Kindle版もあります。
「気軽で便利で、安定の美味しさ」を味わえる外食チェーン店の魅力を愛情とユーモアをまじえて綴った
人気エッセイシリーズ
第1弾『気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』
第2弾『それでも気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』第3弾の最新作は、『地方に行っても気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』!
全国津々浦々の各地では、それぞれの土地で独自の進化をしてきた
「地方チェーン」があり、生活する人たちに密着している。
何を食べて育ってきたかを知れば、その土地に住む人のことが分かるなどというように
日本人に馴染み深い、寿司やカレー、餃子などの人気メニューが、それぞれの地方によって、
どんな道筋を経てきたのかを知ると「地方チェーン」は、もはや身近な異国と思えるほどに奧が深い。
たとえば、「551」という数字の並びを見聞きした時に、
関東と関西にそれぞれに住む人が「ある時とない時」の顔ほどに分かれてしまうほどだったり
回転寿司と言えば、北海道のあのチェーン店でしょ! いや北陸だろう、
それならば石川県か富山県、どのお店?などなど・・・。日本列島47都道府県の各地で愛され続けている「地方チェーン」の醍醐味をご堪能あれ。
僕自身も旅先などで知らない小さな店に入って、「ハズレ」だったり、お店の人にあれこれ話しかけられたりするのは苦手なので、勝手知ったる牛丼チェーン店やコンビニを利用することが多いのです。
『孤独のグルメ』とか観るのは好きなんですけどね。
fujipon.hatenadiary.com
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「人情あふれる個人店」の魅力がメディアで語られることが多いなかで、この村瀬秀信さんの『気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』シリーズには、すごく親近感があるのです。
チェーン店は「画一的」で「マニュアル通り」だからこそ、こちらも必要なサービスを気を遣わずに受けられる。
大当たりすることはないけれど、値段も味も「それなり」で良いのです。ひとりで食事をする時には。
最近は、新型コロナの影響でテイクアウト文化が根付いてきていて、チェーン店に入ることすら敷居が高くなっています。
でも、ウーバーイーツとかは、誰かわからない配達する人と自分の家の前でやりとりをするのは、けっこうハードルが高いのだよなあ。
さて、この本では、これまでの「全国的な、あるいは広範囲をカバーしているチェーン店」ではなく、日本各地の「ある地域では圧倒的な支持を受けているが、全国チェーンにはなっていない(していない)名店」が紹介されています。
『秘密のケンミンSHOW』に出てくるような店、といえばわかりやすいかもしれません。
僕自身、行ったことがある店も10軒くらいありますし、「えっ、これ全国チェーンじゃなかったの?」と思ったチェーン店もありました。
Joyfull(ジョイフル)。それは西日本における旅人のオアシス。修験者の宿坊。犬のおまわりさん。総店舗数656店。最近は関東にも増えてきたとはいえ、まだまだ希少。それでもファミリーレストランで出店数3位を誇る西日本の雄は、これまで西日本での取材中に何度も助けられてきた。宮崎のド田舎でスマホの電池も切れ、完全に孤立していたとき。日本海の寒風吹き荒ぶ島根の漁師町で遭難しそうになったときもそうだ。
そして、大分での夜。大分はジョイフル発症の地。海にも山にも温泉にも、大分中でその姿を見ることができる。そして筆者はまたしてもこの闇夜に浮かぶ黄色地に白の「J」の看板に助けられた。まるでおとぎばなしのようである。
店に入って、メニューを開けると、モーニングがある。時刻は真夜中。ここは時間の感覚が失われた竜宮城か何かだろうか。いや、そうではない。職業の多様化によって、起きる時間も朝食の時間も様々という現代人の感覚に合わせ、ジョイフルは24時間モーニングをやっているのである。2010年代の後半から長時間労働や不採算などを理由に、ファミレスやコンビニで深夜営業から撤退する企業が増えてきたが、そんな世の中にあいいても、ジョイフルはいまだ24時間営業を含む比較的長い時間オープンしてくれている非常にありがたい存在だ。
僕は40年くらい北部九州に住んでいるので、Joyfullは「存在するのが当たり前のチェーン店」なのです。値段が安いこともあり、高校時代には友人と寄り、大学の試験前に長居して勉強し、就職後、仕事で夜遅くなったときにもずっと利用してきたのです。
最近は、ファミリーレストランという業態そのものが、以前ほど流行らなくなってきているようですし、僕自身もJoyfullを頻繁に利用しているわけではありませんが、黄色い看板を見かけると、「おお、まだ頑張っているな」と安心するのです。
あまりにたくさんある(あった)から、全国チェーンだと思っていたよ、Joyfull。
有名YouTuber、ヒカルさんとのコラボメニューでも話題になっていますし。
これを書く際に調べてみたのですが、Joyfullって、600店以上もある「全国チェーン」ではありますが、東京都内には4店、大阪府には3店しかないんですね。都会の人たちには、珍しいファミレスなのかもしれません。
それぞれの生活している場所によって、地方の有名チェーン店のイメージは違うのです。
函館のハンバーガー店『ラッキーピエロ』や静岡のハンバーグ店『さわやか』のように、地元の人にとっては行きつけの店で、外から来た人にとっては観光地というか、訪れることそのものがひとつの目的・イベントになるようなチェーン店もあります。
僕の個人的な印象としては、「本当に美味しくてみんなが食べたがり、大量生産できるものは、全国チェーン店になっていくはず」なのですが、その地方でしか食べられない、というのも、今の世の中では「価値」になるのです。
『さわやか』は、ホームページがすでに美味しそうなのですが、『さわやか』自体は静岡県内に34店舗しか展開していなくても、同じような作り方のハンバーグを出す店は、30年くらい前から九州北部にもありました。美味しいものは、みんなが参考にするし、自らチェーン店にしなくても、全国に広がっていくのでしょう。
それでもやはり、一度は『さわやか』で「ホンモノ」を食べてみたいものだ、とは、ずっと思っているのですが。
私はついに来た。群馬県は沼田市・老神(おいがみ)温泉にある「ぎょうざの満州 東明館」。ギョーマンファンなら知らぬ者はいないだろう。埼玉・東京の西武/東武沿線が中心のぎょうざの満州であるが、ここ老神温泉は創始者にして初代皇帝・金子梅吉会長の故郷という特別な地。CMソングでもある「私たちには夢がある」は餃子の満州かキング牧師しか宣言できやしないだろうが、その夢はギョーマンファンたるもの「いつか東明館に行きたい」であるべきだ。
ただ、この「東明館」はギョーマンの保養施設ではない。その創業は満州事変より古い1930年という超老舗旅館である。2009年に経営不振で倒産した同旅館の湯を惜しんだ会長が、買い取って翌年に全面リニューアルオープン。温泉はそのままに、飲食部門にぎょうざの満州を一店まるごと超合体させたことによって、この世にも奇妙な「中華レストラン温泉旅館」が誕生したのだ。
こんな旅館があるのか……
地元民にとっては「えっ、知らないの?」という感じなのかもしれませんが、僕ははじめて知りましたし、こういうリーズナブルで肩ひじ張らずに食事ができる温泉旅館が近くにあればいいなあ、と思いながら読みました。
インターネット時代になって、世界中のいろんなことを知っているつもりになっていたけれど、「本当に地元の人に愛されているもの」って、けっこう「秘密」にされているような気もするのです。
この本の巻末の「あとがきみたいな特別編」を読みながら、僕は子どもの頃、亡くなった父親がよく連れていってくれた地元の中華料理店のことを思い出していました。そんなに高級でも特別でもなかったけれど、なぜか忘れられない場所。そこで食べさせてくれたニラレバ炒めは、レバーが苦手な僕でも美味しくて驚いた記憶があります。
そういう「忘れられない飲食店」って、たぶん、それぞれの人が持っていますよね。
父親は「いろんな店で、もっと高いものもたくさん食べさせたはずなんだけどなあ」と思っているかもしれないなあ。