- 作者: 高橋弘希
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/07/17
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- 作者: 高橋弘希
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内容(「BOOK」データベースより)
少年たちは暴力の果てに何を見たのか?東京から山間の町へ引っ越した中学三年生の歩。級友とも、うまくやってきたはずだった。あの夏、河へ火を流す日までは―。第159回芥川賞受賞作。
芥川賞って、『介護入門』『コンビニ人間』のような、「その時代を映した作品」が選ばれることがある一方で、数年(4~5回)に一度、ちょっと時代遅れな感じがする私小説風の作品が受賞することがあるんですよね。
第146回の『共喰い』は、なぜいまの時代にこの作品?と思いましたし、第153回の又吉直樹さんの『火花』も著者の知名度や話題性を除けば、この系譜に連なるものだと思います。
この『送り火』、都会から田舎に転校してきた中学三年生が主人公なのです。
僕も小中学生時代に何度も転勤をしてきて、とくに小学校5年生のときに、中国地方の人口数十万人の地方都市から、九州の人口数万人の市のはずれに引っ越してきたときのことは忘れられません。
母親は、駅前のデパートを「ここが一番大きいの?本当に?」とひどく落胆していましたし、僕はそれまで「地区集会」だった地域別の集まりが「部落集会」と呼ばれていることに、なんだかすごく違和感がありました。
最初は全く慣れなくて、方言もよくわからず、父親が面白がって方言を使っているだけでもイライラしていたんですよね。よくそんなにあっさり迎合できるな、と。
今から考えてみると、そこまで身構える必要なんて、どこにもなかったのだろうけど、環境に慣れるには、だいぶ時間がかかりました。
小学校を卒業するときには、本当に「いい友達」ばかりになったし、今では、あの場所で数年間を過ごせたことは幸福な思い出なのですが。
それで、この『送り火』なのですが、冒頭から、田舎の濃密で逃げ場のない人間関係と、その中でエスカレートしていく暴力が淡々と描かれているんですよね。
読んでいると、僕の転校体験などもフラッシュバックしてきて(もちろん、この作品ほど緊張感にあふれたものではありませんが)、「こんな学校は、もうさっさと転校しちゃったほうがいいぞ、歩(主人公)」と届かない叫びを送っていたのです。
この小説だけを読んでいると、「だから田舎の人間関係は……」などと言いたくなりますし、「田舎なんて、お前らが思っているようなのどかな楽園じゃないんだよ!」と煽っているようにすら感じるのです。
受賞のことばを読んでいると、作者にはそういう「田舎をディスる」という意図はないようで、シンプルに「閉鎖された関係のなかで、暴力がエスカレートしていく構造」を描きたかったみたいですけど。
僕は読みながら、川崎の事件のことを思い出していました。
この『送り火』、とくに最後のほうは、「とめどなくエスカレートしていく閉鎖的な関係での暴力」や「どういう人が、本当は仲間内で憎まれているのか」を露悪的に描いているように思います。
僕は幸いなことに、ここまで「娯楽として自分より立場の弱い者に暴力を浴びせることに疑問を感じない人々の世界」に直接触れることはありませんでした。
でも、世の中には、「暴力=娯楽があたりまえになってしまっている人々」がいる。
先日、こんな事件がありました。
いい大人が、こんなことして楽しいのか?
僕は憤ったのと同時に、「こんな人がいるのか……」と驚きました。
園子温監督の映画は、現実とかけ離れた「暴力ポルノ」ではないのです。
同じ日本で生きていても、棲んでいる世界、持っている常識は、同じとはかぎらない。
どんどんエスカレートしていく、閉じた世界での暴力が濃密かつリアリティを持って描かれている小説だと思います。
その一方で、僕はこれを読みながら、「何が楽しくて、僕はこんな読んでいて『うんざり』する小説を読んでいるのだろう」と感じていました。
いや、もしかしたら、最後まで読むと、すごい逆転劇でスッキリできるのかもしれない、それに、芥川賞受賞作だから、感想書かなくちゃいけないし……
最後に「文章も内容もすごい作品だとは思うけれど、僕自身がこれを読んだことによって、何かを得られたという感覚はほとんどなくて、ただひたすら『うんざり』させられっぱなしだった」と告白しておきます。
引っ越し先はちゃんと下調べしておこう、とくに子どもの環境には、という戒めにはなったと思いますが。
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