- 作者: 林下美奈子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/05/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: 林下美奈子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/05/02
- メディア: Kindle版
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内容紹介
大人気番組のもう一人の主役による衝撃の告白。ビッグダディとの別居、離婚の真相はもちろん、父親からのDV、15歳で妊娠、元夫からの執拗なDV、2度の離婚、殺された元カレ、番組では隠さざるを得なかった2つのタトゥー、そして番組放映中にミイラ化して孤独死していた父親……。18歳年下の妻として一緒に過ごしたダディとの2年間、そして30年の壮絶人生を振り返る――。
Kindle版で読みました。
僕自身は『ビッグダディ』という番組をほとんど観たことがなくて、『めちゃイケ』で岡村隆史さんがやっていた『リトルダディ』のほうを観た回数が多いくらいです。
大家族っていっても、家族愛というより「それで生活に困るくらいなら、避妊しろよ……」というような「やれやれ」しか浮かんできませんし。
それなのに、なぜこの本を読んだかというと、「けっこう話題になっているし、いまちょうど手持ちの本が無いのにちょっと時間が空いている……読んでみるか」というくらいの感じだったんですよ。
Kindleおそるべし。
Amazonのレビューでは、かなり酷い言葉が並んでいますが、このくらいバッシングされていると、「どのくらい酷いのか、自分で確かめてみたいな」というのもあって。
読んでみて、僕はそんなに酷いとは思いませんでしたし、世の中にはこういう人がいるのだなあ、と、感心したんですよね。
ただし、それは僕が読書にかかる費用というのにあまり頓着しないからかもしれません。手元に使えるお金が1000円しかなければ、他にもっとやるべきことも、読むべき本もたくさんあります。
平凡な家庭環境で育っていたはずが、仕事がうまくいかなくなった父親からの暴力(それも「機嫌の悪いとき限定)や高校の中退、10代半ばでの妊娠、暴力夫との結婚、再婚、そしてダディとの結婚と性生活、孤独死した父親……
いやなんというか、大映ドラマかよ……とツッコミを入れてしまいたくなるような困難の連鎖です。
しかしながら、「忘れっぽいのが私の才能」と、美奈子さんはけっこうあっけらかんと生きている。
たった2年間の結婚生活でも「幸せだった」と言い切る刹那主義。
でもね、僕はこの本を読んで、「なんだこのバカ」とか「子供たちがかわいそう」って、言い切るほど、自分の人生に自信がなくて。
あらためて考えたことも多かったんですよ。
美奈子さんは、子供のころ、父親の機嫌が悪いときに暴力をふるわれていたため、父親の顔色ばかりうかがっていた、親から愛されたかった、と書いています。
不器用だけど、優しかったお父さん。
そんなお父さんが変わってしまったのは、あたしが中学に入ってからだった。
会社でイヤなことがあった日は、帰ってきてからあたしに手を上げるようになった。
お母さんにも、弟にもそんなことはしない。不満をぶつけるターゲットはたった一人、あたしだけ。
たしかに、もともとルールに厳しいところはあった。門限の6時を1分、1秒でも過ぎると家の中には入れてもらえず、外で延々と立たされ続けた。たとえ真冬でもそれは同じ。
でも、それはあたしがルールを破ったから。悪いことをしたら、叱られる。自分がやってはいけないことをしたんだ、だからしょうがないんだって、受け入れることができた。
だけど、ここまで理由のない怒りをぶつけられたことは初めてだった。
不機嫌な様子で帰ってきたときは、あたしを見つけた瞬間すぐに、
「家中を掃除しろ」
って命令。
掃除をするだけなら全然たいしたことじゃない。だけど、あたしの掃除は、お父さんの気が済むまで続けなきゃいけなかった。
「終わらない限り寝るな」
って言うけど、その”終わり”はお父さんの気分次第。眠ることも許されずに、一晩中床を拭いたり、ほうきで掃いたりを続けなきゃならなかった。夜中に眠くなってつい横になったりすると、
「何寝てるんだよ!」
って、扉をものすごい勢いで開けてお父さんが怒鳴り込んでくる。そのままグーで思いっきり殴られて、その衝撃と痛みで何度も気を失った。泣いたりすると、
「泣くな!」
ってさらに殴られるから、なんとか涙を流さないようにガマンするんだけど、やっぱり痛いと勝手に涙が流れてきちゃうんだよね。そのときはとにかく必死に謝るだけ。
「泣いてしまってごめんなさい」
って、何度も何度も土下座して……。でも、結局許してもらえたことは一度もなかったな。
殴られるだけじゃなくて、正座のまま説教され続けたことも何度もある。麻までだから、3〜4時間座りっぱなしは当たり前。足がジンジン痺れてきても、少し足をずらせば叩かれる。さらにはあたし専用のおしおき道具として、ホームセンターで直径5cmくらいの木の棒を買ってきて、それで腕や足をガンガン叩いてきた。
ちなみに、こんな状況下でも、お母さんは助けてくれなかったそうです。
美奈子さんは「お母さんも、お父さんが怖かったんだと思う」と仰っています。
僕は、自分の子供に接するときに「機嫌」を反映させていないだろうか?
子供にとっては、「親の存在は世界の半分くらい」なのに、親であることの責任を引き受けているだろうか?
「いい大人が、なんでも幼少時のトラウマのせいにしなくても……」とは思うのです。
似たような境遇でも、別の人生を歩んでいる人もいるからさ。
しかし、この本を読んでいると「(僕からみれば)もうちょっとなんとかならないのかという人生」にも、それを歩んできた人には、それなりの「流れ」とか「理由」があるんですよね。
改善の余地、とかタイミングはあったのかもしれないけど……
「天国への道を知るには、まず地獄への道を知ることだ」という有名な警句があります。
自分の子育てに自信が持てない僕としては、こういう「うまくいかなかった例」を知ることは、かなり参考になるのです。
子供に接する態度を自分の機嫌によって変えるとか、暴力をふるうとか、「よくない」ことはわかっている。
でも、「そうすると、こんな結果を生みますよ」というのは、実際には、なかなか表には出てこない。
それに、美奈子さんは、いわゆる「DQN」かもしれませんが、結果的には「なんとか子供を育てているし、犯罪行為を行ったわけでもない」。
要するに「ちょっと人生をこじらせてしまった、小市民」なのです。
有名人、芸能人、大成功者、そして大犯罪者でもない、それなりに生きてきた人の「普通のDQN人生」が、これだけ生々しく語られる機会って、そんなに多くはありません。
これ以上、子どもたちにつらい思いはさせられない。あたしの弱さは、あたしが一番良く知ってるはずだから。
もっと強くならなきゃ。あたしがこの5つの命を背負ってるんだから。なにか証を残さなきゃ。そう思った。
最初は日記を書こうと思ったんだけど、3日ぐらいで挫折しちゃった。あたしって身の回りの物、アクセサリーだってピアスだってすぐ無くしちゃうから、物じゃないほうがいい。じゃあなんだろうって考えたとき、「自分の身体に入れちゃえばいいんだ、その証を」って自然に思えたの。
誰かから勧められたとか、誰かの影響を受けたとかそんなんじゃなく、あたし自身がひとりで決めた。
「タトゥーを入れよう」って。
なぜ「タトゥー」?
ここを読むと、「やっぱり、こういう思考回路は理解不能だ、誰も得しないだろ刺青入れても。日記にしとけよ……」と思わずにはいられないのですよ、僕も。
でも、こういう人って、たぶん、この人だけじゃないはず。
正直、「こういう人もいるのか……」と本を読んで感じることと、「こういう人が実際に隣人にいる」のとでは、僕の感じ方も全然違うとは思うんですよね。
隣人だったら、あまりにも考え方の根もとが異質で、仲良く付き合っていくのは難しいかもしれない。
実際は、ネットにはまだまだこういう「普通の範疇に入る人生の記録」がたくさん埋まっているのだろうとは思うけれど、なかなか探すのも難しくなってきています。
さらにひどかったのはインターネットの書き込み。たいていはあたしたちのことをテレビでしか知らない人たちによるものだから、ウソ八百が並んでる。
あたしが小豆島に来てからも、「ダディの新妻が高松の三越で抱えきれないほどの買い物をしていた」って書かれたけど、高松に三越があることさえ知らなかったし。まだ豊田にいるころは、「いま、とある風俗にいるんだけど、隣にビッグダディがいる」って。「待合室にいるダディに『清志さんですよね』って聞いたら気さくに話してくれた」とかいう書き込みまであった。その日はあたしと一緒にいたから絶対にありえないんだけど、さすが「2ちゃんねる」だなーって。ムカついても疲れるだけだしね。
なかには、ご近所さんとか知り合いとか、あたしたち家族を知っている人にしかわからないようなことまで書かれたこともあった。誰が裏切ったのか、なんて疑心暗鬼になることもあったけど、そういう自分がつらくなるだけだった。
この本に対する反響として「子供がかわいそうじゃないか」というのもあります。
たしかに、この内容で子供がいじめられるようなことも、起こりうるかもしれない。
でもね、僕は「親が書いた本で子供がいじめられるようなら、それは、いじめる側のほうが悪いんじゃないか?」と思うんですよ。
そういうふうに「子供をダシにして、親を責める」というのは「ゲスの極み」。
この人の生き方が嫌いなら、そう書けばいい。
バカだと思うのなら、そう言えばいい。
「食べていくために、お金のために書いた」のなら、それは別に責められるようなことじゃない(子供の悪口は書いてないしね)。
仕事とか、お金を稼ぐってことには、そういう「暗さ」を伴う場合が少なくない。
そもそも、みんなそんなに立派な親なのだろうか?
別に犯罪をおかしたわけでもない、人生こじらせている女性を「バカだから」という理由で責めるような親は、それはそれで「子供がかわいそう」じゃないのだろうか?
僕みたいな「自分語りマニア」じゃなければ、読む必要はないです。
でも、個人的には、いろいろ考えさせられるところがありました。
「こういう人生」って、たぶん、「まったく見えない」人と「周りはこんな人ばっかり」の両極端に別れるのだろうなあ。