琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【映画感想】マイ・エレメント ☆☆☆☆

火・水・土・風の“エレメント(元素)”たちが暮らすエレメント・シティで、火の女の子〈エンバー〉は家族のために父の店を継ぐ夢に向かって頑張っていた。火の街から出たことがない彼女は、ある日偶然、自分とは正反対で自由な心を持つ水の青年〈ウェイド〉と出会う。


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2023年映画館での鑑賞13作目。 平日の昼下がりの上映で、観客は50人くらい。
ターミナル駅にあるシネコンって、夏休みとはいえ平日の昼間でもお客さんがたくさんいるんですね。

これが観たい!というよりは、夕方まで時間が空いてしまったので、何かちょうどいい上映時間の作品がないか、という感じでした。
対立しあう火・水・土・風の4種類のエレメント(元素)が共存する都市のなかで、性質的に「他者を傷つけてしまう(燃やしてしまう)可能性が高い「火」のエレメントは、他のエレメントから差別されてきたのです。
故郷に居場所がなくなった主人公・エンバーの父親は、少しでも家族と良い生活をするために、エレメント・シティに店を構え、他の火のエレメントからも信頼されるようになっていきます。娘のエンバー(この物語の主人公)も、ストレスがかかるとカッとなりやすく、「爆発」しやすいという問題点はあるものの、家族と店を愛する「看板娘」だったのです。

そのエンバーが、自分とは正反対の、穏やかだがちょっと頼りない水のエレメントの青年と出会って……という話なのですが、観終わっての率直な感想は「ああ、2023年の『政治的に正しくて、エンターテインメント性もうまく取り入れた映画』のお手本みたいな作品だな」という小野でした。
親が子供に見せたい映画であり、子供からすれば、親に薦められてもあんまり気乗りしない映画でもある。

火や水のアニメーションでの表現のすごさには「ピクサー魂」を感じますし(というか、ストーリーはあえて「王道」で、映像をみる邪魔にならないことを重視しているのかも)、その映像を堪能するだけで十分なのかもしれません。

わかりやすく「人種や民族差別」を描いているのですが、「差別は理不尽だ!」と声高に叫ぶわけでもなく、差別する側にも「怖さ」を感じてしまう理由はあるし、主人公たちも「これまでの民族の伝統なんてクソ食らえ、これからは自由に生きるぞ!」と伝統を足蹴にするわけでもないのです。
先人がやってきたことやその「想い」を尊重しつつも、少しずつ相互理解を深めていけたら、というバランス感覚も伝わってきました。
どんなにそれを嫌ったり憎んだりしても、火のエレメントは、火の属性から逃れることはできない。
でも、「違う」ことによって、お互いができないこと、苦手なことをサポートし合うこともできる。

ああ、なんて教育的なんだ!

「おもしろくて、ためになる」映画ですし、アメリカでは前評判が今ひとつで、公開初週の興収は予想を下回っていたのですが、作品の内容が評価されて、口コミで公開後に成績を上げてきているそうです。
僕も正直なところ、この映画の予告編をみて、「また同じような作品か……」と思いましたし、劇場予告だけでラストまでの大まかなストーリーが予測できる(そして、その予測は外れない)映画でした。
まあでも、『君たちはどう生きるか』みたいに観ながら「これはどういう意味なんだ?」と終始考えさせられる映画ばかりでは疲れるし、「素晴らしい映像美+王道のストーリー」というのは、安心して観られるも間違いありません。

個人的には、エンバーがウェイドに、なぜそんなに惹かれたのかがわからなかった、というか、ウェイドに魅力をあまり感じませんでしたし、エレメントの相互理解を困難にしている「接触のルール」がいきなり無効化されてしまうという御都合主義が、なんだか納得いかないんですよね。それはそれで、「われわれが持っている『禁忌意識』みたいなものは、実際は思い込みに過ぎないんだ」というメッセージのようでもあり、とはいえ、その「相互作用」が無ければ「エレメントの世界」そのものが無意味になってしまうし……
「火と水」という、身近で、その性質を知っているものを題材にしているからこそ、すごく引っかかるんですよ。
「愛は全てを超える」よりも、「うまく接触できないなかで、どう工夫して関係を維持していくか」を観たかった気がします。

トイ・ストーリー4』のラストへの世間の反応が、製作にお金がかかり、失敗が許されないピクサーを「より一層、わかりやすい映画」に向かわせているのだろうか。

「観て損はしない。けれど、至極妥当な値付けのファミレスで食事をした後のような感じ」でした。ザ・佳作。


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