- 作者: 池上彰
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/04/15
- メディア: 新書
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内容紹介
池上彰が、歴史を動かす「個人」から現代世界を読み解く新シリーズ、第1弾!
多くの無名の人たちによって、歴史は創られる。しかし時に、極めて個性的で力のある人物が、その行く先を大きく変えることがある。本書では、まさに現代史の主要登場人物とでもいうべき六人の政治家を取り上げた。ロシアのプーチン、ドイツのメルケル、アメリカのヒラリー、中国の習近平、トルコのエルドアン、イランのハメネイ。彼らの思想と行動を理解することなく、今を語ることは不可能である。超人気ジャーナリストによる待望の新シリーズ第1弾。世界を動かす巨大な「個人」に肉薄する!
池上さんが「独断で選んだ」という、この6人。
それはそれで、「なぜ、池上彰は、この6人を選んだのか?」という興味が湧いてくる人選ではありますね。
ロシアのプーチン大統領については、池上さんは他の著書でもしばしば言及されていますし、まあ選ばれるだろうな、とは思います。
ドイツのメルケル首相、中国の習近平総書記までは、誰が選んでも入りそうです。
この6人のうち、プーチン大統領、習近平総書記と、トルコのエルドアン大統領という3人が「独裁的な権力を握っている、あるいは握ろうとしている人」というのも、いまの世界を読み解くひとつの鍵なのかもしれません。
この新書は、6人のプロフィールと、いま、何をしていて、何を目指しているのか、が簡潔に紹介されています。
日頃から世界のニュースに着目している人たちにとっては、「知っている話」が多いと思うのですが、「ひとりの人間」として、そのルーツから権力者たちをみていくと、あれこれ感じるところはあるのです。
プーチン大統領の項より。
プーチンが生まれる11年前、レニングラードは、侵略してきたドイツ軍によって包囲されました。1941年9月、ドイツ軍はレニングラードに通じるすべての道を封鎖。872日間にわたって封鎖が続きました。絶え間ない砲撃、飢えと寒さのために市民が多数死亡しました。その数は100万人以上とも推定されています。
ドイツ軍に包囲された町は冬の寒さに燃料不足となり、家々の家具や書籍は暖を取るために燃やされました。
1952年10月7日、この町で生まれたウラジミール・プーチンは、惨状が色濃く残る中で育ちました。ドイツ軍の包囲下で、いかに悲惨な目にあったか、両親から聞かされていたはずです。プーチンの二人の兄は、プーチンが生まれる前に早々と亡くなっています。とりわけ二番目の兄は、ドイツ軍の包囲下で病死しています。
強くなければ、自分たちの安全は守れない。プーチン少年の脳裏に、この教訓が刻み込まれたはずです。
プーチン大統領は、ロシアという国の運営だけではなく、自分の地位を守ることに対しても、この「強くなければ、身を守れない」という教訓が反映されているように思われます。
反対派が、次々と「謎の死」を遂げていますしね。
プーチンは、しばしばマッチョぶりを見せつける演出をして、話題になります。柔道を続けてきたことは日本でも知られていますが、それ以外にもスキーやアイスホッケーに打ち込んでいる姿をテレビで放映させています。夏は水泳や釣りのシーンで、上半身裸になり、筋骨隆々たる姿を誇示しています。
2008年9月、首相時代のプーチンが、視察に訪れた極東の森で、罠から逃げだしたアムール・タイガーを麻酔銃で撃って眠らせ、居合わせた国営テレビの取材スタッフの命を救ったというニュースが放送されました。
虎は、麻酔が効きすぎたのか、まもなく死亡してしまいます。
ところが、しばらくして、思わぬことが判明します。ハバロフスクの動物園で飼われていたおとなしい虎が姿を消していたのです。飼育係が、あらかじめ麻酔をかけて虎を森に放ち、プーチン首相が麻酔銃で撃てるように細工していたというのです。
あらかじめ麻酔をかけた上で、麻酔銃で撃たれたのですから、麻酔が効きすぎ、生命に関わる事態になったのでしょう。
虎も災難だったと思いますが、21世紀にもなって、こんなコントみたいな「演出」を大真面目にやってしまうロシアって……
結局のところ、絶対的な権力が1人の人間に集中すると、やることって、昔の皇帝もいまの大統領も、そんなに変わらないものなのかな、と考えさせられます。
トルコのエルドアン大統領のこんな話も、池上さんは紹介しています。
独裁者エルドアン。それを印象づける出来事が、2014年に大統領官邸が完成したニュースです。なんと部屋数1150室で、建造費は6億1500万ドル(日本円で約720億円)という突拍子もない建物なのです。
11世紀から12世紀にかけて強大な勢力を誇ったセルジューク朝の様式美を生かした現代建築で、大統領執務室や家族の居室はもちろん、軍事攻撃に耐えられる避難壕や盗聴防止装置つきの特別室もあります。
そもそもこの建物は、エルドアンが首相時代、首相官邸として計画されましたが、エルドアンが首相から大統領に就任した直後、大統領官邸になってしまった、というものなのです。
トルコといえば、世界のなかでも「親日国」として知られており、日本人も良いイメージを持っている国のひとつだと思われますが、こういう現状を知ると、「これって、本当に民主主義国家なの?」と言いたくもなります。
安倍首相は、こういう独裁者的な指導者に友達が多いような感じもしますね。
比べてみると、日本という国は、まだ政治家のやることに対して、抑制が効いている国なんだな、ということもわかります。
その一方で、「決められない、決断に時間がかかる国」であるという面もあるのですけど。
ヒラリー・クリントンさんの項では、ヒラリーさんの女性政治家としての歩みが、アメリカでの「女性の地位向上の歴史」とシンクロしていることが語られているのです。
いま40代の僕にとっては、いまひとつ実感できないところもあるのだけれど、夫であるビル・クリントン元大統領が選挙に落ちたとき、支持者から、ヒラリーさんが夫婦別姓を選んでいたり、「内助の功」をアピールしなかったりしたことが原因だと責められたこともあったそうです。
夫ビルが大統領選挙で当選した後、夫婦でヒラリーの故郷シカゴ郊外の町をドライブしていたときのこと。ガソリンスタンドに給油に立ち寄ると、男性従業員が、「ヒラリー、覚えてるかい。高校時代、デートしたじゃないか」と話しかけてきました。ガソリンスタンドを出ると、ビルが得意げにヒラリーに語りかけました。
「ヒラリー、もしあの男と結婚していたら、今ごろどうなっていたかな?」
すると、ヒラリー曰く、「そうなっていたら、今ごろは、あの男がアメリカ大統領でしょうね」
これはもちろん実話ではなく、有名なジョークだそうです。
「不適切な関係」などもあり、ビル・クリントンってひどい夫だなあ、なんて思っていたのですが、率直なところ、これだけ「妻のほうが優秀」だと言われながらも、自虐的なジョークにまでして受け流してきたビル・クリントンさんって、けっこうすごい男なのではなかろうか、という気がしているんですよね。
あの「不適切な関係」事件で、ビル・クリントン大統領の支持率は結果的に下がることがなく、ヒラリーさんへは「同情票」が集まって、人気が上がったそうですから、大衆の「感情」っていうのは、微妙なものだよなあ、と。
自分は海外情勢に詳しい、という人には、新しい情報は少ない本かもしれませんが、「いまの世界情勢に詳しくないけれど、いまの世界を動かしている人たちには興味がある」という人には、読みやすい「リビング・ストーリー」だと思います。
しかし、「6人」だと、まず、日本の政治家は入らないよね……