琥珀色の戯言

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【読書感想】ビジネスのヒントは駅弁に詰まっている ☆☆☆


ビジネスのヒントは駅弁に詰まっている (双葉新書)

ビジネスのヒントは駅弁に詰まっている (双葉新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
全国で開催され、多くの人で賑わう駅弁大会。テレビや雑誌でも駅弁特集は花盛りと、息の長いブームとなっている駅弁業界。しかし、その一方で老舗の廃業や売り場の縮小など、業界全体では危機感を指摘する声もある。そんな中で、勝ち残っている事業者はどんな取り組みをしているのか、豊富な事例を挙げて検証。ビジネスマン誰もが膝を打つ、成功法則を紹介する。


 最近、駅弁って買ったことありますか?
 僕は日常生活で列車移動を選択することがほとんどありませんし、長時間乗る機会はもっと少ないので、少なくともここ数年くらいは、買った記憶がないんですよね。
 大きな駅にはコンビニやデパートの地下のようなテイクアウトコーナーもあるし、ちょっと割高な印象もある駅弁は、ちょっと敷居が高い。
 そもそも、移動にそんなに時間がかからなければ、目的地で名物でも食べようかな、と思いますし。
 ところが、デパートのイベントでは「全国駅弁まつり」というのは、ものすごく集客力が高いのです。
 僕も、最近駅弁を食べたのって、駅で買ったものではなくて、「駅弁まつり」で買ったものでした。
 僕みたいな「駅以外の場所での駅弁」のほうに縁がある、という人は、けっこういるのではないかなあ。

 

 こうしてみると、すっかり駅弁ブームは安定しているように思えます。しかし、その一方で、「実は駅弁ブームのピークは半世紀も前に終わっている」という指摘もあるのです。いったい、どういうことでしょうか?
 実は、駅弁事業者の数でいうと、1956年(昭和31年)がピークで、1963年(昭和38年)頃までは全国で駅弁事業者の数は400社を超えていたそうです。いうまでもなく、この時期はまさに日本の高度成長期がスタートした時期に当たり、団体旅行を中心とした観光旅行がブームになり始めた時期でもあります。


(中略)


 さて、こうして観光、レジャーが発達していくにもかかわらず、駅弁事業者の数はその後、緩やかに減少し続け、ピークから約30年後の1987年(昭和62年)には206社(『駅弁の旅』山と渓谷社・1988年刊より)と7割弱になってしまいます。
 さらに、2000年代に入ると状況はますます厳しくなります。前出の日本鉄道構内営業中央会の会員数は2000年頃には254社、うち駅弁事業者が197社でしたが、2014年(平成26年)9月末時点では、会員数自体が105社、うち9割が駅弁事業者ということですから、2000年代に入ってからの約15年で駅弁事業者の数は半減、昭和30年代のピーク時から比べれば、約4分の1以下に減ってしまっているのです。


 「駅弁」自体が話題になる機会は、むしろ以前より増えてきているようなのですが、実際に売れているか、業者がやっていけているかというと、なかなか難しいところはあるようです。
 『峠の釜めし』や『崎陽軒シウマイ弁当』のような「勝ち組」は売れ続けているのですが、中小の業者は賞味期限の問題や後継者難などで、どんどん淘汰されています。


 著者は「コンビニが駅弁のお客を奪った」という見方に対しては、懐疑的な立場を表明しています。
 コンビニを利用する「普段づかいの客」と、長旅に出る前にじっくり駅弁を選ぶ客は、もともと重ならないのではないか、と。

 ただ、別の面を考えると、特に駅ナカコンビニの増加は、駅弁業界からお客ではなく”あるもの”を奪うことで、退潮に導いた一因になっていた可能性があります。
 その”あるもの”とはなんでしょうか? ヒントは昔と今の駅構内の景色を思い浮かべてください。例えば日本にコンビニが誕生した1970年代以前、駅構内やホームの上には、立ち食いそばのお店やキヨスク、そして駅弁の販売所、さらには駅弁の立ち売りをする売り子さんたちがいたものです。で、現在、その場所に何があるかというと、ほとんどの場合、コンビニに衣替えしているのです。
 もう、おわかりいただけましたね。コンビニが駅弁業界から奪った”あるもの”とはそう、立地です。


 民営化後のJRは、「同じ敷地面積でも、より儲かる店」を設置するようになっていきました。
 そうなると、駅弁売り場よりもコンビニ、となってしまうのです。


 ちなみに、最近は「駅弁風だけれど、実際には駅で売られていない『偽装駅弁』」なんていうのが、デパートの駅弁まつりに登場することもあるそうです。
 

 また、崎陽軒は、「あえてローカルブランドのままでいる」という創業時からのポリシーを守っているそうです。

 話は横に逸れますが、取材の際に、これだけブランドが確立していたら、コンビニから販売や商品の共同開発のような提案があるのではないですか? と尋ねると、
「例えば、弊社のシウマイが全国のコンビニに置かれ、”いつでもどこでも買える”となってしまったら、横浜名物シウマイという商品特性や、横浜のローカルブランドである、という弊社の企業コンセプトが崩れてしまいます。それゆえ、弊社ではコンビニでの販売については考えていないのです」
 と柴田氏(崎陽軒の広報・マーケティング部主任)が答えてくれました。

 崎陽軒は、けっして保守的なだけの会社ではなくて、「冷めてもおいしいごはん」の開発やシウマイを横浜名物として認知してもらうための宣伝戦略など、かなり思いきったこともやっているのです。
 しかしながら、「どこでも買えるようになったら、かえってブランド力を失ってしまう」という考えは、創業時から変わっていないのです。

 拡大路線をとる業者もいれば、崎陽軒のように、1日1万9000食も売りながらも「ローカルブランド」にこだわる業者もいる。
 同じ「駅弁」でも、生き残るため、売るための戦略は、それぞれ違っています。


 「外国人観光客からみた『EKIBEN』の商品構成上の問題点」なども紹介されていて、駅弁好きには興味深い一冊だと思います。
 それにしても、みんな「駅弁」好きだよねえ。駅で買ったわけじゃなくても、けっこう値段が高くても、なぜか「特別なもの」のように感じてしまうのは僕も同じなのですが。

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