- 作者: 五十嵐浩司
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【内容紹介】
「お前はオモチャ屋の手先なのか?」
――これは、あるテレビ番組の会議の席上で、シリーズ構成を担当する人物に先輩格のシナリオライターが浴びせた言葉である。 会議が終わったあと、シリーズ構成担当はつぶやいた。
「オモチャが売れたら何がいけないんだろう? 番組にとっては悪いことじゃないのに……」(中略)
マーチャンダイジング(商品を買ってもらうための企画)が存在しなければ『科学忍者隊ガッチャマン』や『マジンガーZ』、『機動戦士ガンダム』も『超時空要塞マクロス』も、この世に生まれることはなかった。
もしくはもっと別の形になっていただろう。
ロボットアニメに関わるクリエイターにとって、マーチャンダイジングは一種の枷かもしれない。だが、それを逆手に取ることで、ロボットアニメは様々な表現が可能となる。アニメーションには様々なジャンルがあるが、ロボットアニメほど多彩な内容を表現できるカテゴリーは存在しないのではないだろうか?
チャンバラ的エンタテインメントからスペースオペラ、青春ドラマ、ラブストーリー、異世界を舞台にしたファンタジー、政治劇……ここで語りきれぬほど、ロボットアニメには多種多様な物語が存在する。
そして、その多くはマーチャンダイズとともに育まれたものだ。
(「あとがき」より)
お金を稼ぐための「広告」などの制約によって、創作物が歪められたり、制限されるということはこれまでにも少なからずありました。
その一方で、お金にならなければ、多くの人に見てもらうための商業用コンテンツとして成り立たない、というのもまた事実なのです。
テレビアニメでは、視聴率を稼げたり、その作品を題材にした玩具や映像コンテンツ(DVDやブルーレイディスクなど)を売ることで、作品制作が継続されてきました。
あの『機動戦士ガンダム』は、視聴率がふるわず、(最初は)玩具の売り上げもふるわなかった、ということで、当初の予定よりも短縮され、打ち切りになったことが知られています。
著者は、長年、アニメーション研究家、編集者として、ホビー関連のルポルタージュを手掛けてきた方です。
アニメーションの歴史をみていくと、その初期から、「マーチャンダイジング」と、密接な関連があったことがわかります。
1963年、国産初の本格的連続テレビアニメーション『鉄腕アトム』の放送が始まった。同年には『鉄人28号』『エイトマン』が続いている。
ここで注目すべきは、国産テレビアニメーションの黎明期の作品は、いずれも”ロボットもの”という点だ。日本のテレビアニメーションは、ロボットアニメーションの歴史とともに幕を開けたことになる。
『鉄腕アトム』『鉄人28号』『エイトマン』の3作品は、ともに菓子および食品メーカーがメインスポンサーだった。『アトム』は明治製菓(現・明治)、『鉄人』は江崎グリコ、『エイトマン』は丸美屋で、いずれのメーカーも、パッケージやおまけシールにキャラクターを印刷した商品を販売したのである。
そこには、スポンサーが提供料を番組の製作元へ支払う見返りとして、番組に登場するキャラクターの商品を販売して利益を得るというビジネスモデルがあった。いわゆるテレビを用いた「マーチャンダイジング」である。
マーチャンダイジングとは、商品を買ってもらうための企画のことで、動詞型の「マーチャンダイズ」で呼ばれることも多い。日本のロボットアニメーションとマーチャンダイジングは、その歴史の始まりから密接に関係していたことになる。
食品のパッケージにキャラクターを印刷するだけでなく、キャラクターそのものを玩具にするというのは、当然の流れではありますよね。
一方で、少し遡った1966年には男児キャラクター玩具の世界によおいて、重要な商品が誕生した。その一つは特撮番組『ウルトラQ』『ウルトラマン』に登場する、マルサン商店(現・マルサン)のソフトビニール製怪獣。そして今井科学が発売した、人形劇『サンダーバード』で活躍する国際救助隊メカニックのプラスチックモデルである。これらは空前の大ヒットを記録して、玩具やプラスチックモデルといった立体物がマーチャンダイジングの核として注目されるきっかけとなった。
1974年に発売された、マジンガーZの「超合金」の開発についての話など、子どもの頃、「超合金」に夢中になっていた僕には、懐かしくも興味深いものでした。
超合金の開発ってけっこう大変で、開発に1年間もかかったけれど、『マジンガーZ』の放送が2年近くにわたったのが奏功したのです。
いくらすごい商品でも「今やっている番組」かどうかって、けっこう大きいですからね、とくに子供たちにとっては。
1975年に発売された「デラックス超合金」の第1号・勇者ライディーンは、玩具メーカーがロボットのデザインに直接タッチした、という点において革命的だったそうです。
村上克司さんという方がポピーの社員として勇者ライディーンのデザインに関わったのですが、ライディーンのシンプルでダイナミックな変形システムは、玩具としてのつくりやすさも考慮されていたのです。
マグネットを内蔵した人形(マグネロボット)は、人形の手足の付け根に金属球が付いていて、ボディの磁力を利用することで球体の関節を自由に動かせるというものでした。
この画期的なアイディアは、フィットするキャラクターを企画する段階でストップしていた。タカラとしてもアイディアを最大限に活かすため、慎重になって様々なスケッチが作成されるものの、決定打には至らない状況が続いていたのである。
しかしこの状況は、講談社「テレビマガジン」編集長・田中利雄氏の機転でブレイクスルーを果たす。
田中氏は、タカラの男児キャラクターの事業課長だった奥出信行氏を通じて、佐藤安太郎社長から「マグネロボット」のキャラクター化を依頼する。永井豪氏はスタッフの一人、安田達矢氏と協力して新たなロボットのデザインを描き上げた。それがのちの『鋼鉄ジーグ』だった。
「マグネロボット」は永井豪氏のエスプリを得ることで、ついに商品化に向けて動き出し、東映動画(現・東映アニメーション)制作によるテレビアニメーション制作も決定した。
「マグネモ」の名称が商品カテゴリーとして作られ、1975年10月のテレビ放送とさほど間を置かず、「マグネロボット マグネ鋼鉄ジーグ」が発売される。やがて「マグネモ鋼鉄ジーグ」は、1976年3月にはミリオンセラーを突破するほどの大ヒットを記録するーー。
「マグネモ鋼鉄ジーグ」は、「超合金マジンガーZ」がキャラクターの魅力を引き出すためにダイキャストを素材にしたこととは真逆のパターンで生まれている。磁石を用いた玩具のアイディアありきで、それを活かすためのデザインが行われたのだ。
この「マグネモ鋼鉄ジーグ」、僕も持ってました!
磁石だから、頭のところに足をつけたりして、「気持ち悪い!」なんて言いながら、よく遊んだものです。というか、「鋼鉄ジーグ」って、その記憶しかないや……
また「ガンプラ(「機動戦士ガンダム」のプラモデル)」が大ヒットした背景のひとつとして、こんなエピソードがあるそうです。
もともと300円という価格設定では、完成品の大きさにもパーツ数にもおのずと限界が生じてくる。それを踏まえてシリーズNo.4の設計図面を引いていたスタッフの村松正敏氏が、ふとあることに気がついた。
「これ、もしかして1/144になるんじゃないの?」
1/144といえば、模型ファンにはおなじみの国際標準スケールである。つまり全高約130ミリ前後のプラモデルと、身長18メートルという設定を持つガンダムが、偶然「1/144」というスケール規格において合致したのだ。その計算でいけば、700円サイズもちょうど1/100になる。
こうして、ガンダムのパッケージにだけ、例外的にスケール表示がなされるようになる。のちに開花するガンプラ標準スケールの始まりであった。
ガンプラの醍醐味は、何といってもその統一されたスケール感にある。単なるスケール表示ならば、過去の『ヤマト』にもあったわけだが、それは商品サイズから逆算した数字に過ぎなかった。同一スケールの完成品を並べて、その対比を楽しむという発想にまでは至っていなかったのである。
しかしガンプラは、1/144や1/100にスケール規格を統一したことで、映像に登場するモビルスーツを同じ現実空間に並び立たせることを可能としたのである。それはさながら、卓上で繰り広げられる一つの小宇宙ともいえる様式美であった。
現在でこそ当たり前のように取り入れられているスケール規格だが、当時のキャラクター模型においては、実に先駆的なコンセプトだったのである。
その先駆的なコンセプトが、最初から意図されたものではなく、ひとりのスタッフの偶然の気づきによるものだった、ということに、「ガンプラ」の強運を感じます。
ちなみに、ロボットアニメーションのマーチャンダイジングを劇的に変えたのは、あの『新世紀エヴァンゲリオン』でした。
1990年代のロボットアニメーションといえば、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)が最大のヒット作といえるだろう。本作のマーチャンダイジングの主体は、玩具ではなく映像ソフトであった。これは当時のビジネスモデルとしては、『機動警察パトレイバー』の前例があるとはいえ、かなり珍しいスタイルだった。
著者によると、『エヴァンゲリオン』のメインスポンサーにタカラがなるという話がかなり具体的なところまで進んでいたそうです。
最終的にはタカラ側が他の作品を選択したのですが、タカラがメインスポンサーであれば、『エヴァンゲリオン』は、また違った商品展開をされたり、ストーリーも変わっていたかもしれません。
かくして本作(エヴァンゲリオン」は、最終的に映像ソフトを主力商品とするビジネスモデルに辿り着く。結論としては、このプロジェクトは成功を収めた。ビデオカセットとレーザーディスク全14巻が、各巻平均で10万本以上売れているのだから、これがアニメーションビジネスの流れを変えなかったらウソであろう。
これがきっかけて、「テレビアニメーションは映像ソフトの売り上げで利益を出すことが主流となった」のです。
ただし、最近はCS放送やネット配信、レンタルなどの影響で、映像ソフトの売り上げも頭打ちになってきています。
超合金から、玩具で20年、『エヴァ』から、映像ソフトで20年。そろそろ、次のビジネスモデルが求められているのかもしれませんね。なかなか難しそうではありますが。
こうして、「商品」という立場からロボットアニメ史をたどるというのは、なかなか興味深い試みでした。
『鋼鉄ジーグ』とか、ロボットアニメ史ではあまり語られることがなくて、ちょっと寂しい思いもあったんですよね。
磁石で手足をめちゃくちゃに取り付けて遊んでいた人間にそんなことを言う筋合いはないかもしれないけれど。
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