- 作者: 山内昌之,佐藤優
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/11/29
- メディア: 新書
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- 作者: 山内昌之,佐藤優
- 出版社/メーカー: 小学館
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内容(「BOOK」データベースより)
長老派の信者ゆえに神に選ばれたと思い、わが道を突き進むトランプ。兄を粛清し、核実験で世界を脅かす金正恩。かつての盟友・メドベージェフ失墜の糸を引くプーチン。オスマン帝国への憧憬を持ち、大統領の権限を強化したトルコのエルドアン。低学歴のコンプレックスを抱きながらもイランの最高指導者となったハメネイ。世界を見渡せば国家指導者は独裁的な人物ばかり。「知の巨人」二人が首脳たちの「闇」と国際情勢の「裏側」を語り尽くす!
いまの世界を動かしている「悪の指導者」についての山内昌之さんと佐藤優さんの対談本。
山内さんは、この本の冒頭で、こう述べています。
本書のテーマは「悪の指導者(リーダー)論」です。世界では、トランプ・金正恩・プーチン・エルドアン・ハメネイなどといった独裁的な強者が台頭しています。
一見すると、彼らは何を考えていて、どのように動くのかがわかりにくい。それをなるべく冷静に分析して、明らかにするのが本書の役割です。
なお、ここで言う「悪」とは「悪源太(源義平)」などで使われるのと同様、猛々しく強いという意味も含んでいます。
この本で語られている「悪」は、道徳的な善悪というよりは「他者を寄せ付けないような絶対的な権力を握っている世界のリーダーたち」をあらわす言葉なのです。
太平洋戦争後の日本を生きてきた僕にとって、「独裁者」=「悪」というイメージは拭えないところはありますが、「決められない政治」の弊害、というのも存在しています。
ひとりひとりの国民の幸福はさておき、国家としては、独裁者に率いられたほうが「強くなる」ことも少なくないのです。
佐藤優:冒頭にも話が出たように、今や、独裁や強力なリーダーシップでないと国家が生き残りにくくなっているというのが、世界の傾向だと思うのです。独裁的な指導者がいない国家はもたないし、独裁的な国家でないと生き残れない。
山内昌之:それは時代が呼んでいるのです。
佐藤:そういう人物を出せない国は崩壊するわけです。朴槿恵のときの韓国のように。
韓国と北朝鮮はどちらが強いか。基礎体力は韓国の方があるはずです。韓国ではあれだけの混乱が起きた。北朝鮮は資金がない。だけれども、弾道ミサイルを打ち上げて、核開発ができるわけですから。今持っているカードであれだけの力を出せるのは、金正恩に非常に強いリーダーシップがあるということです。
山内:そういうことです。
北朝鮮がいくら核ミサイルで威嚇してきても、本当に戦争になってしまえば、経済力の違いで、アメリカや韓国(そして日本も)負けることはないだろう、と僕は思っていますし、多くの日本人も、そう考えているはずです。
だから、無謀な攻撃はしてこないはずだ、と。
でも、北朝鮮への経済制裁のニュースを聞いていると、これって、太平洋戦争前の日本みたいなことになるんじゃないか、と不安にもなるのです。
座して死を待つより、こちらから仕掛けてやろう、と思うかもしれないし。
北朝鮮のミサイル発射を受けて行われた巻末の対談のなかで、佐藤優さんはこんな話をされています。
佐藤:加えて言えば、北朝鮮との思想の違いを見ないといけないと思います。北朝鮮がなぜこれだけ強いのかというのには、思想の違いがあるのです。
私たちの思想は、第二次世界大戦後の日本とアメリカとヨーロッパの要素が統合したものです。一つ目は個人主義。二つ目は合理主義。三つ目は生命至上主義。この三つの要素が合わさっています。北朝鮮の場合は、そのうちの生命至上主義と個人主義がありません。ここが北朝鮮の非常に強いところなのです。金王朝にとって個人の命は、体制維持よりも優先順位が低いということです。
第2章で、北朝鮮が先制攻撃をした場合の死者の数を、朝鮮半島全体で100万人以上と示しました。最近、私が元外務省幹部から聞いた数字は、さらに増えて200万人くらいになるだろうということです。朝鮮半島で有事となった場合、これだけの犠牲者数を韓国やアメリカは耐えうるかということです。
一方、アメリカが先制攻撃をする場合は、生命至上主義によって、まず在韓のアメリカ人を避難させる必要があります。第2章でも触れたように、在韓アメリカ人の移動に1週間以上かかります。おそらく2週間程度はかかるでしょう。アメリカが先生攻撃をしかけるためには、このくらいの時間をかけて在韓アメリカ人を避難させなければならない。
その間に北朝鮮が動きを察知して攻撃を仕掛けてきます。アメリカが先制攻撃を仕掛けようとすれば、逆に北朝鮮から先制されるので、アメリカは先制攻撃ができません。
山内:そこが最大の問題点です。やや哲学的に言えば、「絶対矛盾的自己同一(相反する二つの対立物が対立を残した状態で同一化すること)」のようなものです。アメリカは北朝鮮よりも強大な軍事力を持ちながらも、北朝鮮には攻撃できないのです。
アメリカはもちろん、日本も韓国も、経済力や同盟国との関係を考えると、北朝鮮と全面戦争をすれば、国として負ける可能性は低いはずです。
しかしながら、国力の差があって、北朝鮮という国には資源的なメリットもほとんどないだけに、アメリカは、もし人口数十万人くらいの都市ひとつが核攻撃を受けたら、政権担当者に批判が集まるでしょう。
たとえ、北朝鮮を「滅亡」させたとしても、アメリカの国民の多くは「割に合わない」「なんでこんな戦争をやったのか」と感じるのではなかろうか。
北朝鮮側は、国の名誉のために全滅も辞さず、という覚悟で向かってくるはずです。個人の主義主張や生命よりも、国家の体制維持や思想のほうが大事なのだから。
もちろん、本当に全滅するまで戦うことはないとは思うのですが、「国民(や指導者たち)が許容できる犠牲」が違いすぎるのです。
こういう相手は、たしかに厄介だよなあ。
北朝鮮は、弱さを武器にしているというか、「いざとなったら、何をやってくるかわからない国」というイメージに支えられているのです。
佐藤優:ここで考えないといけないのは、政治体制は循環するということです。君主政が堕落したら僭主政になります。僭主政とは、簡単に言えば野心的な貴族などが平民の支持を得ながら台頭し権力を握ることです。次に少数の人間が国家の権力を握る貴族政が堕落すると寡頭政になります。民主政が堕落すると衆愚政になります。民主政治は、つねに衆愚政治に陥る要素をはらんでいるからです。
このように政治体制は循環するという見方が、ギリシアにあります。この視座で考えると、もしかしたら、今の大統領というのは選挙によって選ばれた王様なのかもしれません。トランプにしても、プーチンにしても、エルドアンにしても、選挙によって選出されてはいますが、実は君主政に近いような存在になっているのかもしれません。
さらに、あらゆる国で政治家の世襲が強まってきています。あるいは、いわゆるスーパーリッチによる富の世襲が強まってきています。これは一種の寡頭政なのかもしれません。
現在は大きなベクトルが民主政から寡頭政となり、さらに君主政の方へと動いている。我々は、このような歴史の流れの中にいるのかもしれません。
「独裁」や「右傾化」というのは、循環する歴史のひとつのステージであり、必然の流れなのでしょうか。
おふたりは、「世襲の政治家は、まず人気取りに注力しなければならない突然変異型よりも、政治家として優秀な人が多いのではないか」とも仰っています。
世襲の政治家は、基盤がしっかりしているから、票を集めるために右往左往しなくてすむ、という強みもあるのです。
今の時代が、人類にとっての「歴史の終わり」ではないのだと思います、たぶん。
後世の人々は、この時代をどんなふうに評価することになるのでしょうか。
あのとき、独裁者を止めておけば、と嘆息するのか、それとも、民主主義なんてまだるっこしいことを維持しようとしていた人たちがまだ存在していた時代なのか、と苦笑するのかな。
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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