琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

クローズド・ノート ☆☆☆☆

クローズド・ノート

クローズド・ノート

内容(「BOOK」データベースより)
私の部屋に置き忘れられた一冊のノート。はじめは手に取るつもりもなかったのに。そのノートを開きはじめたとき、私の平凡な日常は大きく変わりはじめる―。『火の粉』『犯人に告ぐ』の俊英が贈る、2006年最初にして最高の物語。携帯サイトでの連載時から感動の声が続々。100万アクセスを突破した、切なく暖かい恋愛小説。

 僕はこうしてほとんど毎日ネットに文章を書いています。そして、自分で書くのはもちろんのことなのですが、「見ず知らずの他人が書いた文章を読むのも好き」なんですよね。とくに、「他人に見せることをあまり意識していない日記」には、ついつい心惹かれてしまうのです。というわけで、この作品の設定は、まさに僕にとっては「ツボ」に嵌っていたのです。

 しかし、実際に読み終えてみての感想を率直に書かせてもらうと、もともとは携帯小説として少しずつ連載されていたということで、こうしてまとめて読むと、とにかく「長いわりに内容が薄い!」という印象を受けました。とくに出てくる登場人物の造形が甘いというか薄い。登場するキャラクターは類型的でまったく「心」や「迷い」が感じられないし、長い連載期間で作者も途中で忘れてしまったせいか、後半は、「いや、この人物は、そんな言動はしないだろ……」と作者に突っ込んでしまいたくなる場面も多かったのです。ほんと、僕に言わせれば、出てくる人々のすべてがウザい。
 さらに、肝心のノートが開かれるまでの前置きが冗長でダレますし、作者が仕掛けていた(と思われる)謎は、物語の中盤くらいには、多くの読者にはもうバレバレ。そして、感動させようと思って書かれた部分は押し付けがましくて上滑り。
 ほんと、こんなので「感動」できる読者が羨ましい……

 僕にとって、この作品で「魅力的だ」と感じたところは、万年筆についての薀蓄と真野伊吹先生の日記のなかの「先生としての仕事について書かれた部分」だけでした。それを楽しみに読んでいたんですけど、後半は先生の恋愛話メインになってしまっていて、かなりがっかりです。いやほんと、自分が大人になって、「先生」なんて呼ばれる仕事についてみてはじめてわかったのだけど、昔、僕たちが「先生」と呼んでいた人たちも、みんな普通の人間で、いろいろと試行錯誤したり落ち込んだりしながら、大変な仕事をやっていたのだなあ」とあらためて感じました。「先生の目からみた自分が受け持っているクラスの風景」のところだけは、本当にすばらしかったのです。

「魅力的じゃない人物が、ありきたりの「感動的な」言葉を連ねている、薄っぺらい『ドラマチックな』小説」に興味がある方は、ぜひ御一読ください。でもさ、最近売れている本って、こういう「いかにも映画化してください、っていうお涙頂戴話」ばっかりだよね。そして、予定通り映画化されて売れてるみたいだしさ。
 しかし、香恵って絶対「エリカ様」のイメージじゃないだろ……
 竹内結子の伊吹先生は観てみたいような気がするんだけどねえ。

 ただ、僕がこんなにけなしまくりながら☆を4つつけたのには、理由があるのです。
 ひとつは、なんのかんの言いながらも、このけっこう厚い本を最後まで続きが気になって読んでしまったこと。
 そして、もうひとつは、この本に隠された、「もうひとつの秘密」に心を打たれたこと(それに関しては、ネタバレになってしまうので後で)。
 まあ、流行りモノは抑えておきたいという人と、学校の先生を目指している人には、オススメしてもいい本なのかな、とは思います。それ以外の人は、文庫待ちか現在公開中の映画がレンタルになったときに観れば十分なのではないかと。

 
 以下はネタばれですので、未読の方、今後この本は絶対に読まない、という方以外はご遠慮ください。


 本当にネタバレです!!


 僕が本当に「心を打たれたこの本の『秘密』というのは、「あとがき」にあった【この小説に出てくる真野伊吹先生日記の学校での出来事を描いた部分は実在のもので、事故で早逝された作者の雫井脩介さんのお姉さん(小学校の先生をされていたそうです)の遺品(勤務当時のアルバムや文集、学級通信や生徒たちからもらった手紙など)をそのまま、あるいは加筆をして作中に使ったものである】という話でした。
 これを読んで、「だから伊吹先生の学校の話はあんなに生き生きとしていて心を打たれたのだな」そして、「先生の後半の恋愛話は、それに比べて妙に薄っぺらくてつまらなかったんだな」と思いました。
 でも、それは雫井さんのせいではないのです、たぶん。
 だって、そういう「リアルさ」というのは、絶対に「作られた物語」には出せない色なのだから。

 そして僕は、そんな「お姉さんが残したもの」をなんらかのかたちで世界に遺そうとした雫井さんの気持ち、なんだかすごくよくわかるような気がしたのです。だから僕は、その「伊吹先生の日記」と作者のお姉さんへの愛惜の情への共感を加味して、☆4つを謹呈します。本質的な作品への評価とは、ちょっと違っているのでしょうけど……
 この小説が、本物の『クローズド・ノート』から生まれたのだ、とういうことを考えると、やはり僕も、センチメンタルな気分に浸ってしまいます。そして、自分が小学生だったころ、いかに「先生」たちに対して無慈悲で無頓着だったのか、ということも反省するばかりです。
 しかし、『ネット上の日記』や『ブログ』って、本質的には、いつ『クローズド・ノート』になってしまってもおかしくない性格のものですよね。たぶん僕がいまこうして書いているあいだにも、「永遠に更新されることがない日記」が、たくさん生まれているのでしょうね。

 
 

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