琥珀色の戯言

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銀河ヒッチハイク・ガイド ☆☆☆☆

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
銀河バイパス建設のため、ある日突然、地球が消滅。どこをとっても平凡な英国人アーサー・デントは、最後の生き残りとなる。アーサーは、たまたま地球に居た宇宙人フォードと、宇宙でヒッチハイクをするハメに。必要なのは、タオルと“ガイド”―。シュールでブラック、途方もなくばかばかしいSFコメディ大傑作。

書店で新装版の文庫を偶然見かけ、久々に読みたくなって購入したのですが、「訳者あとがき」の

本書『銀河ヒッチハイク・ガイド』はダグラス・アダムスの残した一大傑作であり、SF界においても古典的傑作と広く認められている。

という一文を読んで、なんだかちょっとしんみりしてしまいました。いや、この本がイギリスで最初に出版されたのが1979年で、日本で最初に翻訳されたのが1982年なのですから、考えてみれば「古典」と呼ばれるのは至極当然のことではあるのですけど、僕にとっては、『銀河ヒッチハイク・ガイド』っていう作品は、なんとなく、ずっと「ちょっと新しい作品」のようなイメージがあるんですよね。
僕がまだ小学生で「マイコン少年」だった頃の『ログイン』や『コンプティーク』などのマイコン雑誌には、巻末の白黒ページにさまざまな本、とくにミステリやSFなどの、当時の「マイコン好き」たちの趣味とシンクロするようなジャンルの本の紹介のページがあって、『ログイン』でこの本を安田均さんが紹介されていたのをよく覚えています。
当時の僕にとっての「SF」というのはまさに「大人のジャンル」であり、だからこそ僕はその世界に惹かれていたのですが、リアルタイムでの『銀河ヒッチハイク・ガイド』というのは、まさに「こんな不真面目なSFもあるんだ!」という新機軸の作品として、ものすごくセンセーショナルな扱われ方をされていたのです。僕はこの本をぜひ一度読んでみたかったのですが、もちろん学校の図書館に置いてあるような本ではなく、田舎の書店には置かれておらず、もちろん当時はAmazonもなかったので、ようやくちょっと都会の書店で風見潤さん訳のこの本を見つけたときには、とても嬉しかったのを今でも覚えています。
まあ、その頃の僕にはこの本の「面白さ」というのは一部を除いてあまりよくわからなかったので、逆に「こういうのが『面白い』ってものなんだなあ」と自分に刷り込みながら読んでいったんですけどね。今回あらためて読み直してみると、なんというか、この本の「センス」の素晴らしさは伝わってくるけれど、大部分の小ネタは、日本人にはわかりにくいよなあ、と感じます。初読の人が、いま、この作品を読んで「面白い」か?と問われたら、あんまり自信は持てません。僕がこの作品をいま読んで嬉しくなるのは、やっぱり「懐かしさ」とか「これを読むことによって、ちょっとだけ大人になって、他の人と違う人間になれたような気がした日のこと」を思いださずにはいられないから、なのかもしれません。
残念ながら、僕のSF遍歴は、この作品とハインラインの『夏への扉』が面白く読めたくらいで、J.P.ホーガンよりもハルク・ホーガンを見る機会のほうが多かったし、アーサー・C・クラークよりも「スターアーサー伝説・惑星メフィウス」の牢屋に何ヶ月も閉じこめられたりしてしまった程度のものに終わってしまったのですけど。J.P.ホーガンとかを「絶対に読んでおくべき本」とか言われたらつらいよねやっぱりさ。結局、高校時代に筒井康隆の作品に出会い、いまに至る、という感じです。

アーサーはがばと立ちあがった。
「フォード!」
フォードは隅に座って小さくハミングしていた。宇宙旅行に出るたび、宇宙旅行の実際に宇宙を旅行する部分はけっこう難儀だと感じる。彼は呼ばれて顔をあげた。
「うん?」
「きみがこの本かなんかの調査員で、それで地球に来てたんなら、地球のデータを収集してたんだろうな」
「まあね、多少は情報を付け足せたよ」
「それじゃ、その前の版になんて書いてあるのか読ませてくれ。どうしても読みたいんだ」
「いいとも、ほら」彼はまた本を差し出した。
アーサーはそれをしっかりつかみ、両手の震えを止めようとした。問題のページの項目を押すと、画面がひらめいて渦を巻き、やがて文字が現れてきた。アーサーは目を凝らした。
「なにも書いてない!」
フォードが肩ごしにのぞき込んできた。
「書いてあるよ。ほら、画面の一番下を見て。『エクセントリカ・ギャランビッツ。エロティコン星系第六惑星の乳房が3つある娼婦』のすぐ下」
アーサーはフォードの指を目で追い、それがさしているところを見た。一瞬なにが書いてあるかわからなかったが、わかったとたん頭が爆発しそうになった。
「なんだって、『無害』だって! たったそれだけ? 無害って、たったひとことじゃないか!」
フォードは肩をすくめた。「銀河系には何千億って星があるし、この本のマイクロプロセッサの容量には限りがあるんだよ。それに、地球のことはあまり知られてなかったんだからしょうがないじゃないか」
「そのへんは、きみが少しは直してくれたんだろうな」
「もちろんさ。新しい解説を伝送したよ。編集者が多少は刈り込んだけど、それでもこれよりはましになった」
「で、いまはなんて書いてあるんだ?」
「『ほとんど無害』」フォードはいささかばつが悪そうに咳払いをした。
「ほとんど無害?」アーサーはわめいた。

懐かしいこの件を読んで、僕のいままでの人生なんて「無害」と「ほとんど無害」の、そのまた何十億分の一くらいのものなんだよなあ、なんて、かえって心地よい気分になってしまいました。

"DON'T PANIC!”

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