アフター・ビットコイン: 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者
- 作者: 中島真志
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/10/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
アフター・ビットコイン―仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者―
- 作者: 中島真志
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/11/10
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
ビットコインは「終わった」。ブロックチェーンは「これから本番」。日銀出身の決済システムの第一人者が、ビットコインの崩壊をいち早く予測。ゴールドマン・サックスから三菱東京UFJ銀行、そして各国の中央銀行が繰り広げる次なる覇権争いを鮮やかに描く
それでも気になるビットコイン、というわけで、僕も少し勉強してみよう、と思ったのです。
最初に読んだ、1年半くらい前に出た本(Amazonの読み放題に入っていたもの)では、ビットコインが「未来の通貨」であり、さまざまな取引や海外送金のコストが劇的に安くなることや「ブロックチェーン」と呼ばれるセキュリティ技術が画期的なものであること、発行数が限られていて、希少性が高まっていくことが紹介されていて、「うさんくさい人たちが薦めているのはひっかかるけれど、これはまだまだ値上がりするのではないか?」と思ったんですよ。
仮想通貨の代表格であるビットコインの相場をみていると、すごい右肩上がりのあと、昨年後半に大きく値を下げ、その後は一進一退、という情勢です。
とはいえ、時代は、現金からカード社会の次は、仮想通貨を使うほうに流れていくのではないか、とも思われ、初期に買った人ほどの大儲けはできなくても、いまくらい下がっているときに買って、少しでも上がったタイミングで売れば、小金にはなるのでは……とか考えてもいたのです。
中世オランダのチューリップバブルに似ている、というのも頷けるところがあって、こんな状態がいつまでも続くわけがない、けれど、うまく立ち回れば……
この本の冒頭で、著者はこう述べています。
ビットコインの保有や使い方については、「世界中の利用者が、少しずつコインを保有している」「ネットワークの参加者がみんなでビットコインの仕組みを支えている」「世界中のいろいろな取引所で取引されている」「さまざまな通貨との間で交換されている」「インターネットや実際の店舗で、商品やサービスを購入するために幅広く使われている」といった美しいイメージが流布されています。しかし、利用の実態を仔細に眺めてみると、必ずしもこうしたイメージ通りの展開とはなっておらず、一部の人が取引の承認作業とそれによる報酬を独占し、また一握りの人が多くのビットコインを保有している構造となっていることが分かります。すそ野の広い参加者が幅広く参加して、皆でビットコインの仕組みを支えていくという当初の理念が必ずしも実現しておらず、仮想通貨の健全なコミュニティ作りがあまりうまくいっていないものと言えるでしょう。
ビットコインが登場した当初は、金融界においても、衝撃をもって迎えられました。「中央銀行が存在しない通貨」というこれまで考えたこともなかった仕組みが登場したのです。しかも、暗号技術やブロックチェーンの仕組みを使っていて安全性も高く、インターネットを通じてコストもほとんどかからずに世界中に自由に送金を行うことができるというのです。これが普及したら、銀行を通じた送金や決済が不要になり、そのビジネスモデルに大きな影響が出ることが想定されました。
2013~2014年ごろに金融関係の国際会議に出ると、「ビットコインによって何が変わるのか」「銀行業務にどう影響が出るのか」といったことが盛んに討議されました。かなりの危機感を持って議論が行われていたのです。
ところが、2015年頃を境に、国際会議のテーマとして取り上げられることもなくなり、欧米の銀行関係者と話をしても、「ビットコイン」という言葉自体をまったく聞かなくなってしまいました。当時は日本ではビットコインについてまだ盛んに報道されていた時期でしたので、不思議に思って尋ねてみると、「あれはもう終わったものだから」という反応で、まったく相手にしていません。「一部の特殊な人たちが使うマイナーなサービス」として位置づけられており、金融のメインストリームに影響を及ぼすような存在ではないとみられるようになっていたのです。
仮想通貨というのは、たしかにさまざまなコストを軽減してくれる可能性はあるのだけれど、いま流通しているものが、このまま隆盛を極めるとは限らない。
技術はどんどん進化していて、次世代の仮想通貨が今後も生まれ続けていくでしょうし(ビットコインの「発行数が限られている」といっても、それはあくまでも仮想通貨のなかの一種であるビットコインだけの話です)、仮想通貨で直接買える商品は少ない。
海外送金のコストが安いとはいえ、実際にそれを利用する立場の人は日本には多くないだろうし、匿名性の高いビットコインは犯罪の温床になっている、という指摘もあります。
だからといって、それに対して、政府から規制が加えられるようになると、ビットコインの特徴がひとつ失われてしまう。
現時点では取引所を介在しないと売買できず、ブロックチェーンのシステムがどんなに優れたものであっても、それを運用するのが人間であるかぎり、リスクはあるんですよね。
それは、いま流通している通貨やカードでも同じではあるのだけれど。
とりあえず、いま、ビットコインの価値を上げ続けているのは、人々の「期待感」というか「これはもっと値上がりするはずだ」という雰囲気でしかない。
これから、さまざまな国の中央銀行や大手の銀行がブロックチェーンの技術を利用していくようになれば(もう実験はすでに多くの国で行われているのです)、ビットコインの実用面での優位性は失われてしまうでしょう。
投資というか投機として考えれば、今が天井とは限らないのですが、もうすでに右肩下がりの時期に入っている可能性はあります。右肩下がりというより、価値の適正化、と言うべきなのかもしれません。
「相場は素人が入ってきたら終わりだ」という格言もあるんです。
それでも、「もう一山くらい、あるんじゃないかな……」とか、思うところもあるんですけどね。
これまでの主戦場であった中国で規制がかかっていることもあって、バブルの時代は終わったのではないか、と僕は基本的に考えています。
筆者の結論を先に言えば、ビットコインは、通貨のあり方を根本から変えるといった「次世代の通貨」にはならないのではないかと考えています。これは、仮想通貨がすぐに使われなくなるということを言っているのではなく、それなりの存在として存続したとしても、金融のメインストリームとしての存在にはなりえないだろうということです。ビットコインの将来性に期待して投資されている方やビットコイン関連のビジネスで一儲けを考えておられる方は、「そんなことはない!」とお怒りになるかもしれませんが、筆者が「ビットコインの中長期的な将来性については、厳し目に見ておいた方がよい」と考える理由は、第2章で詳しく説明しますので、それを読んで当否をご判断いただきたいと思います。
一方で、ビットコインの中核技術として開発されたブロックチェーンについては、間違いなくこれからの金融やビジネスの仕組みに革命を起こす「本物の技術」だと高く評価できます。「はじめに」でも述べたように、ブロックチェーンは、これまで銀行や証券会社など、金融の中枢にある機関が担ってきた、いわば「金融のメインストリーム」の部分で活用されようとしています。このため、これが本格的に導入された場合のインパクトは、仮想通貨の比ではないものと考えられます。また、ビットコインは、管理者も発行者も存在しないのに対して、中央銀行というしっかりとした管理者・発行者がデジタル通貨を発行する実験に乗り出しています。こうした通貨に人々が信頼感を覚えれば、多くの人が公的なデジタル通貨で日常的な支払いを行うようになるといった日も夢ではないかもしれません。
ビットコインは「低コストでお金の移動が可能になる」というのが大きなメリットのはずなのですが、現時点では「ビットコインを日常的に買い物に使っている人」は、ほとんどいないのです。
マスコミでは、「シリコンバレーやニューヨークではたくさんの店で使える」とか、「米国のスターバックスではコーヒーが買える」とか、「日本国内でも使える店が〇千店を超えた」など、ビットコインが使える店舗の数や種類が増えていることがよく話題となります。つまり、「支払いに使える通貨」としての側面が注目されることが多いのですが、実は、「交換手段」としての利用は限定的であり、「価値の保護手段」としての機能である「投資用資産」(インベストメント・アセット)としての使い方が中心となっているのです。
消費者にとってのビットコインの最大のメリットは、低コストで支払い(海外への送金など)ができる点であるとされています。しかし、ビットコインは、「仮想通貨」として騒がれている割には、そのメリットが活かせる支払いのための「通貨」としてはあまり利用されておらず、むしろ専ら値上がり期待による「投資用の資産」(投資商品)として用いられているというのが実態であることは認識しておいた方がよいでしょう。
そうなんですよね、ビットコインを薦める人たちの多くは「仮想通貨の先進性やコスト面での魅力」を語りたがるのだけれど、彼ら自身は、「通貨」として使って便利さを実感しているわけではなく、それを「投資商品」にしているだけなのです。
今後どんどん値上がりすると思っていれば、そりゃ、誰も今、使おうとはしませんよね。
通貨として使われないのであれば「通貨としての現実的なメリット」はなく、期待感だけで今後の業績も未知数なのに値上がりしつづけている株の一銘柄と同じです。
いまのビットコインの価格は「幻想」によって上昇している。
「価値が上がっていることで、『これは儲かる!』と期待した人たちが群がり、ビットコインの価値をさらに上げている」だけなのです。
この状況は、ビットコインで通貨革命を起こそうとしていた人たちにとっては、むしろ、不本意なもののはず。
僕はこの本を読んで、ようやく、ビットコインの発行の仕組みや利点と欠点をある程度理解できたような気がします。
このくらいの情報も持たずに、ちょっと買ってみようかな、と思ったのが恥ずかしくなりました。
投資というのは、「勉強とかする前に、まずやってみた者勝ち」という面もあるのでしょうけどね。
上位1%未満の人(アドレス)が、なんと全体の9割のビットコインを保有しているのです。さらに言えば、1BTC以上を保有している上位3%の保有者が、全体のビットコインのほとんど(97%)を保有しています。このようにビットコインは、少数の人が大部分のコインを所有しているという、かなり歪な保有構造となっていることが分かります。最近のビットコイン相場の値上がりによって主に恩恵を受けているのは、実はこうした全体の1~3%にあたる保有者なのです。
早い時期に、この1~3%に入れた人にとってのビットコインは「この上なく、おいしい投資商品」だったのでしょう。
でも、いまから参入しても、既得権者たちの「養分」になる可能性が非常に高いと思います。
少なくとも、絶対に失っては困るお金で買うのは、やめたほうが良いのではなかろうか。