琥珀色の戯言

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【映画感想】ナポレオン ☆☆☆

グラディエーター」の巨匠リドリー・スコット監督が「ジョーカー」のホアキン・フェニックスを主演に迎え、フランスの英雄ナポレオン・ボナパルトの人物像を新解釈で描いた歴史スペクタクル。

18世紀末、革命の混乱に揺れるフランス。若き軍人ナポレオンは目覚ましい活躍を見せ、軍の総司令官に任命される。ナポレオンは夫を亡くした女性ジョゼフィーヌと恋に落ち結婚するが、ナポレオンの溺愛ぶりとは裏腹に奔放なジョゼフィーヌは他の男とも関係を持ち、いつしか夫婦関係は奇妙にねじ曲がっていく。その一方で英雄としてのナポレオンは快進撃を続け、クーデターを成功させて第一統領に就任、そしてついにフランス帝国の皇帝にまで上り詰める。政治家・軍人のトップに立ったナポレオンと、皇后となり優雅な生活を送るジョゼフィーヌだったが、2人の心は満たされないままだった。やがてナポレオンは戦争にのめり込み、凄惨な侵略と征服を繰り返すようになる。

ジョゼフィーヌ役に「ミッション:インポッシブル」シリーズのバネッサ・カービー。「ゲティ家の身代金」でもスコット監督と組んだデビッド・スカルパが脚本を手がけた。


www.napoleon-movie.jp


2023年映画館での鑑賞23作目。 平日の夕方からの回で、観客はけっこう大きなシアターに僕ひとり。
師走の平日の夕方で、映画館全体が閑散としてはいたのですが、それにしても、リドリー・スコット監督で、ホアキン・フェニックス主演の『ナポレオン』って、そんなに観客の興味をそそらないものなのでしょうか。
僕は歴史映画好きなので、けっこう楽しみにしていたのですが、まさかこの作品で、久々の「ぼっち映画鑑賞」になってしまうとは。
そりゃ、『スター・ウォーズ』のアニメ作品で、公開からしばらく経って、とかだと、「まあそうなるよな」と納得するところもあるのだけれど。12月1日公開で、まだ初週なのに。

158分という長めの映画なのですが、何が言いたいのかよくわからないというか、「2時間半で観ることができるナポレオンの人生ダイジェスト動画」という感じだったんですよ。
ナポレオンの主な戦いの合間に、最初の妻であったジョゼフィーヌとの複雑な愛憎関係が描かれているのですが、観ながら、あの『レジェンド&バタフライ』を思い出してしまいました。

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さすがに『レジェバタ』ほどぶっ飛んだ物語ではないのですが、「それはナポレオンとジョゼフィーヌの関係を美化(あるいは重視)しすぎだろう」とは思いました。

あとでWikipediaを確認してみたら、ナポレオンとジョゼフィーヌって、離婚したあとも交流がずっとあって、エルバ島に流されたあとのナポレオンもジョゼフィーヌは支援していた、というのを読んで驚いたのですけど。

ホアキン・フェニックスさんのナポレオンにはかなりの説得力みたいなものがあって、「こんな雰囲気の人だったのかな」と頷かずにはいられません。
しかしながら、この「ダイジェスト版」では、ナポレオンがなぜフランス革命後にのし上がっていけたのか?戦術家としてどれだけ優れていたのか?というのがほとんど伝わってこないのです。
なんか他人に薦められたことをやっていたら、トントン拍子に出世して、いつのまにか皇帝になっていた、そんな感じ。
ナポレオンについての予備知識で内容を脳内補填して「ナポレオンだから戦争に強かったんだよな」と自分に何度も言い聞かせました。

戦闘シーンにはけっこう力が入っていたのと、ジョゼフィーヌとの夫婦関係に時間が割かれていたのですが、『ナポレオン法典』などの後世に大きな影響を与えた政治的な事績にはほとんど触れられていませんし、ナポレオン旗下の個性的な将軍たちもあまり登場しません。
そこを端折ったから158分に収まったんだ、ということなのでしょうが、やっぱり物足りなくはあったのです。

そもそも、1本の映画としては長尺でも、ナポレオンの人生の濃さを考えると、「158分でナポレオン」はムリではなかろうか。
ワーテルローの戦い』だけでも、2時間半くらいの映画になりそうだし。

Apple資本なら、配信の連続ドラマでやったほうが良かったのでは……『ナポレオン』というテーマでは、ドラマもそんなに人気にならない、という結論だったのだろうか。

そのわりには、衣装や戦闘シーンのディテールにはけっこう時間とお金をかけていて、「雰囲気歴史映画」としては、それなりに見ごたえがあるとは思います。
これだけのコストをかけ、名優を起用して、なんでこんな「動画付き歴史年表」+「発達障害っぽいナポレオン」みたいな映画をつくってしまったんだ、リドリー・スコット監督……と、大変残念というか、あまりナポレオンに興味がなくて、とりあえず監督として「発注されたものをそれなりに完成させた」のではないか、と疑いたくなるのです。

ナポレオンの感情もほとんど描かれておらず(あえて「描かなかった」可能性はありますが)、「壮大な英雄伝」を期待すると肩透かしにあう映画です。

全然つまらない、というわけではないんですよ。
でも、「ナポレオンは英雄か悪魔か?」というテーマかと思ったら、いちばん力が入っていたようにみえたのは、冒頭のマリー・アントワネットがギロチンにかけられるシーンだった……という作品です。
「当時の雰囲気っぽいディテールを観る映画」としては、よくできているのではなかろうか。


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