琥珀色の戯言

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【読書感想】英国一家、ますます日本を食べる ☆☆☆


英国一家、ますます日本を食べる (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

英国一家、ますます日本を食べる (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

内容紹介
異邦人食紀行の金字塔
シリーズ累計10万部超!
英国一家、日本を食べる』刊行から1年。
前作では収録しきれなかった原著“Sushi & Beyond"内の16章に加えて、
本書だけの特別追加原稿および日本人読者に向けた書き下ろしエピローグを収録した続編が一冊の本になりました。


あなたにとって“和食"とは何ですか?


読めばお腹が空いてくる、垂涎のベストセラー第2弾!!


内容(「BOOK」データベースより)
ブース一家よ、何処へゆく。終わらない怒涛の“食”大冒険。ウニ、カツオ、鮨、MSG、しゃぶしゃぶ、すき焼き、干し貝柱、醤油、和三盆糖、フグ、泡盛、ウミブドウ、豆腐よう、イラブー汁、塩、などなど一家で挑戦。


 マイケル・ブースさんの前作『英国一家、日本を食べる』は、すごく面白くて、興味深い「外国人による、日本の食文化体験の本」だったのです。
 ちょっと薄いけど、待望の続刊か!と思いきや、この『ますます日本を食べる』は、前作を日本語版にする際にカットされた章+新たな書き下ろしが少し加えられ、つくられた本なのです。


 うーむ、正直、期待してしまっただけに、けっこう肩すかしを食らってしまったような……
 昔の人気バンドの「未発表曲」が、後世、公開されることがありますよね。
 でも、そういう曲って、「貴重」ではあるけれど、やっぱり「ちょっと今ひとつかな……」というものがほとんどです。
 この『ますます』に含まれている、つまり、前作に収録されなかったということは、少なくとも、日本の編集者がみて、「これはすごく面白い、絶対に外せない」と思うような内容ではなかった、ということなのでしょう。


 前作収録分の「面白くないもの」と、今回の「面白いもの」には大きな差がないというか、後者のほうが面白い、という人はたくさんいるだろうけれど、今作には「これは面白い!」というのが無くて、読んでいてちょっと飽きてきてしまいました。
 薄くて割高な感じもするしねえ。
 期待が大きかっただけに、失望してしまったところもあるのだとしても。


 前作の感想をいろいろ読んでいると、「『味の素』を訪問した回が日本語版には収録されていないのが残念!」とか「政治的圧力か?」なんていう反応があったのですが、今回はその『味の素』の話も入っています。

 MSG(グルタミン酸ナトリウム)を世界一大量に生産しているのは日本の味の素という会社で、年間1900万トンを生産し、世界各国に輸出している。味の素――文字通り、「味のもと」という意味――は、1908年にMSGを発見した池田菊苗博士が創設した会社だ。池田博士は、昆布にはアミノ酸のなかでも特にうまい天然のグルタミン酸が含まれていることを知り、この成分を製品化すれば、すばらしい調味料になると考えた。翌年、博士はグルタミン酸にナトリウムを加えて安定化させ、結晶性の粉末にして特許を取得した。
 その後数十年の間に、冷凍食品や缶詰の影響で日本の食を取り巻く環境は変化を遂げたが、MSGはそんな状況のなかでも、加工の過程で失われる食品の風味や味わいを補うという重要な役割を果たした――だから、ダイエット食品にはたいてい添加してある。
 それだけじゃない。パリにいたとき、トシは、後ろを振り返って誰も盗み聞きしていないことを確かめてから話してくれた――あるとき、味の素社はMSGの容器の頭に空いている穴を大きくして、大量に使ってもらえるようにしたらしい。それがスキャンダルでないというのなら、スキャンダルの意味が僕にはわからない。


 著者は、味の素本社に「突撃取材」を行います。
 といっても、ちゃんと広報を通して取材を申し入れているんですけどね。
 いわゆる「中華料理店シンドローム」に対する、『味の素』のスタンスや、世界の化学者たちの考え方なども検証されていて、たしかに、なかなか興味深い内容でした。
 「スキャンダル」の真実については、機会があれば、ぜひ読んで確かめてください。


 そして、「和牛神話」に対して、こんな、どこまで本気なんだかよくわからない「挑戦」を試みてもいるのです。

 僕は、このみごとな肉の本質に迫りたかった。どうすれば牛に心臓発作を起こさせずに、こんなに濃厚で脂肪の多い肉をつけられるのか? 音楽を聴かせるとか、酒をすり込むとかっていう噂は、はたして本当なのか?
 和牛に関する噂は、信頼性の高い情報源にも記載がある。たとえば、日本人フードライター、キミコ・バーバーはこう述べている。「牛肉には大理石のような模様が入っています。ビールでマッサージしてやるので、脂肪が肉の間にくまなく広がるからです」日本の牛の育て方に関するこのような記述は、新聞でも本でも何度も目にしてきた。だけど僕は、本当にマッサージをすればああいうふうに脂肪が「移動」するのだろうかと不思議に思う。それに、ビールのせいで脂肪がつくと主張する人もいるけど、それも本当なんだろうか? しかも、家畜に音楽を聴かせてやる農夫なんて、本当にいるのか?
 噂がすべて本当だとしたら、僕が今回の取材で身をもって確認しておきたいことは、はっきりしていた。日本の牛肉について下調べを始めてからというもの、僕は子どもじみた恥ずべき野望を捨てられずにいた。どんな野望か――それは、まだ誰にも話していない。リスンにさえも、日本訪問のプロジェクトそのものを、幼稚でバカな男の身勝手で愚劣な計画だと完全に否定されるのが怖くて話さなかった。
 僕は牛をマッサージしたい。
 牛をマッサージするばかばかしさが僕には魅力的で、マッサージをすることで世界屈指の豪華な肉の生産に参加するという安っぽい虚栄心にくすぐられていたのも事実だ。牛のかたわらに立って価値あるマッサージをしている僕の決定的瞬間の映像が、頭から離れられなくなってしまっていた。


 ああ、「牛をマッサージする」というのは、著者ほど日本の食文化を知っていて、好奇心旺盛な人にとっても、やっぱり「ばかばかしいこと」なんだなあ、と。
 言われてみれば、マッサージしたからといって、脂肪が「移動」するのかどうか?
 人間でも「痩せるエステ」とか、「脇の肉を寄せてバストアップする下着」なんていうのがあるらしいのですが(僕にとっては、「伝聞の世界」なので……)、牛に対して、マッサージって効果があるのでしょうか……
 どちらかというと、マッサージそのものよりも、そのくらい時間と手間をかけて飼育していることが、あの 「やわらかくて美味しい肉」につながっているのではないかなあ。


 ちなみに、著者は「日本の肉はたまに食べるならすごくおいしいけれど、僕にはあまりにも軟らかすぎて脂肪が多すぎる」と仰っています。健康上の理由というより、もうちょっと歯ごたえのある肉が好みだ、とも。
ただ、日本の「焼肉」が大好物、というプロ野球の外国人選手も多いんですよね。
 こういう、肉の味や硬さの好みには「民族性」が大きいのか、それとも「個人差のレベル」なのか、どちらなのでしょうか。


 著者は、「エピローグ」に、こう書いています。

 なかでも何よりの発見は、日本の人は――1億2700万人の人を十羽ひとからげにして悪いけど――季節を、場合によっては神様を崇めるように、とても重んじ、素材の質や純度を鋭く見分け、風味や見た目にこだわり、欧米人よりもはるかに多様な食感を愉しむということだ(僕にとって難度の高い食感もある――すりおろしたイモを喜んで食べる日が来るとは思えない)。一方、日本の伝統的な料理が急激な変化にさらされ、末期的な状況に陥りつつあることも、僕には発見だった。だしを取るための鰹節、昆布、海苔、豆腐、そば、酒の消費量は、もう回復不可能なほど下降線をたどっている。ちょうど、世界では長年人気を集めて来た鮨だけでなく、さらに幅広く「和食」を認知する動きが始まっているというのに――その結果、和食はユネスコの世界無形文化遺産に登録された――あまりにも皮肉だ。著名な料理人である村田吉弘氏と、僕が日本の料理の師と仰ぐ服部幸應氏も、日本料理の衰退を憂いていて、僕も彼らと同じく衰退を恐れている。


 外国人である著者からみた「日本の伝統的な料理」「和食」というのは、いまを生きている一般的な日本人にとっては「ふだん食べているもの」ではないんですよね、実際には。
 それでも、日本人が「多様な食感を愉しむ」というのは事実ではあるのでしょう。
 海外に旅行に出かけると日本食が恋しくなるのは、ホームシックみたいなものなのか、食感が満たされないことへの物足りなさなのか、僕にはよくわからないのですけど。


 とりあえず、まずは前作『英国一家、日本を食べる』を読むことをオススメしておきます。
こちらは、掛け値なしに面白い。
 それで、「『英国一家、日本を食べる』と比べて、つまらなくて分量少なめでも、ブースさんが書いたものを、もっと読みたい」という人は、こちらの『ますます』も愉しめるはずです。



まずはこちらをオススメ(この本への僕の感想はこちらです

英国一家、日本を食べる (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

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