琥珀色の戯言

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【読書感想】背高泡立草 ☆☆☆

【第162回 芥川賞受賞作】背高泡立草

【第162回 芥川賞受賞作】背高泡立草


Kindle版もあります。

背高泡立草 (集英社文芸単行本)

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内容紹介
【第162回 芥川賞受賞作】

草は刈らねばならない。そこに埋もれているのは、納屋だけではないから。
記憶と歴史が結びついた、著者新境地。

大村奈美は、母の実家・吉川家の納屋の草刈りをするために、母、伯母、従姉妹とともに福岡から長崎の島に向かう。吉川家には<古か家>と<新しい方の家>があるが、祖母が亡くなり、いずれも空き家になっていた。奈美は二つの家に関して、伯父や祖母の姉に話を聞く。吉川家は<新しい方の家>が建っている場所で戦前は酒屋をしていたが、戦中に統制が厳しくなって廃業し、満州に行く同じ集落の者から家を買って移り住んだという。それが<古か家>だった。島にはいつの時代も、海の向こうに出ていく者や、海からやってくる者があった。江戸時代には捕鯨が盛んで蝦夷でも漁をした者がおり、戦後には故郷の朝鮮に帰ろうとして船が難破し島の漁師に救助された人々がいた。時代が下って、カヌーに乗って鹿児島からやってきたという少年が現れたこともあった。草に埋もれた納屋を見ながら奈美は、吉川の者たちと二つの家に流れた時間、これから流れるだろう時間を思うのだった。


 第162回芥川賞受賞作。
 読み終えたとき、正直、ホッとしたんですよ。
 ああ、これでもう、この文章を読まなくて済む、って。
 そんなにイヤなら途中で読むのをやめたらいいのに、と言われそうなのですが、いちおう、芥川賞受賞作を読むことは僕の中では「決まりごと」になっているのです。
 もちろん、芥川賞受賞作のすべてがつまらない、というわけじゃなくて、『火花』とか『コンビニ人間』みたいなエンターテインメントとしても面白い作品はあるし、円城塔さんの『道化師の蝶』や黒田夏子さんの『abさんご』のような、実験的で読みにくい作品が「意欲作」として評価されることもあるのです。
 個人的には、なんのかんの言っても、やっぱり「読みやすくて面白い」作品が好きなんですよ。
 ただ、芥川賞には、あくまでも新人賞+純文学の賞、という縛りがあるのも事実です。

 この『背高泡立草』は、僕にとっては馴染みのある九州弁(主に博多弁)で書かれているのですが、馴染みがあるだけに、かえって、内容がわかりやすくて、「草取りに集まった一家の話を方言で書いただけで、芥川賞とか、どんだけ方言好きなんだ?」と思ったのです。
 そして、表現がひたすらクドい。

 母と伯母はどちらも、せっかちかと思えばだらしなく、またそうかと思えば、ここぞのときにはやるにしても諦めるにしても決着が良く、概してあまり悩むことがなく、とはいえ全く悩まないわけでもなかったが、それを自分一人の占有にして大切の扱うことを好まず、忘れっぽく、良く怒りもすれば笑いもし、何につけても言葉に出してみなければ気が済まず、大体のことに対してはずけずけと仮借なく物を言い、ことに悪病な態度、病的であること、お役所式の杓子定規、狡猾さ、度の過ぎた鈍さ、執拗さ、冷たい心根といったものに対してあからさまに嘲りの念を込めて笑うのに一切の遠慮を持たないが、善いことを褒めるのにも少しも躊躇わなかった。


 「文学的」なのでしょうか、これ。
 この文体が、人間のリアルな思考の流れを描いていく際に活きている場面もあるのですが、こういう文章が延々と続くので、正直、うんざりしてきます。目が滑るというか、どんどん読み飛ばすようになってしまって、しばらくして内容が全く頭に入っていないことに気づいて、また前に戻り、というのを何度も繰り返してしまいました。劣化『ユリシーズ』みたいだ。ただし、この作品は、「短い」という一点においては、僕にとっては『ユリシーズ』よりすぐれた作品です。

 現在の「草刈り」の描写と、その土地でさまざまな時代に起こった出来事の断片が交互に語られていくのですが、正直、「つまんなくて読みにくい草刈りの話」の合間に「どこかで聞いたことがあるようなエピソード」が挟まれているだけで、こういう形式になっている必然性もあまり感じません。
 
 僕はこれを読みながら、『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』というゲームのことを思い出していました。
www.jp.playstation.com


 このゲームも、なんだかものすごく面白そうで、遊んでみたらあんまりよくわからず、画面酔いしまってつらかったな……

 選評を読んでみると、当初は「受賞作なし」になりそうな流れのなかで、なんとなく「せっかくだから受賞作を出そう!」ということで、浮上したのがこの作品だったみたいで、それはそれで、作者と作品が持って生まれた運があったのでしょう。
 そもそも、芥川賞の受賞作がすべて傑作というわけじゃない。
 というか、僕にとってはつまらなかった作品のほうが多いし、自分にとって面白くないであろう、ふだんは積極的に読まない「純文学」を読んでみる場にしているのです。

 これが芥川賞?なんて、もう言わない。
 面白くないときの芥川賞って、だいたい、こういう受賞作だよなあ、あーはいはい、みたいな感じでした。


コンビニ人間 (文春文庫)

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火花 (文春文庫)

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