- 作者: 吉田豪
- 出版社/メーカー: コアマガジン
- 発売日: 2018/04/28
- メディア: 単行本
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内容紹介
ラッパー、アイドル、漫画家、オタク、前科者など、かなりバラエティに富んだ人選となった『人間コク宝』最新作。共通点は、人生が濃すぎること! 巻末には姫乃たまによる、吉田豪逆インタビューを掲載。
吉田豪さんのインタビュー本は、鉄板の面白さ!
……なのですが、この『帰ってきた人間コク宝』に関しては、「ラッパー、(地下)アイドル、漫画家、(アイドル)オタク」といった人が多くて、僕にとっては、誰だかわからない人が多いし、その人の活動内容にも、あまり興味が持てなかった、というのが正直なところです。
インタビューされている人に関しては、上記を参照してください。
オビには「Zeebraから泰葉まで」と書いてあるのですが、この2人が「いちばんメジャー枠」として紹介されている時点で、推して知るべし、というべきか。
僕は「どんな人でも、吉田豪さんがインタビューして掘り下げれば、面白くなるのではないか」と思っていたのですが、やっぱりそうでもないんだな、と妙に納得しながら読みました。
全体的に、有名人のやんちゃエピソードというよりは、「ぐえっ!」と呟きたくなるような、ダークな話が多いというのもあるんですよね。僕もそういうのは嫌いじゃないはずなんだけど……
森下恵理さんの回より。
——再デビュー時、曲を作り始めた頃に親友だと思ってた女の子が亡くなった話をされてましたけど、これは岡田有希子さんですか?
森下恵理:そうですね。同い年で、芸能界では1年先輩ですけどメチャクチャいい人だし、その前の週ぐらいまで楽屋で一緒にテレビを観て笑ったりして、ぜんぜん芸能人っぽくなくて、そしたら昼にTBSの『加トちゃんケンちゃん』に入る前に事務所で『いいとも!』を観てたら速報でユッコちゃんの自殺を知って、怖いっていうよりもショックで。変な話、ユッコちゃんは精神的に高いときと低いときがあるっていう話はすごく有名だったんですよ。でも、そんなことすると思えない、殺されたんだと思って。私が一番ショックだったのは、TBSに入ったら、掘ちえみさんと早見優さんと石川秀美さんがいて、掘ちえみさんが、「よかったよね、ライバルがひとり減って」って。私たちのあいだではホリチって呼ばれてるんですけど、すごい嫌われてて。それがショックで私は固まっちゃって……。
——とんでもない世界だと思いますよね……。
森下:森高千里ちゃんもいたかな。彼女も「えぇっ?」って顔になっちゃって。ホリチだけが、「え、どうしたの?」みたいな。それもあったかな、嫌だなこの世界、と思ったの。
たしかに、嫌だなその世界……
ライバルを蹴落としてでも前に出ようとするくらいの気魄がないと、売れていくのは難しいということなのかもしれませんが、さすがにその状況での発言としては、「ドン引き」しますよね、普通。思っていたとしても、それを口に出すのか……
吉田さんによると、「元アイドルの方を取材していると、精神的に病んだ人が異常に多い」そうです。
芸能界が怖いところだということなのか、そうやってアイドルたちの競争を煽っている事務所やファンにも責任があるということなのか。
『AKB総選挙』とかも、競争を煽って、それをみんなで眺めてあれこれ言って楽しむイベントなわけですし。
姫乃たまさんの回より(この本の最後では、姫乃さんが吉田豪さんを「逆インタビュー」しています)。
——悪い人はもちろん地上にもいるんですけど、地上の悪い人って力もあるんですよね。力のない悪い人が地底周辺にはすごくいて。
姫乃たま:そうそう、そうなんですよ。枕営業ですらなくて、独占して恋愛関係になりたいんですよね。鬱を公言したときは、「僕もそうだから気持ちわかります」みたいな人がたくさん集まってきて、それは構わないんですけど。
——うれしいけども、しんどい人たちがどんどん集まってきちゃうわけですよね。
姫乃:そこは私もちょっと変わっていて、エロ本で連載してたときも読者のハガキを見るにつけ、人生がもう一個あったらこの人たちの家に行ってひとりひとりとセックスしたいってホントに思ってたタイプなので、アイドルにならなかった風俗嬢とかになってたと思うんですよ。それもすごく仕事熱心な。
——人に寄り添うタイプの風俗嬢に。
姫乃:みんな笑顔にして帰したいですね。なので、共感してくれるのは大丈夫なんですけど、一番キツかったのが、鬱をなんとか治そうとして病院に通いながら薬を飲んだり、自分を客観視している途中で、足を引っ張ろうとするオジサンがすごい多かったんですよ。「前のほうがガードが緩くてよかったのに」とか。
——「病んでたときのほうがよかった」と。
姫乃:そうです。まだ私も17歳とか18歳だったので、「よくなくなった」って言われたらやっぱりショックじゃないですか。しかも鬱が治りきっていない状態で。そういう小さな陰湿なことが積み重なってしばらく休止してたんですけど、復帰して改名して文章の仕事が増えてから、自分と向き合う時間が増えて落ち着いてきました。
この「地下」とか「地底」というのは「地下アイドル」「地底アイドル」のことです。
こういうのを読むと、「メンヘラ」好きというか、精神的に不安定な状態を消費していたり、一蓮托生で、自分と一緒に不安定なままでいてほしい、と思っている大人が多いということに暗澹たる気持ちになるのです。
せっかく治療しているのに「前のほうがよかった」なんて言われたら、そりゃキツいよね。
「かわいそうだね」「それは大変だね」と言いながら、相手が「よくなること」を望んでいない人というのは、たしかに少なからずいるように思われます。
この本のなかで、いちばん心に残ったのは、このやりとりだったんですよ。
畑中葉子さんの回より。
畑中葉子:私、鼻が利くのかも。人間的におもしろい人が好きなんです。せきしろさんってすごい得体が知れない人で、だって私、そういう人が好きなんだもん。「こうでしょ?」とか「こうだよね?」って、ゴリ押しする人が嫌いなので。せきしろさんも、いしかわ(じゅん)先生もそうだけど、人のことは言わないの。自分のことしか言わなくて、それがすごく興味をそそることで。私は悲しいことにホントに知識がないので、そういう方々の生きざまを見ると力にもなるし。せきしろさんなんかパンク少年だったらしいじゃないですか。その頃のせきしろさんを見たかったなと思って。吉田さんはせきしろさんと仲いいんですか?
——知り合ってからは長いですけど、じつはそんなにちゃんと話したことはないですね。
カメラマン:吉田さん仲いい人いないです。
この本に、カメラマンの発言が出てくる機会は、ほとんどないんですよ。
そんななかで、この「吉田さん仲いい人いないです」と割り込んできたのを読んで、僕は「えっ?」って思ったのです。
このインタビューは吉田豪さんがまとめているはずなので、これも吉田さんがあえて残したのでしょうけど。
これだけたくさんの人にインタビューをして、言葉を引き出してきたプロインタビュアー・吉田豪さんに「仲のいい人がいない」のか……
誰にでも嫌われないふるまいができる、バランス感覚に優れた人は、結局、誰とも、ものすごく仲良くなることはできない、ということなのかもしれませんね。
吉田豪さんって、本物の「プロインタビュアー」なんだな、と感動してしまいました。
巻末の姫乃たまさんの逆インタビューのなかで、羽海野チカさんが、吉田さんを「カウンセラー」と呼んだという話が紹介されています。
あと、吉田さんの記憶のなかにも、岡田有希子さんの話が出てきて、なんというか、あの出来事は、統計として出ている「後追い」みたいなもの以上に、多くの人に影響を与えたのだな、とあらためて思いました。
- 作者: 吉田豪
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