琥珀色の戯言

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【映画感想】THE BATMAN-ザ・バットマン- ☆☆☆

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両親を殺害されたブルース・ウェイン(ロバート・パティンソン)は探偵となり、夜は黒いマスク姿でゴッサム・シティの犯罪者を懲らしめていた。しかし、権力者を標的にした連続殺人事件の犯人として名乗り出たリドラーが、警察やブルースを挑発。そして、政府の陰謀やブルースに関する過去の悪事などが暴かれていく。


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 2022年7作めの映画館での鑑賞です。

 本編が3時間近い長尺、というのを知って、ちょっと尻込みしていたのですが、当日は水分控えめにし、カフェインも摂らずに週末のレイトショーで観ました。平日の夕方からの回で、観客は10人くらい。

 正直、最初の1時間くらいは、画面もストーリーも薄暗く、アクションシーンは肉弾戦というか、痛みは伝わってくるけど派手さはなく、キャラクターもゴッサムシティも「病んでいる感」全開で、何度か寝落ちしそうになりました。
『アイアンマン』の「最新の超兵器っぽい感じ」やスパイダーマンの「軽やかさ」と比較すると、雑魚キャラにもけっこう殴られるバットマンは、みていて痛々しい感じもします。
 これだったら、『SING』の新作を観ればよかった……でも、なんというか、『SING』の「どうせポジティブが押し寄せてくる」のも、敬遠したい気分だったのです。
 
バットマン』ということで、『ダークナイト』を期待すると、「なんなんだこの盛り上がらない映画は……」とガッカリしてしまうかもしれません。
 3時間もあるんだから、どこかで盛り上がるクライマックスがあるはずだ!と思っていたのですが、結局、最後まで陰鬱な展開が続き、最後にちょっとだけ「ケアワーカー万歳!的な光明」がみえる、そんな映画なのです。

 正直、感想を書くのにも困ってしまう。
 ブルース・ウェインも、執事のアルフレッドも、相棒のゴードン警部補も、みんな地味。キャットウーマンも、なんだか『仮面ライダーV3』のライダーマンみたいで、「この人、結局何のためにいたんだろう?」と観終えて疑問になりました。やる気のない峰不二子、みたいな感じです。

 悪役がまた魅力の欠片もないというか、雑魚からボスキャラまで、存在感に乏しい。

 リドラーやペンギン、ファルコーネも、そんなに特別な悪役じゃないし、バットマンとの対決にカタルシスもない。

 謎解きも、よくわからない問題を、登場人物がノータイムで解決しまくる、という『ダ・ヴィンチ・コード』方式なので、観客は置いてけぼりにされた感じですし。


 うーむ、なんなんだこれは。『バットマン』の映画って、冗長になっても、上映時間を3時間にする決まりでもあるのか?

 ただ、僕は『バットマン』をハリウッド映画でしか観たことがないので、「こういうのが、原作に近い『バットマン』なんだよ。『ダークナイト』を基準にするのは『カリオストロの城』を基準に『ルパン三世』を語るようなものだ」ということなのかもしれません。
 アメリカではそれなりにヒットしているみたいですし。

 ただ、3時間観ていて、1時間半くらいからは「面白い!」とは思わなかったものの、「こういう陰鬱さや行き場のないやるせなさが『ゴッサム・シティ』や『バットマン』の本来の空気感なのかな……」という気分にはなってきたんですよ。

 物語とか事件を楽しむというよりは、ひたすらゴッサム・シティの雰囲気に浸る映画としての『バットマン』。
 
 まっすぐな「正義」ではなくて、「どんなに善い人、立派な人でも、後ろ暗い面や人には言えない秘密はあるし、自分や大事な人を守るために、道を踏み外してしまうこともある。
 
 僕はこの映画を観ながら、自分が中高生くらいのとき、「なんでもお金で解決しようとしているようにみえた父親」に反発しまくっていたことを思い出していました。
 
 でもさ、自分が父親が亡くなった年齢に近づくにつれて、「家族が生活や学費の心配をしなくて済み、あまり言うことを聞かない長男に『本だけは好きなだけ買ってやる』と言い続け、その約束を守ったこと」の凄さ、ありがたさがわかるようになってきました。
 親が子どもの面倒をみるのは当たり前、とは言うけれど、当たり前のことを当たり前にできる人間というのは、そんなに多くはないのです。
 いや、いろいろと「問題」を抱えた人ではあったんですけどね……

 子どものときに両親を殺されたブルース・ウェインに対して、ある人物が「それでもお前は食べ物に困ることも虐待されることもなく、お城のような家に住んでいたじゃないか」と、その「恵まれた環境」を指摘する場面があります。

 見る人の「視点」によって、人は幸福にも不幸にも「まだマシ」にもなる。
 僕自身も、バットマンやアイアンマンに対しては「スーパーヒーローではあるけれど、金持ちの道楽っぽい感じ」もするんですよね。
 スパイダーマンのピーター・パーカーも、MIT(マサチューセッツ工科大学)を受験していますし。
 そのあたりは、「お金持ちであることが正しいというアメリカ文化と、金銭を不浄に見がちな日本文化」という違いもあるのでしょう。

 「面白い」「楽しい」映画を観たい人には不向きな、長くて退屈で陰鬱、という作品ではありますが、ゴッサム・シティを漂ってみたい、あるいは、何もする気がしないけれど、何もしていないのも不安な状況の人には、向いている映画のような気がします。

 個人的には『ブレードランナー』に近い手触りでした。僕も『ブレードランナー』をリアルタイムで観たわけじゃないんだけど。


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