琥珀色の戯言

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【読書感想】桂太郎――日本政治史上、最高の総理大臣 ☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
安倍晋三に抜かれるまで憲政史上、最長の首相在職期間だった桂太郎。第一次桂内閣時、ロシアの南下から日露戦争に至る、わが国最大の国難にあたり、命を縮めながらも打ち勝つ。その後は、藩閥出身でありながら、その権益を否定。さらに、原敬に代表される政友会の党利党略をも否定し、新たな政治制度を築くべく、新党を立ち上げた。しかしその構想は桂の死によって潰え、日本の権力構造は今も変わっていない。桂は日本政治の何を変えようとしたのか。桂が我々に提示した問題とは何か。桂の生涯と政治活動から、現代日本の問題点をあぶり出す。


 僕は歴史上の人物を採りあげた新書が好きで、書店でみかけると気になってしまうのです。
 この『桂太郎――日本政治史上、最高の総理大臣』なのですが、Amazonの売り上げランキングでも上位だし、名前は知っているけれど、どんな人だったのだろう……と思いつつ読み始めたのです。

 ちゃんと内容を確認してから買えばよかった……
 著者は倉山満という方で、ネット放送局「チャンネルくらら」を主宰されているそうです。太平洋戦争を「大東亜戦争」って書いているのを読んだ時点で、うーむ、って感じだったんだよなあ。

 僕がふだん岩波新書中公新書で読んでいる人物伝というのは、大学とかで教えている専門家が、学術的な史料をもとに、なるべく個人的な好き嫌いの感情を排して、客観的に書こうとしているのです。
 ところが、この『桂太郎』は、著者の倉山さんの好みや価値観満載なんですよ。

 岩倉使節団に参加した人たちの「その後」について紹介した記述より。

金子堅太郎→帝国憲法制定と日露戦争では活躍するも、枢密院で老害

牧野伸顕内大臣。佞臣ぶりがテロの標的になる。

津田梅子→津田塾女子大学創始者。帰国時、日本語を忘れる。

山川捨松→女子教育に尽力。婚期を逃すも大山巌と結婚。

国内政局の主要アクターは、政友会と山形有朋ー桂ー寺内正毅ラインの藩閥勢力です。伊藤博文はもはや、政友会に口出ししません。ですので、図ではカッコをつけています。政友会は西園寺公望総裁以下、原敬・松田正久が幹部として君臨し、尾崎行雄などの雑魚キャラを従えています。
 尾崎はのちに「憲政の神様」などと持ち上げられますが、演説がうまくてパフォーマンスが派手だっただけです。文句ばかりでこらえ性がなく、党籍をコロコロ替え、政治家として建設的なことは何ひとつしていません。言うならば、「国会議事堂に銅像が建ってしまった鳩山邦夫」です。ちなみに、鳩山の像はまだ建っていません。


 著者の倉山さんのファンであれば、こういうのを読んでニヤニヤできるのかもしれませんが、読みながら眉につばをつけていたら、眉がベトベトになってしまいました。
 たぶん、インターネット放送局で、自分のファンが観る番組であれば「もっとやれ!」みたいなリアクションが返ってくるのでしょうけど、歴史上の人物がタイトルについた新書で、こんな著者の好き嫌いによる評価や嫌味みたいなのばっかり書かれていたら、僕はドン引きです。

 もちろん、普通に紹介されている(であろう)人物もいるのですが、「信用できない語り手」による人物伝は、学者が書いた学術書よりも「読みやすい」「わかりやすい気がする」けれど、「こういうのを真に受けたらヤバいな」という警戒心のほうが先に立ちます。

 読んでも、桂太郎と言う人が、なぜ「日本政治史上、最高の総理大臣」だったのか、よくわかりませんでしたし。
 この本に書いてあることをある程度信用するならば、、桂太郎という人が、軍人出身でありながら、軍事行動そのものではなくて、インフラや外交など、軍政、あるいは政治一般に対する広い視野をもっていたこと、とくに日露戦争で日本を勝利に導いた大きな要因である日英同盟の成立に貢献したことがわかります。
 元老と政党、薩摩と長州の派閥争いのなかで、うまく両者の調整役を果たし、日本にとって激動の時代に、長期の政治的安定をもたらしたことも。
 ただ、桂太郎という人に、「政局をうまく立ち回るセンス」と「極端に走らないバランス感覚」「人を惹きつける魅力」があったとしても、「政治家として、日本の未来をどのようにしていきたかったのか」が僕にはよくわかりませんでした。
 「何がやりたかったか」なんて時代ではなくて、次から次へと押し寄せてくる難局をどう乗り切るか、というのが、最重要の課題だったのかもしれませんが。

 民主主義っていうのは、どうしても「目の前の選挙で票を集めて当選するための政策」を優先しがちになる、という弱点について考えさせられるところはありました。
 歴史を学ぶときに「ずっと同じメンバーの『元老』が、総理大臣を指名するなんて権力の寡占ではないか」と思っていたのですが、そういう仕組みだと、「国民に嫌われても、長期的にみてやるべきこと(それが歴史的にみて正しかったかどうかはさておき)」を進めていきやすい、というメリットもあるのです。

 桂太郎さんは、周囲の人に恵まれたともいえるし、本人は「調整役」だったけれど、人を見る目はたしかにあった、ということではあるのでしょう。
 日本政治史上、最高の総理大臣だったのか?と問われると、「日本にとって右肩上がりの良い時代の総理大臣ではあった」というところでしょうか。

 個人的には、この新書よりは、「物語」と認識した上で、司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』を読んでみることをおすすめします。

 いやしかし、こういう新書が売れてしまうのか……
 こういうのを新書として出してしまうのか……


桂太郎自伝 (東洋文庫)

桂太郎自伝 (東洋文庫)

  • 作者:桂 太郎
  • 発売日: 1993/04/01
  • メディア: 単行本

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