琥珀色の戯言

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【映画感想】ナイル殺人事件 ☆☆☆

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エジプトのナイル川をめぐる豪華客船内で、殺人事件が起こる。容疑者は、乗客全員だった。私立探偵ポアロ(ケネス・ブラナー)が捜査を進めていくうちに、それぞれの思惑や愛憎が絡み合う複雑な人間関係が浮き彫りになっていく。


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2022年5作めの映画館での鑑賞です。
観客は20人くらいでした。


原作はアガサ・クリスティの代表作であり、過去にも映画化されています。
僕も中学生くらいの時に原作を読んだ記憶はあるのですが、内容はほとんど忘れていました。

いまトリックを聞くと、「どこかで同じようなのを観たな」とも思うのですが、それは逆に、クリスティ作品が延々と「参考に」あるいは「引用」されてきたからでもあるんですよね。
登場人物の行動に対する違和感が見事に「解決」されるところなど、「お見事!」という感じでした。

僕はこのケネス・ブラナーさんのエルキュール・ポアロ、前作も「ポアロはこういうのじゃないんだけどなあ」と思い、2時間の映画だとダイジェスト版っぽくなるのも仕方がない、と納得しつつも、けっこう好きだったんですよね。
というか、「ポアロの時代と推理」が映像として現代に蘇ったこと自体がありがたかった。


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オリエント急行殺人事件』、2015年のお正月には、三谷幸喜さんの脚本で「日本版」として豪華キャストでドラマ化され、2夜連続で放送されたんですよね。
 ポアロといえば「灰色の脳細胞で、難しい事件を解決していく推理マシーン」みたいなイメージがあり、その「ちょっと傲慢で、感情による揺らぎがないところ」が魅力でもあるのですが、ケネス・ブラナーさんは、あえて「推理マシーンではなく、感情的な面を見せるポアロ」をこのシリーズで描いているのです。
この作品を最後まで観て、「うーん、こんなポアロ、僕はあんまり観たくなかった」のですけどね、正直言うと。
まあでも、エンターテインメント界も、ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)に厳しくなっていますし。

個人的には「らしくないよなあ」という否定的な感情と、「まあ、こういう解釈も映画的には有りかな」という気持ちが半々。
結局のところ、「名探偵がいても事件は起こって人が死ぬ、というか、これ、ポアロがいなかったほうが、犠牲者少なかったのでは……」とも、つい考えてしまうのです。
これはもう、『名探偵コナン』まで続いている、「名探偵の業」みたいなものなのでしょう。


新型コロナウイルスで海外旅行にも出られない日々で、この作品で描かれる、第二次世界大戦前のヨーロッパの貴族社会の豪奢な宴やエジプトのピラミッドやスフィンクスアブ・シンベル神殿の風景に、「旅気分」を味わえたのも事実です。
僕も生きているうちに、本物のピラミッドやスフィンクスを見てみたい。スフィンクスのすぐそばにマクドナルドがあるというのは、本当なのだろうか?
もちろん、この映画の舞台となっている時代にはマクドナルドのスフィンクス支店はありませんが、上流階級御一行様が、ピラミッドに登ったり、アブ・シンベル神殿にベタベタ触り、一部破壊したりするのをみていると、「世界遺産に何しやがる!」と物申したくはなりました(もちろんセットかCGでしょうけど)。ロゼッタ・ストーンとかモアイ像とかも大英博物館に運んでいますから、当時のヨーロッパの感覚ってそんなものだったのでしょうけど。

「観光的な楽しみ方もできるロードムービー」というか、『アマルフィ 女神の報酬』とか『ツーリスト』みたいな作品でもあります。最初の「事件」が起こるまで、けっこう時間をかけてエジプト観光風景を見せられますし。
いや、見せられるというか、むしろエジプト観光のほうが「見せ場」なのかも。


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映像として見ると、「いくらなんでも、それを見間違えるか?」とか、「いくら距離が近いからって、素人がそんなに正確に狙撃できるものなのか?」とか、余計な知識ばかり詰め込まれた僕のスカスカの脳細胞は反応してしまうのですが、クリスティ、ポアロの世界、そして『ナイル殺人事件』をこれだけの豪華キャスト、贅沢な映像で2時間楽しめれば、僕にとっては「お値段相応」ではありました。


原作未読の人は「予習」しないで観ることをオススメします。
あの時代に、こういう「愛のかたち」を描いたクリスティは本当にすごいというか、ショートショート星新一さんのように「全部一人でジャンルを掘り尽くしてしまった」ようにさえ感じるのです。


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