバカ ☆☆☆☆


ネットのバカ (新潮新書)

ネットのバカ (新潮新書)

出版社からのコメント
ツイッターで世界に発信できた。フェイスブックで友人が激増した。そりゃあいいね! それで世の中まったく変わりませんが……。ネットの世界の階級化は進み、バカはますます増える一方だ。「発信」で人生が狂った者、有名人に貢ぐ信奉者、課金ゲームにむしられる中毒者、陰謀論好きな「愛国者」。バカだらけの海をどう泳いでいくべきなのか。ネット階級社会の身もフタもない現実を直視し、正しい距離の取り方を示す。


あの『ウェブはバカと暇人のもの』の中川淳一郎さんの新刊。

 私がネットについて論じた書を初めて書いたのは2009年4月発売の『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)で、あれから4年。人間の趣味嗜好など本質についてはまったく変わらないものの、それ以外のなんとも様々なものが変わってきた。最大の変化はネットが生活の「ごく当たり前」のものになったことである。かつて特別視されていたインターネットが、一般的なインフラになり、それなしでは(特に都市部で働く人にとっては)、もはや仕事・生活が成り立たなくなりつつあるからである。

中川さんは、この4年間の「空白」について、「SNSがどんなに流行っても、本質的なものはほとんど変わらなかったので、新しく書くようなことも見つからなかった」と述べておられます。
(ちなみに、この期間にも3冊著書があるのですが、それは『ウェブはバカと暇人のもの』と同じ状況を切り口を少し変えただけなのだそうです)

 実質的に、今回の書は「日本のネットを俯瞰する」という意味で4年ぶりになる。
 なぜ今回、本書を書くに至ったのか。それは、インターネットが「ごく当たり前」の扱いをされる時代が来たことを肌で感じたからである。ネットで人々を起こらせる発言、ウケるもの、情報が拡散する様など、原理原則は変わらないものの、「ごく当たり前」になったことにより、何か別のことが書けるような気がしてきた。
 ネットは老若男女、各人各種の使われ方をするようになり、ついに水や電気と同じような扱われ方をされるようになってきた。いや、まだそこまでではないかもしれない。携帯電話と同じような扱いになったとでもいえようか。

ああ、たしかにそうだよなあ、と。
10年前は「ネットサーフィン」が「変わった趣味」の時代でした。
4〜5年前は、僕が住んでいる地方都市レベルでは「Amazonって、ジャングルのですか?」と20歳くらいの同僚女性に聞かれたこともありました。
でも、いまはみんなが当たり前にTwitterやLINEをやっていて、中年より若い世代にとって「ネットは使わない」というのは、ある種のファッションというか「自己主張」にすらなりうる時代です。
一昔前に「携帯電話は持たない主義」だった人が存在したように。


この新書を読んでいると、「中川さん、人間丸くなったなあ……」なんて思ってしまうんですよね。
ウェブはバカと暇人のもの』のでは、もっと激しい言葉で噛みついていたから。


中川さんは、この新書のなかで、「まず知っておいてもらいたい、ネットの2つの真実」を紹介しておられます。

(1)勝ち組は少数派。


(2)”The Winner Takes It All”――勝者が総取り。

もっとも、これは「ネットに限らず、有史以来、いっさい変わらない定理」でもあるそうなのですが。


そして、ネットの「可能性」を語る人は、いまでも多いけれども、そんなに甘いものではないことも詳しく説明しています。
「もともと有名な人が有利」なんですよねネットの世界でも。
個人サイトから、ブログ、SNSと、ツールは移り変わってきたけれど、実際、「たくさんのフォロワーを集めている人」の顔ぶれは、そんなに代わり映えしません。
むしろ、「ホームページビルダーの時代」のほうが、無名の表現者にはチャンスが大きかったような気がします。


ナイツの塙さんが『怒り新党』の関係者による花見の様子をブログに書いたら、アクセスが22万あって「有名人ランキングで88位に入った」というのを聞きました。
僕のような零細個人ブログ管理人は、1ヵ月頑張っても22万なんて無理。
それが、有名人だと、花見の様子の写真と、ちょっと文章を添えれば、これだけの人が見に来てくれるのです。
それでも、22万でも「有名人ランキング」では「88位」ですからね……
22万の上に、87人もいるのか……


一昔前は、ネットは「ホンネの温床」みたいなイメージがあったのですが、いまやtwitterは「バカ発見器」なんて言われています。
この新書のなかで、中川さんは、さかもと未明さんが飛行機の中で赤ん坊が泣いていたことに抗議し、ネットで炎上した事例を紹介しています。
あらためてそれまでの流れをみてみると、あのさかもとさんの文章って、もともとは『Voice』(PHP研究所)という総合月刊誌に掲載されたものだったのです。
雑誌が発売されて10日くらいしてから、ネットに転載されたことにより、文字通り「火がついた」。
『Voice』の読者は、10日間、そんなに大きなバッシングはしていなかったのです。
ネットというのは、雑誌などの紙のメディアに比べて、幅広い人に読まれる可能性がある一方で、「ゾーニングが難しい」というか「本来のターゲットではない人によって、バッシングされる」リスクもあるんですよね。
まあ、さかもとさんの場合は、言って良いことと悪いことがあるだろ、という話ではあるのですが、ゾーニングができないネット上では、すべてに高いレベルのモラルと少数派への配慮が求められる、ということにもなるのでしょう。
ネットは「誰でも自由に発信できる」けれど、「どこからでもバッシングされる可能性がある」のです。


この新書を読んでいて、僕は中川さんの現在の仕事ぶりに驚いてしまいました。

 このように述べると簡単そうだが、私がこの「1ジャンル(ネットニュース編集者)」の肩書きでメシを食うためにネット漬けになってきた時間はかなり多い。定時などない。土日ももちろんない。週に7日、朝起きてから夜に酒を飲みに行くまで、打ち合わせのため移動する時以外は、ほぼパソコンの前に座っている。
 休みは海外旅行の出発日である12月28日と帰国日である1月4日のみ。海外でも仕事をしている。編集・寄稿しているネットメディアは10。関与する記事は月に1000本ほどだろう。ネタ収集のため、1日に見ているページ数はよく分からない。気付くと150ほどのページが同時に開いていたりする。とんでもない日の場合は、以下のようなスケジュールとなる。とある木曜日の場合だ。(1)レギュラーのニュース原稿を朝7時から5本執筆・編集。(2)会議が午前中に3連発。(3)前日あがってきた原稿を85本編集し、記事を出す日程をエクセルに入力する。(4)メルマガの原稿を書く。(5)雑誌連載の原稿を書く。その間新聞社から「ネット選挙解禁」についてのコメント取材を受ける。(6)19時から行われる講演のパワーポイント資料を作る。開始15分前に事務所を出て、タクシーの中でギリギリまで資料作り。(7)終了後は受講生と飲み会。(8)深夜に戻ってから翌日の打ち合わせに向けた資料作成。(9)しかし、翌日も7時くらいから入稿作業をしなくてはならない。――といった具合だ。私自身、毎日酒を飲むことを心がけているのだが、忙しい日はこんな感じになってしまう。

なんなんだこの超人的な仕事ぶりは……
「忙しさ自慢」でもあり、「仕事がこんなにあるだけ良いじゃないですか」と思うところもあるのだけれども、いつまでこういう状況が続くかわからないから、いまこんなに働いている、というのもあるのでしょうね……
このくらい需要があって稼げていれば、人間も少しは丸くなるだろうけど、この生活はキツイよなあ。しかも土日も関係なし。
ネットというのは、「情報産業のコンビニ経営化」をすすめているのです。
24時間営業、店休日なし。


あと、個人的に疑問に感じていたことについても、この新書のなかに書かれていました。

 2ちゃんねるまとめサイトなどで、やたらとセクシーなフィギュアやマンガのアフィリエイトが貼られているが、それらはクリック率が良いからである。
 私も自分のかかわるニュースサイトではアフィリエイトをやっているが、最も売れるものは「TENGA」である。これは、まぁ、なんというか、男性が自慰行為をするいわゆる「オナニーホール」というものだ。性的なものは、あまり実店舗で買いたくないため、通販を利用するわけだ。そんな中、私たちのサイトには多くの人が訪れ、その中の一定割合の男性はTENGAアフィリエイトを見て購入意欲がそそられたのだろう。とにかく他の商品と比べ、売れ方が違う。また、グラビア系の写真集もよく売れる。

あれって、そんなに売れるものなのか……
2ちゃんねるまとめサイト」などで、画面の両脇に、この手の商品がずらっと並んでいることがよくありますよね。
僕は「こんなの人前で見られなくなるし、イメージ悪くなるだけなんじゃないか?」と思っていたのですが、実際に売れるのですね。


この新書の最後に、中川さんは「ソーシャルメディア上の”友達”は、本当に助けてくれますか?」と問いかけてきます。
これだけネットが「普通のもの」になってしまうと、かえって「会って話をすること」の価値が見直されつつあるような気がするんですよね。
ネットの友達に、どんなに「親しみを感じている」としても、「親しみを感じる」のと「親しく付き合う」ことの間には、大きな違いもある。


「ネットの力を信じている」「ネットでなら、何かができそうな気がする」人は、読んでみて損はしないと思います。


本当はもう「ネットじゃないほうが、カッコいい」時代になってしまっているのかもしれませんね。

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