琥珀色の戯言

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【読書感想】定年後の楽園の見つけ方―海外移住成功のヒント― ☆☆☆

定年後の楽園の見つけ方 ―海外移住成功のヒント (新潮新書)

定年後の楽園の見つけ方 ―海外移住成功のヒント (新潮新書)


Kindle版もあります。

定年後の楽園の見つけ方―海外移住成功のヒント―(新潮新書)

定年後の楽園の見つけ方―海外移住成功のヒント―(新潮新書)

内容紹介
人生の最後には、楽園が待っていた――。老後といえば暗い話ばかりが聞こえてくる昨今だが、本書で紹介するのは、しがらみから離れ、海外で第2の人生を謳歌する人々の物語。フィリピンで17歳の花嫁と結ばれた元銀行マン、マレーシアの浜辺で暮らす元大学教授夫妻、地中海に住みついた元テレビマン……。きっかけは、何も試さないで老後を迎えることへの軽い疑問だった。「豊かな定年後」のためのヒントがここに。


 定年後に海外、とくに東南アジアに移住して、のんびり暮らしたい、あちらでは、物価も安いから、日本にいるより、相対的に「豊かな暮らし」もできるはず……
 10年くらい前に、そういう老後の過ごし方がけっこう話題になりました。
 困窮している日本の高齢者の話を聞くたびに、「国外脱出」もひとつの手なのかな、とも思うのです。
 僕の場合は、一から人間関係をつくりなおすのも、海外の文化に慣れるのもめんどくさいし……ということで、現時点ではそういう人生設計は立てていません。
 実際にやってみた人たちが「現地の習慣にどうしても合わなかった」とか、「やはり、知り合いや家族がいる日本がいい」と日本に帰ってきたり、店で知り合った女性を追ってフィリピンに来てみたら、なんのかんのと理由をつけて所持金をほとんど使い果たし、日本に帰ることすらできなくなってしまった、なんて話も聞きますし。


 正直、「海外移住を薦める、宣伝記事」みたいなもの以外では、あまり成功例を知る機会って、なかったんですよね。

 この本では、著者自身が直に接した「海外で老後を過ごしている日本人」の、さまざまな生きざまが紹介されています。
 

 だが、ボホール島を訪ねる機会がないまま月日がたち、野田さん(仮名・63歳)に再会したのは、3年がたった2016年春のことだった。
 よく見ると、髪に白いものが少し増えてはいたが、むしろ以前より元気で顔色もつやつやしている。わたしがびっくり仰天したのは、アイリーンのほうだった。
 まだ表情にどこか幼い面影を残しているものの、彼女の胸には子猿が吸いついたように、赤子がしっかり抱かれていたからである。
 よく見ると、優しげな彼女の視線と赤ん坊の反応からは、母子の一体感が伝わってくるし、アイリーンには母親の匂いが漂っている。子供は生後半年になるアイコという名の女の子だという。
 わたしの表情に気がついた野田さんは、照れ笑いした。
「こういうことになりました。世の中、まわりをみると我慢して生きている人が多すぎますね。ま、それをやめた結果です」
 野田さんのドラマのような話がつづいた。日本にいる奥さんとは、それまで手紙で連絡を取り合っていたが、2年ほど前から関係がギクシャクしはじめた。原因は結婚した娘さんが出戻ってきていっしょに住むようになり、奥さんの母親も娘も、奥さんがフィリピンに住むことに猛反対しだしたことだった。
 もともと野田さんと義母は折り合いが悪かった。
 それからしばらくして、離婚届までタグビラランに郵送されてきたので、野田さんはアイリーンに後のことを頼んで、いったん帰国する。
「家族でだいぶ話し合ったのですが、女3人の絆が固くて……。それでわたしも決断しました」
 結局、大きな家屋敷はそっくり奥さんに渡して預貯金は折半。そのかわり、年金はすべて野田さんのものになった。


 野田さんは、このアイリーンという女の子とデキてしまって、ここに至る、という話なのです。
 大学に行くつもりだったというアイリーンの学業も、中断することになりました。


 この顛末を読むと、人間にとって「幸せ」とか「他人からの評価」って、何なんだろうな、って思うんですよ。
 住み込みで家の手伝いをさせるかわりに、学費を援助してほしい、と地元の神父さんから頼まれた15歳の女の子・アイリーンを、紆余曲折の末に、数年後、「妻」にしてしまう人の話を読んで、僕は「なんだかなあ……」って苦々しい気持ちになりました。
 もしかしたら、先方としても「そういうのも織り込み済み」での紹介だったのかもしれませんが、それにしても、ねえ。

 
 ただ、僕自身も年を取ってきて痛感するのは、「人間の死の後に残るものが『無』であるのなら、(犯罪にならない程度で)自分の欲望のままにふるまったほうが、人生を楽しんだことになるのでは」ということなんですよね。
 死んでから(あるいは、遠く離れた日本で)何を言われようが、どうせ自分にとっては「無」だしな、と割り切れれば、今、ここで楽しければ、それで良いじゃないか。


 周囲から蔑まれる(内心では羨ましがられることもあるでしょうけど)、とか、経済格差を利用して若い女性と結ばれるなんてみっともない、というような自意識を外してしまえば、本人としては、「とりあえず今は幸せ」なはずです。
 それで、なんらかのしっぺ返しが来る、かどうかはわからない。
 年齢とともに、きれいに枯れていく、というのは、案外難しいのかもしれません。
 そこには、そういうチャンスがあり、嫌がる相手を無理やり、というわけじゃない。
 お金目当てであっても、お互いの利害が一致すれば、それはそれで、悪いこととは言いきれない。
 まあ、現地の若い男性には、反感を持たれるでしょうけど。
 そして、日本も、いつまでも「経済力で東南アジアの国々を上回り続けられる」とは限りません。

「世間では、最初の結婚は判断力の欠如、離婚は忍耐力の欠如、再婚は記憶力の欠如というそうですが、わたしの場合はすべて当てはまりますね。
 でもこの国では通じても、日本では奇異な目で見られるだけですね」
「いやいや野田さん、あなたにはピカソのように、常識の壁を破った眩しさがありますよ。まさに”美は乱調にあり”といった光景です」
 わたしはそう返答したのだが、実際、ノーマルでないものだけが放つ、妖しい輝きを認めざるを得なかった。


 この「お追従」は、読んでいて不快ではあったのですが、本人を目の前にして、あんまり厳しいことも言えませんよね、実際は。
 僕自身、「こういうこと」への嫌悪感とともに、羨ましさを自分の中に見出して、考え込むところもあるのです。


 この本のなかでは、こういう「現地の若い女性と再婚した例」だけでなく、日本に出稼ぎにきていたフィリピン人女性を追いかけてきて、持ってきたお金を食いつぶされてしまった例もあれば、夫婦で移住してきて、うまく現地に適応している例なども紹介されています。


 スペイン南部のマルページャという町に住んでいる平岡さん夫妻は、こんな生活をされているそうです。

 ちょうど朝食を食べだしたとき、NHKの朝ドラマ『ゲゲゲの女房』がはじまった。
 番組はロンドンを経由してくるが、日本のニュースもリアルタイムに入ってくるから、夫妻は日本の茶の間にいる感覚である。
 わたしが学生だった頃は、サンフランシスコやマドリッドの貸し切りの映画館へ、日本大使館が主催する1ヵ月遅れの紅白歌合戦を見るために、大勢の日本人たちが集まってきた。あの時代とは隔世の感がある。
 平岡さんたちは、日本の不動産会社がオーナーになっているコンドミニアムの一角を、月々の家賃を日本円に換算して約5万円で借りているが、広いリビング兼キッチンが付き、寝室もふたつ付いている。
 中庭にはきれいなプールがあり、波打ち際までは歩いて50メートルの距離。生活費は車の維持費も含めて月に15万円から、多い月で20万円ぐらいだそうだ。
「外国暮しのなかで、毎日の食料品を買い出しに行くのは、地元の人たちとの交流もあり、楽しいことのひとつです」


 いまや、海外に住んでいてもネット経由で日本語のコンテンツに触れるのは簡単ですし、本もKindleで手に入ります。
 すぐに会う、というわけにはいかないけれど、メールやスカイプで知り合いにも連絡がとれるのです。
 LCC(ローコストキャリア)を利用すれば、いざというときの飛行機代もそんなにかかりません。
 そう考えると、海外移住への障壁は、どんどん小さくなってきているんですよね。

 自ら定めた地で、気を付けなければならない事柄は、十指にあまるほどある。日本では味わうはずもない、思わぬ出来事に遭遇する場合もあるからである。
 なかでも、最低限必要なのは3Kだ。健康とカネ、そしてカミさん。どれも当たりまえのことばかりだが、じつは当たりまえのことばかりだが、じつは当たりまえであることが、もっとも大事な要因であることは、当事者たちも認めている。
 しかし3Kがそろっていても、「餞別までいただきながら、帰ってきてしまいました。すみません」となるケースもあるから、結局は、海外向きの資質があるか、ないかである。


 海外の文化や生活のほうが自分には合っている、という人や、バイタリティに満ち溢れていて、日本の「息苦しさ」に耐えられない、という人じゃないと、海外移住というのはなかなかうまくいかないのではないか、と僕はこの本を読みながら考えていました。
 移住に成功している人って、たぶん、日本にいても、ある程度幸せな老後を送れそうな人たちなんだよなあ。


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