琥珀色の戯言

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【読書感想】上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白 ☆☆☆☆

上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白

上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白

内容(「BOOK」データベースより)
「50で人格崩壊、60で死ぬ」。医者から宣告を受けて20年―なぜ、オレだけが脱け出せたのか?「その後」に待ち受けていた世界はいかに??300万のアル中予備軍たちと、何かに依存しているすべての人へ。壮絶!なのに抱腹絶倒。


 アルコールは多くの人間にとって最も身近で、最強の麻薬である一方で、あまりにも「当たり前のもの」になりすぎて、規制することもできなくなっています。
 僕自身もお酒を飲むのですが、父親が毎晩飲んで帰ってくるのがイヤだった子供時代の記憶が残っていて、いまでも飲むことに罪悪感を抱いてもいるのです。
 ただ、今はなんとなく「飲まずにいられなかった理由」みたいなものもわかるような気がするし、もし、そういう体験がなかったら、僕もアルコール依存になってしまっていたのではないか、という気もするんですよね。基本的に「嫌いじゃない」とは思うから。
 そういう意味では、これも親の「身を挺しての負の教え」だったのかもしれません。


 この本、エッセイストの小田嶋隆さんが、自らのアルコール依存症体験について語っておられるものです。

 20代の終わりから30代にかけて、私はアル中でした。
 朝からジンの水割りを少しずつ摂取する生活を長年続けた結果、水さえ喉を通らない体調の日が定期的に訪れるサイクルに陥っていました。それでも、点滴を打って、飲むことを続けていました。自分は絶対にアル中なんかではない、と。疑うことさえしませんでした。
 やがて、あることがきっかけで病院に行くと、そこで医者に宣告を受けました。
「40で酒乱、50で人格崩壊、60で死にますよ」


 あれから約20年が経とうといういま、自分がアル中であったこと、脱アル中への道がどんなものであったかについて話をする気持になりました。
「アルコール依存は治らない。けれど”断酒中のアル中者”として、暫定的な断酒を一日延ばしに続行することはできるかもしれない」
 これが、一度アルコール依存症になった人について語られる言葉です。
 その意味で、いまも私は”断酒中のアルコール依存者”です。この状態は、坂道でボールが止まっているみたいなもの、だと言われています。
 ですから、多くの患者は、再び転げ落ちることになる。ほぼ、全員と言っていいかもしれません。
 にもかかわらず、私はなぜ、なんとか踏みとどまっていられるのか?


 小田嶋さんは、20年間お酒を断っているのですが、あくまでも「断酒中のアルコール依存者」だと仰っているのです。
 そして、アルコール依存について考えることにも怖さがあって、20年間、ずっと避けてきた、とも。
 世の中には、半年とか1年くらいお酒を断っただけで、「私はこうしてアルコール依存を克服した!」という「体験談」を語る人が少なからずいて、僕はそういうのを読むたびに「そんなの『一時停止』のような状態なのに、成功体験のように語って良いのか?」と思うのです。

 
 アルコール依存者本人の「体験談」が、面白おかしく語られがちなのに対して(深刻に語られても、読む人がいない、というのもあるのですが)、家族の体験談は、夫の鴨志田穣さんのアルコール依存で家庭が崩壊した西原理恵子さんが書かれたものをはじめとして、きわめて厳しい状況が描かれているものが多いんですよね。


 小田嶋さんは、この本のなかで、かなり客観的に自分自身とアルコール依存というものについて書いておられるような気がします。
 客観的に書こうとつとめている、と言うべきか。

 なんでアル中になっちゃうんでしょうね? 私もさんざん訊かれました。みんな理由を欲しがるんですよ。その説明を欲しがる文脈で、アル中になった人たちは、「仕事のストレスが」とか、「離婚したときのなんとかのショックが」とか、いろんなことを言うんです。
 だけど、私の経験からして、そのテのお話は要するに後付けの弁解です。
失踪日記2〜アル中病棟』の吾妻ひでおさんも言ってました。アルコホリックス・アノマニス(AA)の集会や断酒会など、両方に顔出して、いろんな人のケースを聞いたけど、結局さしたる理由はないことがわかった、と。「こういう理由で飲んだ」とこじつけているだけで、実は話は逆。
 まず、飲んじゃった、ということがある。
 飲んじゃったから、失業した、飲み過ぎたから離婚した、飲んだおかげで借金がこれだけできたよ、というふうに話ができていくのです。
 ではなぜ飲んだんですか、という問いには、実は答えがない。
 世の中で、アル中の話がドラマになったり物語として書かれるときに、やっぱり理屈がついていないと気持ちが悪い。止むに止まれぬ理由がないとドラマが成立しにくい。だから、飲むための理由を補った形で物語がつくられるわけです。
 だからあれウソ、だと思う。
 実際の話、嫌なことあって酒飲むとすっかり忘れられるかというと、そんなことはありません。あたりまえの話です。むしろ、飲み過ぎちゃったってことが逆に酒を飲む理由になる。あるいは、お酒がない、入っていないと、正常な思考ができない、シラフだとイライラしてあらゆることが手につかなくなる、そういう発想になっていくから飲む。
 アル中になる前に飲んだ理由は、別に普通の人が飲む理由とそんなに変わりません。なんとなく習慣で飲んでました、仕事が終わって一区切りで飲んでました。その程度のものです。


 人間は、自分自身や他人の行動に対して、「理由」や「物語」がないと、落ち着かないところがあるのです。
 原因と結果は、しばしば、都合によって入れ替えられる。
 失業とか失恋とか離婚とか、なんらかの「きっかけ」があって、「それなら、アルコールに逃げてもしょうがないよね」というストーリーがつくられがちなのだけれど、実際は、アルコール依存でおかしくなってしまった、というのが先にあって、それらの問題が生じていることが多いのです。
 むしろ、飲みたい側、飲みたい人を引き留める大変さに疲れてしまった側が、こういう「ドラマ」をつくってしまう。
 アル中になる人でも、飲んだ理由やきっかけは、特別なものではないことがほとんどだ、ということは、普通だと今思っている人だって、アル中になっていく可能性は十分にある、ということなのです。
 それは、知っておいたほうが良い。


 小田嶋さんは、アルコール依存の治療の際、主治医にこんな話をされたそうです。

 先生の言うには、アルコールをやめるということは、単に我慢し続けるとか、忍耐を一生続けるとかいう話ではない。酒をやめるためには、酒に関わっていた生活を意識的に組み替えること。それは決意とか忍耐の問題ではなくて、生活のプランニングを一からすべて組み替えるということで、それは知性のない人間にはできない、と。
 でも実際やってみるとそうでしたよ。だって、酒がない人生を一から設計し直す作業というのは、実際問題としてえらく人工的な営為じゃないですか。
 とにかく自然に振る舞っていると飲んじゃうわけです。
 これも先生の言っていたことなんだけど、「アル中さんっていうのは、旅行に行くのでも、テレビを観るのでも、あるいは音楽を聴くのでも、全部酒ありきなんだ」と。だから、音楽を楽しんでいるつもりなのかもしれないけれど、酒の肴として音楽を享受している。そういうところを改めなくてはならないから、これは、飲まないで聴く音楽の楽しみ方を自分で考えないといけないよ、みたいなことを言われました。


 小田嶋さんは、アルコールをやめることによって、音楽の趣味や読む本も変わってしまったそうです。
 アルコールに浸かってしまうと、「お酒と一緒じゃないと何をやっても楽しくない」という状況に陥りがちなのです。
 音楽や小説でも、「お酒を飲みながら、という状況に合ったもの」を選択していたので、酒なしだと面白くなくなってしまったのだとか。
 そこで、「やっぱり酒なしだと楽しくない、ダメだ」と思うか、「酒によって、自分の趣味は書き換えられていたのか」と考えるかで、その後は変わってくるのでしょう。


 僕は自分の経験上、アルコールに依存する怖さや周囲の迷惑を重視してしまうので、アルコールに対して(自分でも飲むのだけれど)否定的なことを書いてしまいがちなのですが、アルコール=悪なのか、という問いに関しては、「うまく付き合える人にとっては、良い面も少なからずある」ということも理解しているつもりです。
 

 タバコやめてちょっと残念なことは、なんとなく一段落したときにタバコ吸ってほっとした感、というのが他ではなかなか得られない。それくらいなものですよ。あとはね、100のうち99はいいことです。
 だけど酒をやめたことに関しては、プラスマイナスを考えればトータルでは間違いなくいいことのほうが多いんだけど、でも失ったものもないわけではありません。
 たとえばの話、私の人生に四つの部屋がある。とすると、二部屋くらいは酒の置いてある部屋だったわけで、そこに入らないことにした。だから二部屋で暮らしているような感じで、ある種人生が狭くなった。酒だけではなくて、酒に関わっていたものをまるごと自分の人生から排除するわけだから、それこそ胃を三分の二取ったとかいう人の人生と一緒で、いろいろなものが消えた気がしているのは確かです。
 4LDKのなかの二部屋で暮らしているような、独特の寂しさみたいなものがあります。


 たぶん、広い部屋を有効に使える人と、持て余してしまう人がいるだけ、なんですよね。
 そして、生き延びるためには、何かを捨てなければならないことがある。
 この本は、すでにアルコールに依存している人には、あまり効かないと思います。
 「もしかしたら、これからアルコールに依存してしまうかもしれない『普通の人』が、自分の現在地を確認するための本」としておすすめしたい。


fujipon.hatenadiary.com
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