PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話
- 作者: ローレンス・レビー,井口耕二
- 出版社/メーカー: 文響社
- 発売日: 2019/03/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
PIXAR 〈ピクサー〉 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話
- 作者: ローレンス・レビー
- 出版社/メーカー: 文響社
- 発売日: 2019/03/15
- メディア: Kindle版
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内容紹介
ジョブズが自腹で支えていた赤字時代、『トイ・ストーリー』のメガヒット、株式公開、ディズニーによる買収……。
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ニューヨークタイムズも絶賛!
『PIXAR(ピクサー)』は、いまや、アニメーション映画のブランドとして揺るぎない地位を築いています。
アップルを追われ、ネクストもうまくいかず、過去の人と見なされつつあったスティーブ・ジョブズは、ピクサーでの成功がその後の劇的な復活のきっかけとなりました。
僕はこれまで、オーナーであったジョブズの伝記や、『トイ・ストーリー』をつくりあげたクリエイターたちの著者から、『ピクサー』をみてきたのですが、この本は、ジョブズにヘッドハンティングされ、ピクサーの財務責任者となった人が書いたものです。
著者は、ジョブズからのスカウトを受け、未完成作の試写と、この会社のクリエイターたちに接して、それまでの安定した仕事から、ピクサーに転職しました。
ピクサーが大成功をおさめた今となっては、まさに「慧眼」だったと言えるのかもしれませんが、当時の状況を客観的にみると、「無謀なチャレンジ」のようにしか僕には思えませんでした。
私がスティーブとピクサーの話を初めてしたのは、この10年ちょっと前、1994年末のことだ。そのころのピクサーは、スティーブのお金を5000万ドル近く使ったにもかかわらず成果らしい成果があがっていなかった。財務諸表に記された株主価値はマイナス5000万ドル。そのピクサーで、スティーブは、世界有数の金持ちになったわけだ。
私がピクサーにかかわったのは、スティーブと初めて言葉を交わした1994年から(ディズニーによる)買収の2006年までだ。このような経験ができたのはとても幸せなことだと思う。ピクサーについては、クリエイティブ面や制作手法の面からたくさんの著作が世に出ているが、私は、少し違う角度からピクサーを捉えてみたいと思っている。戦略や事業がどう絡み合い、ピクサーを成功に導いたのか、だ。
映画であれほどの成功を収めたのを見ると、ピクサーはストーリーを語る芸術の理想郷として作られ、クリエイティブな炎がぱぁっと立ちのぼったのだろうと思うかもしれない。私が見たものは違う。むしろ、プレートのぶつかり合いで山脈が生まれる様子に近い。プレートの片方は、イノベーション圧の高まりだ。つまり、美術的・創造的に素晴らしい物語を求める流れと、それを表現する新しい媒体であるコンピューターアニメーションの創出である。もう片方は、生き残らなければならないという現実世界のプレッシャーだ。具体的には資金の調達、映画チケットの販売、制作のペースアップなどである。このふたつの力が絶えずぶつかり合い、あちらでもこちらでも地震や余震が発生した。
1994年のピクサーは、つくっている短編アニメーション作品は抜群のクオリティだったのですが、まだ長編映画を1本も完成させておらず、公開予定の作品がどのくらいの興行収入をあげられるかわからない状況でした。
この作品が『トイ・ストーリー』として、その後のピクサー、ディズニーのアニメーション映画の偉大な歴史をつくるきっかけになったのですが、それまでのアニメーション映画のヒット作には『アラジン』や『ライオン・キング』があったくらいで、そんなに「客が呼べる」と考えられてもいなかったのです。
オーナーのジョブズも、ピクサーの志と技術に惹かれて漫然と資金援助を続けていたものの、アニメーション映画そのものが好きなわけではなく、ピクサーの社員からは煙たがられていたそうです。
偉大なクリエイティブ集団として知られている『ピクサー』なのですが、彼らには「経済観念」が欠けていました。というか、「そういうものには、興味がなかった」と言うべきなのでしょう。
その一方で、この会社に集まった才能たちは、ピクサーが株式上場した際には、ストックオプションで大金をゲットする、というのを目標にしていたのです。
著者は、『トイ・ストーリー』以前のピクサーについて、妻との会話でこんなふうに評しています。
「ピクサーは謎な会社だよ。あれほどの才能が集まっているのは見たことがない。しかも、みな、すさまじく努力している。なのに、やることなすこと、失敗か、将来の展望が得られないものばかりで、努力に見合うものがない。必死で走っているのに前に進めていないんだ」
引くに引けなくなって、資産を投入しながらも、結果が出ないことに苛立ちを隠せないジョブズと、「いいものを創っているのに、なぜ自分たちは報われないのか」と、こちらも不満だらけのクリエイターたち。
著者は、「お金」の専門家として、「どうやって、『ピクサー』を食える組織にするか」に粉骨砕身し、それを成し遂げた人でした。
アニメのセルは1枚も描かなかったけれど、この人のおかげで、ピクサーは「まともな会社」になったのです。
「財務担当者」って、ドラマでは悪者にされがちだけれど、本当に大事なんだよなあ。
著者は、作品を制作するクリエイティブ部門が注目されがちななかで、彼らを支える管理部門の人々の地位向上にも取り組んでいます。
ディズニー作品では、エンドクレジットに管理部門の社員を載せないのが伝統となっていたそうなのですが、粘り強い交渉の末、『バグズ・ライフ』では、最後に感謝のクレジットが追加されることになりました。
ただし、著者の名前は「役員だから」という理由でクレジットされなかったそうです(正直、なぜ役員だったらダメなのか、僕は理解できなかったのですが、これはディズニーからの「嫌がらせ」なのでしょうか、それとも、前例をつくると「自分の名前も入れろ」とねじ込んでくる人が大勢出てくることをディズニーが恐れたのか)。
つまり、ピクサー役員のなかで私だけ、名前がスクリーンに登場することなく終わってしまうわけだ。部下は全員登場するのに。
正直なところ、ちくりと来るものがあった。1回だけでもいいから、自分の名前が登場したらどんなにいいだろう。家族は大喜びしてくれるはずだ。でもそうはならない。それがどうした。望みを達成したのだ。言うべきことは決まっている。
「いいんじゃないですか。やりましたね。ディズニーへの申し入れ、ありがとうございました」
こうして、『バグズ・ライフ』には新しい種類のクレジットが追加された。エンドクレジットの最後、これでぜんぶ終わりだと思う瞬間、スクリーンの下から次の文字が上がってくる。
thanks to everyone at pixar
who supported this production
(映画制作を支えてくれたピクサー社員に感謝する)
続けて、財務やマーケティング、管理部門で働く社員の名前が登場する。ピクサーではいろいろな経験をしたが、これを初めて目にしたときほど満ち足りた気分になったことはない。その後、これがピクサー映画の伝統となったのもすごくうれしかった。
僕はけっこう多くの経営者の「自伝」的なものを読んできたのですが、この本を読んでいて驚いたのは、他者への悪口や批判が書かれていないことなんですよ。
部下への厳しさと容赦なさで、多くの有能な人々と喧嘩別れしてきたスティーブ・ジョブズでさえ、著者に関しては、大きな争いのエピソードもなく、近所だったので、「勝手に家に入ってきていいよ」と言われていたそうです。それは、ジョブズがすい臓がんで闘病していた晩年まで変わることはありませんでした。
そのほかの交渉相手たちに関しても、現場では丁々発止のやりとりがあったに違いありませんが、みんな魅力的な人物だったと書かれています。
そんな甘い世界じゃないはず、なのだけれど、こういう人だからこそ、みんなに信頼され、ピクサーに翼を与えて、羽ばたかせることができたのではないか、という気がします。
ピクサーから退任したあとの著者の「転身」は、ああ、いかにもあの時代をシリコンバレーで過ごした人らしいな、というものでした。
スティーブ・ジョブズも、もう少し長生きしていたら、同じようなことをやったのではなかろうか。
読み物としてすごく面白いし、「お金について知ること、うまく付き合っていくこと」の大事さを再認識できる本でした。
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