琥珀色の戯言

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【映画感想】ゲティ家の身代金 ☆☆☆☆

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あらすじ
1973年、大富豪ジャン・ポール・ゲティ(クリストファー・プラマー)は孫のポール(チャーリー・プラマー)を誘拐され1,700万ドルという高額の身代金を要求されるが、守銭奴でもあったゲティは支払いを拒否する。離婚して一族から離れていたポールの母ゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)は、息子のために誘拐犯、ゲティの双方と闘う。一方、犯人は身代金が支払われる気配がないことに苛立ち……。


getty-ransom.jp
※注意:音が出ます!


2018年、映画館での16作目。
観客は僕も含めて10人くらいでした。


 この『ゲティ家の身代金』、1973年に実際に起こった誘拐事件に基づいているのですが、観終えたあとすぐに、どこまでが事実で、どこからが演出だったのか、Googleで検索してしまいました。
 最近、「事実に基づく物語」というのを見るたびに「どこまでが事実なのか?」という疑問が先に立ってしまうことが多いんですよね。
 たとえば、「本当に、時限爆弾はいつも3秒前に解除されるのか?」というような感じで。
 起こったことをそのまま描くと、やっぱり、「ドラマチックではない」「盛り上がらない」話になってしまいそうではあるのですが、「ドラマチックにするための嘘」みたいなのは、居心地が悪い。
 
 
 孫が誘拐されたにもかかわらず、「身代金を払う気はない」と公言して世界を驚かせた世界一の大富豪、ジャン・ポール・ゲティ。
 予告編を観たときには、「なんて酷い守銭奴のジジイなんだ……」と思ったのだけれど(だからこそ僕はわざわさ上映館が少なめのこの映画を観るために遠出してきたのです。「酷い人」を映画で観るのは大好きなので)、この映画を観ていると、ジャン・ポール・ゲティの筋金入りの守銭奴っぷりに、むしろ清々しい気分にさえなってきました。
 彼は孫を愛していないわけではなくて、身代金にも「適正な値付け」を求めているだけのようにもみえますし、映画を観ていると、最初は狂言誘拐だと思ったというのも、わからなくはないんですよね。
 あと、日本での誘拐は、小さな子供が狙われて殺されてしまうことが多いのですが、欧米での誘拐というのは、身代金を払えば解放される可能性がある、という前提で交渉が進められるのだなあ、と。

 被害者を責めるべきではないとは思うけれど、誘拐されたゲティの孫も、ちょっと油断しすぎ、ではあるよね。
 それも、「ゲティの孫」としていろいろ束縛されて生きてきたことの反動なのかもしれないけれど。
 有名人であったり、大金持ちだったりするというのは、金銭的な自由度は増すし、注目もされるのだけれども、行動の自由は制限されるし、寄付してくれとか、助けてくれ、という他者の悲鳴にさらされたり、金によって身近な人たちが変わっていく姿を目の当たりにしなければならなくなるのです。
 「あなたがお金を恵んでくれなかったら、夫は手術ができなくて死んでしまいます」という手紙が山ほど届く人生って、それはそれで、面倒なものではありますよね。
 自分が状況を悪化させるための手を下したわけでもないのに、やり場のない罪悪感にとらわれてしまう人だっているでしょう。
 「金を稼ぐのは簡単だが、金持ちでいるのは大変だ」
 ポール・ゲティはひどいジジイなのですが、僕はこの人に、けっこう魅力を感じてしまうのです。


 当時の彼の財産からすれば、孫の身代金として要求された金額も「大金ではあるが、出したからといって致命的なダメ—ジを食らうような額ではない」のです。原油価格が少し動けば、そのくらいの損得はすぐに出てしまう。
 そして、彼は同じくらいのお金を出して、美術品を躊躇なく買っている。
「人はすぐに変わってしまうが、美術品は変わらない」とつぶやきながら。
 ドケチのようにみえるけれど、「自分の値付けに見合わないものには、たとえ孫の命がかかっていても、お金を払いたくない人」なんだよなあ。

 「お金はいらないから」と親権を得たゲイルも、結局は「お金のため」に苦しみ、奔走することになります。
 僕はこの映画をみながら、最近DVDで見た、ダニー・ボイル監督の『スティーブ・ジョブズ』を思い出していました。
 ジョブズの娘、リサの母親だった(若いころのジョブズと交際していた)女性は、たびたび、ジョブズのところにお金の無心にやってくるのです。ジョブズは彼女にひどいことをしていて、彼女もジョブズがしてきたことで傷つき、ジョブズに憤りを感じている。
 それでも、彼女は「生活のため」にジョブズを責めながらも、お金の話をし続けます。
 大金持ちなんだから、ジョブズもそれなりのお金を出して、めんどうなことを回避すればいいのに、と思うのだけれど、ジョブズもまた、「自分が納得できないお金は払いたくない人」だったみたいです。でも、そういう人たちが、社会のために基金をつくり、顔も知らない人のために多額の寄付をするのもまた、アメリカ、という国なんですよね。


 あのゲティ家の人たちなら、お金もどこかから引っ張ってこられそうな気はするし、ゲイルの元夫(ジャン・ポール・ゲティの息子)がなんとかしろよ、とも思ったのですが……


 お金って、全くなければ人と人との繋がりを断ちきってしまうことが多いし、ありすぎると、人というのは個人としてやりたいことをやるようになってしまうのではないか、と僕は感じています。
 ハリウッドスターは、結婚してもみんな離婚して、莫大な財産分与や慰謝料に追われているようにみえるし。
 一度で懲りればいいのに、何度も結婚や離婚を繰り返している人も多いのです。

 
 正直なところ、とにかく「スッキリしない映画」なんですよ。
 守銭奴であり、家族愛に欠けるジャン・ポール・ゲティが懲らしめられたり、天罰をうけたりすれば、あるいは、ゲイルが自分の力だけでなんとかできていれば、もっと違った気分で映画館を出られたのではなかろうか。
 この映画がスッキリしないのは、たぶん、現実というものの大部分が、こういうもどかしさで、できているからではないか、とも思います。
 
 ネットで「年収150万円で僕らは自由に生きていく」と言っていた人が、稼げるようになり、「億り人」なんて嬉々として自慢している姿をみると、「金は人を変える」ことを実感するのです。


 これほど、誰も幸せにはならない映画も、珍しい。
 幸せって、何なのだろう?
 

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