
- 作者: 峯村健司
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/02/26
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (10件) を見る
内容紹介
現代の中国皇帝・習近平が政権を発足させて以来、中国共産党には粛清の嵐が吹き荒れている。
検挙された共産党員は、25万人超。
なぜ習近平は、そこまでして腐敗撲滅に取り組むのか。
実は、側近すら信用しない習近平の「不信」と「警戒」は、
自らを放逐しようとした最高幹部たちによるクーデター計画の露見から始まっていた――。
中国13億人からたった一人に選ばれた中国皇帝、
その男が直面する生存闘争は、まさに「死闘」とよぶに相応しい。
本書は、優れた国際報道の貢献者に贈られるボーン・上田賞を受賞した
朝日新聞記者の徹底的に「現場」にこだわり抜いた取材から、
中国共産党の最高機密を次々と明かしていく。
例えば――。
●習近平の「一人娘」を米国・ハーバード大学の卒業式で世界初直撃
●ロサンゼルスに存在した中国高官の「愛人村」への潜入
●側近が次々と逮捕された今際の江沢民が習近平にかけた「命乞い電話」
●「世界秩序」を決めた米中トップ会談、語られざるその中身などである。
中国共産党が最も恐れるジャーナリストが、足かけ8年にわたって取り組んだ、
中国報道の集大成となる衝撃ノンフィクションが、ここに解禁される。
中国人13億人の頂点に立つ男、習近平・国家主席。
この本は、朝日新聞国際報道部の辣腕記者が、数々の「現場」に踏み込んで、中国上層部の権力闘争を描いたものです。
僕としては、この本の冒頭で、著者がハーバード大学の習近平首席の一人娘に「直撃」しようとする場面などは、「これじゃ、パパラッチと同じじゃないか……」と、不快でもあったんですけどね。
そういう形でしか、家族に取材もできないのか……という驚きとともに。
ただ、この本を読んでいると、共産党の有力者たちは、汚職で稼いだカネを海外に隠しておくために、家族や愛人をアメリカに住まわせている、という場合もあるそうで(習近平の娘さんもそのひとりだ、と書いてあるわけではありません)、中国というのは、蓄財にしても政権をめぐる抗争にしても、よく言えば「スケールが大きい」、悪くいえば「過剰」な国だなあ、と考えずにはいられません。
そもそも、人口が13億人ということは、トップに立つのは、日本の総理大臣になるより、単純計算では10倍難しい、ということになりますし、ヘタに権力の座を明け渡すと、「復讐」されてしまう。
いまの権力者たちは、毛沢東が主導した「文化大革命」の影響で、親が失脚して命の危険にさらされたり、地方送りにされたり、という権力の座から追われた者の悲惨さを実感した世代だからこそ、なおさら、「権力欲」と「保身」のあいだで、揺れ動いてもいるのでしょう。
「国のため」というよりは、「個人の権力欲や一族、自分の仲間たちのため」という権力闘争は、国にとっては大きなマイナスになっているはず、なのですが、著者は、ずっと中国で取材をしてきて、そういう「正論」に疑問を感じるようにもなっているのです。
権力闘争こそが、中国共産党を永続させるための原動力なのではないか――。
共産党の歴史を振り返ると、1921年の結成以来、路線対立や闘争が繰り返されてきた。毛沢東が権力掌握のためにしかけた反右派闘争や文化大革命、毛の後継者となった華国鋒と訒小平の政争、改革開放をめぐる訒と保守派高官との対立……。
中国共産党は、ライバルたちの激突によって紡がれてきた。
これは党上層部に限った話ではない。党員は、入党した瞬間から闘いが始まる。出世の階段を一つずつ上るたびに、闘いは激しくなっていく。どんなに地位を上り詰めようとも、勝ち続けなければならない宿命を負っている。
同時にそのことは、山のような敗者が毎日生み出されていることを意味する。「敗北」という二文字とは常に背中合わせだ。その恐怖におびえながあら、必死にはい上がろうともがくことが、世界第2位の大国となった中国が未来に向かって進むためのパワーを産みだしているのではないか。
こうした見方をすると、習(近平)の評価も変わってくる。過去に例のない激しい闘争の末に誕生したからこそ、共産党にとっての最大の正統性を持ち、歴代の指導者よりも権力基盤をより早く強固なものにすることができたと言える。
米国の中国専門の研究者や政府関係者の習に対する評価も、極めて高い。過剰ではないか、と思うこともある。
もちろん、「みんなで仲良く、協力してやっていく」ことが常にできるのであれば、そのほうが良いのかもしれませんが、実際には難しい。
この本には、習近平さんが国家主席に上り詰めるまでの、江沢民 vs 胡錦濤の権力争い、そして、江沢民さんの影響力を排除し、次期指導者最有力とされていた、ライバル・李克強氏を出し抜くまでの闘いが描かれています。
習近平国家主席は、有力政治家の二世ではあったものの、いまひとつパッとしない感じの位置どりだったのですが、「中国では、こういう人が権力者として支持され、のぼりつめていくのか」と考えさせられるタイプでもあるのです。
私自身も実は、中国特派員として習を見ていて、「本当にこの人物が最高指導者になれるのだろうか」と思うことがあった。
議場ではほかの高官が熱心にメモをとっているにもかかわらず、一点をただ見つめている習の姿をよく見かけた。討論会でもただ周りの言っていることをじっと聞いているだけ。発言をしても、用意された原稿を棒読みしている場面によく出くわした。ズボンの裾は丈が短く、たるんだ靴下があらわになっていることもあった。
李(克強)との能力の差は明らかなように見える。だが、前出の閣僚級幹部経験者を親族に持つ党関係者の見方は、私とは異なる。
「おまえの言うように李克強の方が個人としては有能なのは確かだが、同じぐらい頭脳明晰な党員は、我が党にはいくらでもいるんだ。最高指導者にとって最も重要なのは、そのたくさんの優秀な党員たちをまとめ上げていく『団結力』なんだ。習近平は、引退した高官宅をまめに慰問し、部下の意見にもじっくりと耳を傾けてきた。私の知る限り、この能力において習よりたけた人物は党内にはいないと思っている」
個人の能力よりも、調整能力の高さのほうが、13億人の頂点に立つには必要だと考えている人が多い、ということなんですね。
とはいえ、権力があまりにも集中すると、かえって、周囲の危機感を煽ってしまう面もあり、習近平国家主席が、今後、「大国」となった中国をどうしていくのか、興味は尽きません。
そもそも、「一人っ子政策」のおかげで、13億人を有する国が、これから急速に「高齢化社会」に突入していくのですから。
周永康という高官の汚職が発覚した際には、「500人以上の元部下や親族を摘発し、1200億元(2兆2000億円)もの財産を没収したようです。この中には、30人を越える副省長や次官級以上の幹部のほか、愛人だった女性アナウンサーらも含まれていた」そうです。
2兆円!
汚職も「スケールが違う国」なんですよね。
そして、「汚職をしないことのリスク」もある国。
「隣国は選べない」ので、日本としてはなんとかうまくやっていくしかないのでしょう。
いくら人口が多いとはいえ、2兆円も搾取されているほうは、たまらないと思うのだけど。