琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】脱サラ41歳のマンガ家再挑戦 王様ランキングがバズるまで ☆☆☆


Kindle版もあります。

「王様ランキング」作者・十日草輔氏本人が、
自らの挫折と再挑戦の日々を振り返り描く、エッセイマンガ。

マンガ家を目指し、 がむしゃらにマンガを描いた20代。 だが、夢破れ、社会人生活を送る日々。
それから十数年後―― 諦めきれない夢に一区切りすべく、一大決心!
不安と挫折、 そして勇気と覚悟の再挑戦の日々がはじまり……。

コミックスでしか読めない描き下ろしエピソードや裏話など
約30Pを収録した全240P!


 『王様ランキング』面白いというか、独特の味わいがあるマンガですよね。
 この本、その作者である十日草輔さんが、若い頃に一度挫折したマンガ家という仕事に40歳を過ぎてから再度挑戦し、『王様ランキング』でブレイクするまでの物語です。

 この本によると、十日さんは、もともと「童話作家」と目指していたみたいです。そこからスタートしたから、『王様ランキング』のような作品ができたのか、と、なんだか納得してしまいました。

 童話作家志望から、「童話はどのくらい売れて、食べていけるのか」と考えるようになり、童話の市場の小ささとマンガで受け入れられる表現の幅広さから、マンガ家に「転向」するのですが、その際に研究のために、人気マンガ(たぶん『ワンピース』)を読んだときの話が出てきます。
 そのとき、もう十何年もマンガを読んでいなかったそうですが、人気マンガを読んで、「おもしろい、おもしろすぎる。人を楽しませようと徹底している」と打ちのめされたそうです。
 そうだよなあ、新人が描いたマンガだからといって、単行本が『ワンピース』より安いわけでもないし、読者が「新人だから」と評価を底上げしてくれるわけではありません(多少の「期待感」はプラスされるかもしれませんが)。
 基本的には『ワンピース』と同じ土俵で勝負しなければいけないのだから、マンガには多様な表現と大きな市場があるとはいえ、そんなに甘い世界ではないのです。

 僕もこうしてブログを書いていると、どうしても「自分が書いたもの」には「頑張って書いたのだから」と点数が甘くなってしまうのです。
 人気ブログと比較することそのものが、もうやめたくなってしまうルートではあるのですけど。
 
 この本を読んでいて感じるのは、十日さんは「人間関係に対する不器用さ」と「自分の仕事や趣味でのやるべきことを積み上げていくことに対する誠実さ」を併せ持っている人だということなのです。
 これだけ仕事に対する向上心があって、能力が高そうでも、「上司に対する言葉遣いがなっていない」という理由で、職場に居づらくなってしまうのが「社会」というものなのだよなあ。
 と言いながらも、僕自身も「相手のものの言い方」とかが気になりがちな人間ではあるのです。

 十日さんは、人気マンガを読んで、打ちのめされたあとも、それで諦めるのではなくて、「人気マンガから学んだこと」を箇条書きにして、創作を続けています。
 「すごいものをすごいと認める」のと同時に「そこから少しずつでも自分の向上につなげていく」というのは、かなり難しい。

 そういう「研究熱心さ」は、「他者からの評価に対して、心が揺らいで(舞い上がったり落ち込んだりして)しまうことにもつながっていて、読んでいて、「なんだか精神的にきつそうだなあ」とも感じます。
 コメントひとつですごく勇気づけられた話、というのは、裏を返せば、コメントひとつで傷つけられてしまう、ということでもあるでしょうし。
 そういう「他者から評価されることへの喜びと恐怖」みたいなことがかなり率直に書かれているのが、すごく印象的でした。
 こうして感想を書く側というのも、多かれ少なかれ、作者に「読まれる」ことがあって、それで、作者を傷つけてしまう可能性があるのです。
 そういう感覚が『王様ランキング』という作品につながっているのだろう、とも思います。

 ちなみに『王様ランキング』は、十日さんがずっと一人で考えて描いているそうで、単行本の描き下ろしのときだけ、編集担当者にネームを見てもらっているということでした。
 それだけ、「ちゃんと締切を守って確実に仕事をしてくれる」という信頼があるのでしょうけど、編集者側にとっては、「できあがってくるまでわからない」というのは、けっこう怖いことのはずです。
 十日さんの場合は、コツコツと自分の能力を磨いていたのと同時に、結果的に、仕事をしやすい、能力を発揮しやすい環境に自分を置くことができたのが大きかったのでしょう。

 正直、僕にとっては、読んでも参考になるとか、真似できるという類の本ではありませんでした。十日さんが毎日食べていた、という自炊のレシピを見ただけで、僕には無理だな、と(栄養をしっかり摂るためだけの食べ物、という感じなんですよ)。
 でも、「置かれた場所で咲こうとする」のではなく、「咲きやすい場所を自分で選ぶ」ことができるのが人間と花の違いなんだよな、とは感じたのです。

 僕はもうちょっと1ページあたりの情報量が多いマンガのほうが好みではあるのですが、「もう年だから、今から何かをはじめても手遅れだよなあ。でも……」という人は、一度読んでみて損はしないと思います。


王様ランキング(1) (BLIC)

王様ランキング(1) (BLIC)

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