琥珀色の戯言

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【映画感想】レジェンド&バタフライ ☆☆☆

あらすじ
尾張国織田信長(木村拓哉)は大うつけと呼ばれるほどの変わり者だった。敵対する隣国・美濃国斎藤道三の娘・濃姫(綾瀬はるか)と政略結婚という形で出会った信長は、彼女と激しくぶつかるが、今川義元との戦で一緒に戦術を練ったことから二人は固い絆で結ばれるようになる。そこから二人は、天下統一に向かって歩みだす。


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2023年映画館での鑑賞3作目。
休日の朝からの回を観たのですが、観客は70~80人くらい。
朝、それも8時台から映画を観る人って、けっこういるのです。

木村拓哉さんと綾瀬はるかさんという、いまの日本を代表するスターの共演、織田信長濃姫との壮大でツンデレラブロマンス、上映時間は168分。

プロモーションの一環として、木村拓哉さんが岐阜のお祭りのパレードに参加し、「撮影OK」という「神対応」だったことも話題になりました(この時代に撮影、拡散NGというほうが変だとも思うけれど)。

僕自身は、ちょうど同世代ということもあって、若い頃は同級生女子がみんな「キムタク大好き!」と言っているのを横目に「ケッ、何演じても『キムタク』そのまんまじゃねえか」と心の中で恨み節をぶつけていたものです。

でも、自分自身も年を重ねるにつれ、大スターであることを引き受け、飄々と(しているように見える)活躍を続けている木村拓哉さんや武豊さん、羽生善治さんの凄さを、「これは到底かなわないなあ、すごいなあ」と、けっこう素直に認めることができるようになった気がします。

ここでも何度か書きましたが「何を演じてもキムタク」だからこそ、大スターなんだよなあ、と。
高倉健さんと比べると、健さんのファンには嫌われるかもしれませんが、僕は「存在感」という点では、近い存在だと思っています。

木村拓哉さんの「神プロモーション」の影響もあって、観るまではすごく好感度が高かったのです、この映画。
これほど話題になっているし、観てみないとな、と。



でも、映画館で観て、僕はこの映画の世界観というか「ノリ」についていけなかったのです。

冒頭のシーンで、自分の顔のメイクのことばかり気にしていて、それを周囲の家臣が和気あいあいと茶化す木村信長。

違う違う違う、そうじゃなーい!

なんかもう、「ギャグに振り切ることもできず、冗長で残酷で意味不明な、劣化版『新解釈・三国志』みたいな映画」なんですよこれ。
『新解釈・三国志』も、小学生の頃から『三国志』マニアだった僕にとっては、褒められたものじゃなかったのですが。

るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督、『コンフィデンスマンJP』『リーガル・ハイ』『どうする家康』の古沢良太脚本、という豪華タッグなのですが、なんというか、この2人がそれぞれ得意なところを見せようとして、ことごとくスベっているのです。観ていてつらくなるくらいに。

大友監督はアクションシーンが売りなのですが、この映画でもっとも印象的だったアクションシーンは、入京した信長が濃姫と京の町で大立ち回りをやるところでした。
ものすごくつまらない理由で、というか、織田信長がそんなことでいちいち命懸けのケンカするなよ、そもそもそれオーバーキルすぎるだろ、と嫌悪感を抱かずにはいられない残酷シーンにドン引きです。

信長と濃姫が「実はお互いに惹かれ、信頼しあっていた」というのも、史実はどうかわかりませんが、いくらなんでも距離を詰めるのに時間がかかりすぎだし、信長の家臣団の描写も「雑」だとしか言いようがありません。みんなモブキャラ。「観客が歴史の知識で補完してね」ということなのでしょうか。
168分で信長の生涯を描くことそのものが難しいのだとしても、明智光秀の謀反の理由も「何それ?」という感じです。いや、1年かけてつくられたNHK大河ドラマでも、やっぱり本能寺の変の理由は、なんだかスッキリしなかったので、致し方ないのかもしれませんが、そこはもう少し丁寧な解釈をみせてほしかった。

細切れの残虐シーンばかり見せられ、「天下を取るというのはこんなに厳しいものなんですよ」ということにされても、ふたりの愛の軌跡を描いたつもりになられても、「まあ、あれだけ殺してきたんだから、因果応報だよな」という感じではありました。

大友監督、『るろうに剣心』シリーズでも、作品をつくるたびに、「登場人物がなんでこんな行動をするのか、どんどん理解困難になっていった」のです。
古沢良太さんも『リーガル・ハイ』とか、僕は大好きなんですよ。現代社会をモチーフにした作品で、軽妙なセリフやテンポがいい脚本を書かせたら、素晴らしい能力を発揮する人だと思います。
でも、この題材、この長さ、時代劇には向いてない、というか、「らしさ」を出そうとして、登場人物がかくし芸大会のコントみたいなことばかりやって、「重み」がない。
木村拓哉綾瀬はるか主演の「信長と濃姫」の物語を観にきたら、笑えないし、笑いに振り切れてもいない『勇者ヨシヒコと魔王の城』だった。

監督も脚本家も「向いていない作品に起用されて、そこで自分の持ち味を出そうとしたら、ことごとく裏目に出てしまった」という超不幸なマリアージュが、この『レジェンド&バタフライ』でした。

「歴史もの」として観ようとしている人がいれば、オススメはできません。もちろん、本当の史実なんて、2023年に生きている人は誰も知りはしないけれど、ツンデレラブロマンスをやりたければ、このスタッフ、キャストで、もっと低予算、短い上映時間で観客を満足させられたはずなのに。

この映画を観ながら、僕は心のなかで、「さすがにこれはないだろ……」と何度呟いたことか。

それでも、168分なんとか観ることができたのは、やはり、木村拓哉さんと綾瀬はるかさんというスターの存在感だとは思うのです。
キムタクか綾瀬さん、あるいはその両方を見ているだけで幸せ!という人は、観ても損はないかと。うーん、でも、この二人にこんなひどいことやらせるなよ、だったな、僕にとっては。

ある意味「ネタ」にはなる映画ではあります。
いろんなものを無駄遣いし尽くした168分。
これを大ヒットさせてしまうのだから、やっぱり木村さんと綾瀬さんすごい!とも言えるよね。

あと、綾瀬さんは弓がけっこう上手だな、と思いました(もと弓道部としての感想)。


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